第56回
2019.11.06
堀川流「探究」のひみつを探る! 第3回
京都市立堀川高等学校
今、高校教育においてホットイシューのひとつとなっている「探究」。次期学習指導要領の実施に向けて、探究を取り入れた授業づくりに取り組まれている先生方も多いのではないでしょうか?
よりよい探究についてのヒントを探るべく、今回スタッフが伺ったのは京都市立堀川高校。20年前から探究を柱としたカリキュラムを実施している高校です。
第3回・第4回では、副校長 平井啓明先生へのインタビューの様子をお伝えします。堀川高校における探究の位置づけや先生方の頑張りを支える様々なサポートなど、管理職ならではの視点からお話しいただきました。
わからないことを一緒に面白がる
——井尻先生が、課題設定の難しさについてお話されていましたが……。
平井先生
2年生から本格的な探究活動をスタートするので、課題を絞り込むのは1年生の最後になります。ただ実際には、2年生なっても決められていない子もいて、ほんとにしんどい思いをしていますね。僕もちょこちょこ授業見に行きますけども、決まらなくて泣いてるとかいう子もやっぱり出てきます。教員も、もう「こんなんする?」「こんなん好き?」言うて楽にしてあげたい気持ちもあるけど、それでも「生徒に考えさせる、自分は待つんだ」っていうのは一番しんどいって言います。
——徹底的に生徒の関心を大事にされているんですね。先ほども、教師の資質や態度として、「生徒に教えられる」ことよりも「生徒の関心を面白がれる」ことが大事なんだというお話がありました。
平井先生
分からないことが出てきたときに先生に聞いて、先生が答えられなかったら、「あ、この先生頼んない」というふうに生徒が思ってしまうこともあるかもしれません。でも、先生にも分からないことがあっても、生徒と一緒に面白がって「こんなことは考えられないか」って話に乗ってくれて……というところで信頼関係をつくれているのが、「この学校面白いな」と思っていて。だから生徒も「先生、先生」ってどんどん言うてくるし、先生もほんとは分からんままに、いったんは突き放しながら、実は自分でも調べたりしているっていう。「俺はこう思うけどな」とたまには出して「どう思う?」という、このやりとりが面白いという先生も多いと思います。
——午前中に授業を見せていただいたなかでも、別のグループの問題関心を聞いていた生徒が、「その問題は最近ホットで……」とコメントする場面が見られたりして、相手の関心をリスペクトするという雰囲気がすごくあるように感じました。先生もそうだけれど、生徒どうしでも相手の関心をリスペクトするというところは、共通しているのかなと思いました。
平井先生
ありがとうございます。
管理職と教員のコミュニケーションも「ひとつの探究活動」
——探究を担当している先生方から、相談を受けたりすることはありますか?
平井先生
校長室は普段から戸を開けっ放しにしているんですけど、そうするとみんな勝手に入ってきて、勝手に何かいろいろ言うていきます(笑)。相談もあれば管を巻くっていうのもあって本当にいろいろですが、やりとりは常にありますね。こっちがわざわざ呼んで「こうしてほしい」みたいに言わなくても、向こうから「ちょっと今こんなこと考えてるけど、どう思いますか?」と来てくれる。この形はすごくうまくいっているな、と思っています。
これもひとつの探究活動じゃないですかね。先生方が自らアイデアを持ってきたり、管理職としても思いを伝えて、さらにそれについて先生方の間で揉んでもらって……。この学校ではそういう面白いサイクルができてるな、と。生徒にさせているのと同じことを、意識的かどうかは分かりませんけれども、先生もうまくやってるな、と思いますね。
——最近あった相談事のなかで、印象に残っているのは?
