マナビラボ

第21回

2019.07.24

京都市立西京高校の「特色」を支える戦略(前編)

 

特色ある学校づくりは、今日の学校教育について考えていくときの重要な課題の一つになっています。とはいうものの、実際の「特色ある学校」とは、どのようなものなのでしょう?また、学校における特色づくりは、教師のどのような活動によって可能になっているのでしょう?

「特色づくり」特集第2弾となる今回は、京都市立西京高等学校エンタープライジング科をご紹介します。マナビラボ・プロジェクトでは、2018年7月と10月の2度にわたって同校におじゃまし、エンタープライズ教育の立ち上げから今日までの歩みについて伺ってきました。エンタープライジングという特色を打ち出していくことと教員組織の特質はどうつながっているのでしょう。

今回から前編・中編・後編の3回に分け、同校についてご紹介させていただきます!

IMG_3620 (1)

 

そもそも、エンタープライズ教育とは…

エンタープライズ教育とは、「進取・敢為・独創性」という西京高校の校是のもと、「社会人力」を育成し、将来その力を十分に発揮し、社会に貢献し活躍できるグローバルリーダーを育成する教育のことである。

ここでいう「社会人力」とは、深い知の世界に興味を持ち続け、他者や多様な価値観を認め尊重し、積極的に社会に参画しようとする力を意味している。

IMG_2747 (1)

 

カリキュラムの概要

西京高校は、上述のエンタープライズ教育を実践する専門学科高校である。同校のカリキュラムにおいては、2年生から自然科学系(理系)と社会科学系(文系)のコースに分かれて学習するため、1年次に幅広い教養を身につけることを目指し、理科の基礎科目はすべて1年次で履修することになっている。

大学への進路実現を図るための普通科目、より発展的な学習に挑戦する専門科目(英語系・情報系)、およびエンタープライジング科独自の取り組みである「エンタープライズ」(「総合的な学習の時間」に相当)が、週5日35時間の授業の中にバランス良く配当されている。

取材に伺った2018年は、次期学習指導要領実施に向けて4年間の実施計画を策定し、校内での研究を進めるとともに、教育目標の見直しも含めた第三次西京改革のスタートの年とされていた。

2003年に京都市立西京商業高等学校から京都市立西京高等学校と改称し、未来社会創造学科エンタープランジング科を創設して以来、第一次改革、第二次改革を経て、西京高校エンタープライジング科は現在に至っている。また、2004年には併設型附属中学校を設立し、中高一貫校としては約15年の蓄積がある。

 

西京高校エンタープライジング科において中心的な役割を担ってきた竹田昌弘校長先生岩佐峰之教頭先生にお話を伺った。

 

学校改革の要

――西京高校エンタープライジング科は約15年前に開設されたのですね。その開設時が第一次西京改革にあたるのですか?

岩佐先生:そうですね。そもそも、学校改革という部分で言ったら、竹田先生なくして京都は語れないんですよ。実は、竹田先生と私は、西京の前に堀川(京都市立堀川高等学校)での改革を経験してきているんです。

竹田先生:当時僕は堀川の改革が一旦終わった後で、教育委員会にいた。西京のエンタープライジング科立ち上げ時の学校説明会には2000もの人が集まった。それは堀川と同じような改革が西京でも行われるっていう期待感だったと思います。

けれども、僕は、西京の中身は全然やな、と思っていました。その当時僕は西京にかかわることになるとは思ってもいませんでしたし。柳の下にドジョウは2匹もいない。ましてや組織論で言うならば、堀川の改革を支えただけの教員が西京にいますか、ということです。僕らが堀川を立ち上げたときには、教職員の意識改革からはじめました。西京はそういうことをわかってないと思ってた。

