第22回
2019.08.07
京都市立西京高校の「特色」を支える戦略(中編)
「特色ある学校づくり」は、今日の学校教育について考えていくときの重要な課題の一つになっています。とはいうものの、実際の「特色ある学校」とは、どのようなものなのでしょう?また、学校における特色づくりは、教師のどのような活動によって可能になっているのでしょう?
「特色づくり」特集第2弾となる今回は、京都市立西京高等学校エンタープライジング科をご紹介します。マナビラボ・プロジェクトでは、2018年7月と10月の2度にわたって同校におじゃまし、エンタープライズ教育の立ち上げから今日までの歩みについて伺ってきました。エンタープライジングという特色を打ち出していくことと教員組織の特質はどうつながっているのでしょう。
前編・中編・後編の3回に分け、同校についてご紹介させていただきます!
前編はこちら!
組織としての成長=人を育てること
――全体の仕掛けとしてのカリキュラムはどのようにして出来上がっていくのでしょう?
岩佐先生:竹田先生がおっしゃったのは2003年頃のお話で、第一ステージですね。
僕が西京の改革に本格的に関わったのは、第二ステージの2013年頃で、いわゆる脱ゆとりの学習指導要領の全面実施が高校で始まった時期と重なります。だからちょうど10年くらいのスパンでカリキュラム全体の見直しをしてきました。マイナーチェンジはすぐにやったらいいって思ってるんです。でも、カリキュム全体となると大がかりな作業になりますから、10年スパンで、学習指導要領がちょうど変わるタイミングで考えていったらいいんじゃないですかってことです。ただ、それは1年では無理です。3年ぐらい前から取り掛からないと。学習指導要領が変わる2〜3年前には、10年構想委員会みたいなんを立ち上げて、これまでの理念とかぶっつぶしてもええからってことで、全体を見直して、次に生かすというミッションのもと進めていくんです。
――ということは、ちょうど今、次の第三ステージ(第三次改革)に向けた取り組みに着手されているところですか?
竹田先生:今言ってんのは、とりあえず今年中に、自ら西京の第三ステージに関わりたいっていう人を発掘する、ということ。その次の2年目は、そういう人を中心に組織をつくって、具体的に検討していく。それで3年目は実際のカリキュラムや授業をつくり上げていくっていう作業、っていうのんが大まかなことやと思う。
岩佐先生:教育課程、カリキュラムをつくっていくということは、まずビジョンをつくらなきゃならない。つまり「西京高校はどうあるべきなのか」っていう議論ですよね。
実はこの間、職員会議の冒頭に、次の第三ステージで「西京高校がこうあるべきだ」とプレゼンしたい人を公募したんです。そしたら4人出ましたね。
この4人の先生方が自分たちが今まで西京でやってきた経験も踏まえて「次の10年はこうあるべきだ」っていうのをお話しするわけですよ。みんなそれを聞いてなるほどってなる。それがまず第一歩ですよね。改革の一石を投じるわけです。
そこから複数人で「こういう意見があったよね」「来年どうしましょうか」ってディスカションを経ながら、組織化をしていくんです。その4人がメンバーになるかどうかはさておき、今は、次の10年構想委員会みたいなのをつくっていこう、と相談しているところです。そこでは現状を把握するためのヒアリングをして、たくさんの先生と議論をしていく中でどんどんどんどん係が決まっていくわけですよ。英語の係の人とか探究の係の人とか…。そういった意見が集約されて、教育課程っていうのがつくり上げられていく。だから2~3年かかりますよ。
――もうちょっと詳しく教えてください。
岩佐先生:ついこの間(第二ステージ/第二次改革の時)は、僕が当時の10年構想委員会のメンバーで、今の教育課程をつくりました。
その時は、2010年の暮れくらいからビジョンについての話をしてたのかな。2011年くらいに組織化して、当時の西京の強み/弱みとメリット/デメリット、各教科の強み/弱みとメリット/デメリット、そのあたりのことをずっと検証してました。たとえば、「研修旅行はバラバラに行くんじゃなくって、1本立てで行くほうがいいんじゃねえか」とか、「リーダー育成のための今のプログラムは、こういうよりもこういうほうがいいんじゃないか」とか…。いろんなカテゴリーの中で今やってるプログラムについて再検討しました。組織化して、ビジョンをつくって、1年半、いや2年近くかかったと思います。
当時の10年構想委員会は、僕を合わせて3人のメンバーで、「ああでもない、こうでもない」ってずっとディスカッションしていました。その間、「各教科の意見も聞きましょう」っていうことで、全先生方にヒアリングもしました。でも、ビジョンって、なかなか分かんないし、伝わらないんですよね…。
「どういう学校つくっていきたいか」っていうことをやるにあたっては、先生たちの思いっていうのが必要ですよね。だから一人ひとりに聞いていったんです。そしたら「この人もっと部活やりたいのに、部活の時間ない」とか、「勉強ばっかりやらせてどうこう」とか、「補習が多いや何やかんや」とか……一人ひとりの思いがわかってきて、それが第二ステージのビジョンにつながっていったんです。
そういう僕たちがつくり上げた第二ステージが出来上がっていく様子を見ていた子たちが、今まさに第三ステージに着手しようとしているんです。
今、カリキュラム・マネジメントっていう言葉が出てきていますが、僕らは7〜8年前にすでにそういうことやってたと思います。
――次の世代を育てることが重要なわけですね。
岩佐先生:人材育成のマニュアルやプログラムがあったとしても、やっぱり人との出会いってすごく大事だと思っています。何がどう作用するかって計算しにくい。そう言ってごまかすわけじゃないんですけども、先生たちがそれぞれの立場でやっていくとき、そこには先輩たちがつくった仕掛けがあると思うんです。その仕掛けがどういう理念をもっているのか、しっかり示していくことによって、やりやすくなる部分もきっとあるでしょう。
今、中高あわせて西京には100名くらいの先生がいます。それぞれの先生のやりたいこと、やりたいことのやれる可能性っていうのを担保してもらえる環境だとみんな頑張りますよね。そういうのは、いろいろなやり取り、たまには喧々諤々としたものもあるけども、それは別に仕事上でやるわけであって、いわゆる議論ですよね、必要なのは。
竹田先生:西京でのそういうリーダー育成のノウハウが、教員育成に僕はつながってると思う。だから彼(岩佐先生)はそれのスペシャリスト。生徒についてもだし、若手教員についても。実際、今、教育委員会で活躍してる人材の多くは西京出身の先生方ですよ。
岩佐先生:いや、あいつらは反抗してるだけ。
竹田先生:だからそれも成長。
――「育てる」という観点からすると、先生方はどんなことを意識されていますか?
…つづきは、後編で。
*なお、西京高校エンタープライジング科については『「未来を語る高校」が生き残る:アクティブラーニング・ブームのその先へ』(学事出版、2019年5月発売)の中でも詳細に紹介しています。こちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。
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取材
田中 智輝
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取材
村松 灯
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取材
町支 大祐
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渡邉 優子
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撮影
村松 灯