マナビラボ

第10回

2018.11.21

高校生の研究開発の裏側に迫る!

〜長浜高校水族館部④〜

愛媛県立長浜高校水族館部は発足以来、約20年間にわたり、精力的に活動してきた。たった2つの水槽から始まった活動は今、学校だけでなく地域を活気づける原動力となっている。

クラゲ

 

今、水族館部の活動を内部から活気づけているのが「ジェリーズガード」の研究開発である。顧問の重松先生によれば、「ジェリーズガード」の研究開発をしている生徒は「今、相当入れ込んでやっている」とのこと。3年生の重松さんと1年生の河原さんにお話を伺った。

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Q. 「ジェリーズガード」の研究開発をしているお二人ですね。これまで水族館部でどんな活動をしてきたか教えてください。

重松さん:1年生の時から研究班で、3年間研究をやってきました。1年生のときはカクレクマノミの粘液、刺されない秘密について先輩の研究を引き継いでいろいろやっていました。その研究自体が難しくてなかなか進まなくて結果が出なくて行き詰まっているときに、このクリームのネタが駆け込んできたんです。それで始めたらすごく面白くて、企業も協力してくれるようになって、今は本格的に研究ができるようになりました。偶然が重なって貴重な経験をさせてもらっています。

河原さん:水族館部にというか、長高に入学したきっかけは、小さい頃からよく長高水族館に足を運んでいたことです。そこから興味をもって、ここから一時間くらいのところから、引っ越して来ました。入部してみて、とっても楽しいです。

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Q. 研究開発での悩みや課題はありますか?

重松さん:課題が二つあります。一つ目の課題は、クラゲに刺されないようにする効果をもっと高めることです。クラゲの種類によって、刺し具合が違うんですよ。毒の強さとかが全然違っていて、たとえば、ミズクラゲなら触れても刺されていないように感じるくらい毒が弱いんですけど、アカクラゲは刺されるとかなり痛いし、さらに毒の強いハブクラゲは、刺されたら最悪死んでしまうこともあるんです。私たちが目標にしているのは、その強い毒をもつクラゲを防御できるクリームを作ることです。

二つ目の課題は、海水中で効果を持続させることです。昨日も実験をしたんですけど、今試作品がNo.6まできていて、それ以前のNo.4とNo.5と競合品も併せて4種類のクリームで耐久実験をしました。シャーレの中にクリームを塗っていって、20分後、40分後、60分後で水の中でマグネシウムがどれだけ流れ出てしまっているかを見ていったのですが、案の定、競合品のクリームはあまり流れ出ていないのに、私たちの試作品はすごい流れ出てしまっていて・・・。20分くらいで濃度が薄くなってしまうということは、すぐ刺されてしまうということです。

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Q. 次の実験は・・・?

重松さん:まずは、今回のデータをもうちょっといろんなパターンでとってみて、ある程度データに信頼性がみられたら、企業と相談しながら、クリームの調合の方法やマグネシウムを加える順番などを変えます・・・そういうので効果が結構左右されてくるので。

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Q. ハブクラゲに刺されないためには、マグネシウムを増やせば良いの?

重松さん:そうですね。でも、今現在実験に使っているクラゲがアカクラゲなんですが、ハブクラゲはアカクラゲとはからだの作りも違うし、毒の強さも違う。もしかすると、単純にマグネシウムを増やしただけでは効かないかもしれない。毒針を仕込んだ刺胞が発射するメカニズムが違うかもしれないので。クラゲって単純に見えて複雑なんですよ。

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Q. 研究の方法、たとえば、データはどうやって取っているのですか?

重松さん:私、実はあんまり理系の科目が得意じゃなくて、英語が一番好きなんです。だから、実験を始めるときにわからないことだらけで、まずは、先輩方の論文や自分がやる実験に関係してそうな論文をとにかく探して読んで、知識を深めたあとに、論文を通して何か疑問が生まれたらそれについて自分で追究していく。学校の先生にも相談するんですけど、サイエンスメンターの制度を利用して、専門の大学の先生にアドバイスをいただいています。だから、最初はゼロだったけど、周りの人のおかげでここまで来ることができました。本当はもっとやりたいんだけど時間が足りない・・・。でも、なんとか時間を割いてやっていきたいです。

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Q. すっごく楽しそうですね。

重松さん:今日も一日中ずっとクリームのことばっかり考えていました。高校に入る前は、自分がこんなふうになるとは全く思ってませんでした。私が中学校3年生のときに、私の姉が長浜高校水族館部で行った研究を国際大会(ISEF)で発表するためにアメリカに行ったんです。その活躍している姿を見て、私もやってみたい、ISEFに絶対行きたい、と思うようになりました。高校に入ってこんなに研究に熱中するとは思っていませんでした。

河原さん:今まで、小学校や中学校で研究をしたことはありませんでした。今は先輩のお手伝いをする中でいろんなことを学んでいます。私、クラゲが大好きなので、クラゲについてもっともっとよく知ることができてよかったです。

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Q. 水族館部の活動と普段の学校生活のつながりはありますか?

重松さん:研究を始めるようになって思ったのは・・・研究で大事なのは、目の前にある課題を自分がいかに考え、解決していくのか、という力だと思うんです。普段の生活でもいろんな課題を解決していく繰り返しなのかな、と思うと、深い結びつきがあるのかな、と感じています。

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Q. 一番面白い・テンションが上がるときは?

重松さん:やっぱり実験がうまく行ったときです。もう、なんとも言えない。はじめて試作品が刺されなくなったという結果が得られた実験があって、それを見て、うぃー!ってなって。その前の試作品まで刺されたんですよ。だから絶対無理だろうなって思ってやったら、刺されなくて、ええー!ってなって、それから軌道に乗ってめっちゃ楽しくなりました。

河原さん:研究のこともだけど、自分が担当している水槽の魚たちを世話していて、魚がなついてきてくれるときです。公開日にお客様に説明をして喜んでもらえたりするとやりがいを感じます。

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Q. いま一番やりたいことは?

重松さん:商品化!私が高校にいるうちに店頭にに並んでいるのを見たい!もう一つは、ISEFに出場したい。これは1年生から考えていることで、毎日、ISEF関係の本とか動画を見ています。高校生のうちしかできないことだから。将来は、魚とか生き物が好きなので水族館の職員になりたいです。でも、研究も好きだから新しいものを見つけていく仕事にも興味があります。もしジェリーズガードが成功したら、もともと、この長浜には水族館があって老朽化でなくなってしまったので、それを復活させたいです。

河原さん:私も商品を発売したいです。先輩と一緒にISEFに行って・・・賞をとりたい。

重松さん:絶対行こう!

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愛媛県立長浜高校水族館部の活動を取材してみて、約20年前にたった二つの水槽から始まった部活動での取り組みが、学校全体や地域にまで広がりつつあることを知りました。水族館部での活動に夢中になっている高校生たち、それを支える先生の思いに、元気をもらいました!

ありがとうございました。

カイ

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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