第一、西京というのは、そもそも商業の学校で、商業の先生もいて、エンタープライジング科立ち上げの際には、商業の先生たちと一緒に進めなければならなかった。その先生方にも一定の改革マインドがあって、事実熱心にやっておられた。だけど、僕はそもそも論から考えるべきだと思っていた。僕の言うそもそも論って何かって言うたら、その当時の一番のニーズであった進路保障にプラスして何をするかいうことです。(岩佐先生を指して)この教頭がいっつも言うてることなんやけど、つまりは「コンセプト」です。進路保障だけでは、私立の中高一貫校的なもんと同じで、それだけです。それに、「コンセプト」というのは商業のファイナンスであるとか、資格を取るとか、そういう問題と違うでしょ、と思ってました。……しかしその後、紆余曲折を経て、2002年から西京に行くことになり、2003年にエンタープライジング科は開設された。

IMG_0554

 

――西京高校の第一次改革において、最初に、何に着手されましたか?

竹田先生:教育課程を変えるべき、最初の半年はそう訴えてました。

開設したばかりということもあり、当時の校長は「卒業生も出してないのに、教育課程を変えるって、それはできひんやろ」って言わはった。でも、「そやったら僕もできませんよ。あかんってわかってる設計書で生徒も引っ張っていけへんし、ようそんなできませんわ」って言い返した。

岩佐先生:その当時のいろんなやり取りの話を聞いてると、それはそれは喧々諤々、戦いですね。教育課程ってやっぱり大事な設計図なんです。

竹田先生:いろいろやり取りをして、結局、教育課程を変えることになったけれど、進学出さなあかんっていうのは絶対条件だった。京都市は大学の町やし、私立の中高一貫校もどんどんできた。そんな中で、みんな大学行くんやったら、もう一回、市立高校を復権しよう、ということになった。しかし、単に進路実現を目指すだけではあかん、ということになったんです。

IMG_0576

 

――進路実現にプラスした「コンセプト」が、エンタープライズ教育ということですか?

竹田先生:西京を立ち上げるときに、有識者会議のメンバーでもあった堀場製作所最高顧問の堀場雅夫さんがおっしゃったんです。「大学受かるだけの学校つくってももう意味がないんじゃないの」と。堀場顧問は、西京の校訓である「進取・敢為・独創」は、いわゆる「チャレンジ精神」であり、起業、ないし、アントレプレナーシップの部分に通じている、と提言された。堀場さんは、入学式のとき保護者に向けて「西京に来るのは、大学に行くために来るんじゃないですよ」っていうふうに言うてくれてた。

僕は今、西京の校長として、説明会では「高校時代しっかりと研究する、探究する力の基礎的なことは西京でもやりますよ。西京はもっと大学を出た後、あるいは大学院を出た後で、言うたら、社会の中で輝くための仕掛け、企業の人とか社会で活躍してる人との交わり、いわゆる社会人力を付けます」っていうふうに「コンセプト」を説明してます。

しかし、その「精神」や「コンセプト」をどう実際にするかいう設計書はどこにあるんですかっちゅう。それは、もちろんカリキュラムということやけど、単に進路実現への道としてのカリキュラムではない、全体の仕掛けとしてのカリキュラムです。

IMG_0564

 

――全体の仕掛けとしてのカリキュラムはどのようにして出来上がっていくのでしょう…?

…つづきは中編で。

 

*なお、西京高校エンタープライジング科については『「未来を語る高校」が生き残る:アクティブラーニング・ブームのその先へ』(学事出版、2019年5月発売)の中でも詳細に紹介しています。こちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。

 

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    町支 大祐

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

MORE CONTENT

  • ニッポンのマナビいまの高校の授業とは!?
  • マナビをひらく!授業のひみつ
  • アクティブ・ラーナを育てる!学校づくり
  • 3分でわかる!マナビの理論
  • 15歳の未来予想図
  • 超高校生級!明日をつくるマナビの達人たち
  • どうするアクティブラーニング?先生のための相談室
  • 高校生ライターがいく
  • マナビの笑劇場