平井先生
基本、相談というか、おねだり系が多いですね(笑)。「こんなことしたいんや」ってアイデアをみんな豊富に持っていて、「ただ、これやるにはお金が要る」とか「人が要る」とか、その相談はやっぱり管理職のところにきます。難しい部分もありますけど、極力「それはもちろんだ」「このアイデアは面白いな」とこっちも受けとめて、リソースはどこかから取ってきて、という形です。
最近では、これまで校内の体育館でやっていた他校種合同のポスター発表会を、京都で一番大きな会場を借りて「京都探究ポスターセッション」っていう形でやる、ということがありましたね。これまでも、小中学校の生徒にも来てもらったりして、堀川で探究活動を見せるひとつの晴れ舞台だったんですけど、希望者が多くなってきたので規模を大きくしたい、と。でも、最初「そんな金どこにあんのや」とか「大きくぶち上げて、参加者集まらんかったらどうすんの」とか……。でも、そこからだいぶ頑張ってくれて、企業も出展してくれるというところまできたんですね。公立高校のイベントに企業が集まってくれるっていうのも、面白いかなって思いますし。
学校の「推し=特色」をアピールする
——少子化のなかで、卒業生のコミュニティをつくったり、小中学生にアピールしたり、公立とはいえ学校のファンを獲得するというのが大切になってくるのかなと思います。ポスター発表会のようなイベントを行うというのも、そうした取り組みのひとつと考えてよいのでしょうか?
平井先生
おっしゃる通りです。公立高校が今まで一番苦手やったところやと思うんです。私立高校が生徒を募集するという工夫をほんとに早くからしていた一方で、公立高校はだいぶ後手に回った。
ファンの獲得というところでは、結局、取組そのもので「いいな」と思ってもらうのが一番だろうと思います。なので、うちが今一番推している探究を、中学生に「それって面白いんや」「意味あることやな」と思ってもらう仕掛けが大切になってくる。そういう機会をどうつくるか。
平井先生
ポスター発表会もそうですし、他にも、各中学校の先生を集めて研修会をしたりとか、時には中学校に出向いてミニチュア版を実践したりとか。あるいは反対に、中学生にうちの学校に来てもらって、探究活動を体験してもらう取組もあります。「探究道場」といって元々は教員がやっていたのですが、今では生徒が担当しています。今ではうちに入学してくる生徒の何人も「中学校時代、探究道場に来ていました」っていう子たちなので、やっぱりそういう意識づけは大事だなと感じています。
——実は、同じ京都市立の西京高校でも取材させていただいたのですが(ご参照:前編・中編・後編)、堀川高校も西京高校も「特色ある学校づくり」をかなり強く意識されている印象を受けました。
これからの時代、学校の特色を出していくことがより重要になっていく一方で、「自分たちの学校の特色って何だろう?」というところから難しさを感じている学校も多いのではないかと思います。「特色ある学校づくり」に踏み出すためのポイントやコツがあれば、ぜひ教えてください。
平井先生
うーん、本当に難しいですよね。
でも僕、前任校(京都市立日吉ヶ丘高等学校)で「英語村」のプロジェクトにかかわったときの経験から、教員を巻き込めるかどうかっていうのが大きいと思っているんですよ。ワイワイとアイデアを出してくるような教員を何人か巻き込んで、教員サイドからもいっぱい意見を出してもらいながら取り組むっていうのが、やっていて面白かったんです。有効かどうかはちょっと分からへんですけども、本当に楽しかった。
全員は絶対無理です、でも一緒に面白がってくれる何人かを巻き込む。そのとき鍵になったのは、やっぱり若手教員でしたね。柔軟に考えて「こんなことしたい」「あんなことしたい」っていうのをたくさん出してくるっていうのは、若手教員が多いように思います。
>>>第4回に続く
第4回では、引き続き、堀川高校 副校長 平井先生へのインタビューの様子をお伝えします。働き方改革時代の「挑戦」、次世代のスクールリーダーの育成、高大接続改革など、管理職としての思いをお伺いしました。次回更新をお楽しみに!
京都市立堀川高等学校は、1943年新制高校の発足にともなって再編成された、京都市立高校のひとつ。前身は1908年設立の京都市立堀川高等女学校で、今年度で創立101周年を迎える。平成11年度より普通科・人間探究科・自然探究科の三つの学科が設置され、約20年にわたって探究学習を軸にしたカリキュラムづくりが行われてきた。
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取材
田中 智輝
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取材
村松 灯
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取材
町支 大祐
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取材
渡邉 優子
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撮影
村松 灯