マナビラボ

第6回

2016.12.14

若者のちからで地域を変える!

愛知県新城市若者議会の挑戦

愛知県東部に位置する新城市は、豊かな自然に囲まれた山あいの町である。また、新城市は長篠の戦いの舞台となった歴史深い町としても知られている。そんな豊かな自然と歴史を誇る新城市にいま若者たちによる革新の風が吹いている。市民の目線に立ちながら、若者の力で市政に革新の風を吹かせる「新城市若者議会」のみなさんにお話を伺った。

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若者議会のはじまり−新城市若者議会条例まで

首長が交代する場合にも、一貫して若者が市政に参与できるようにという方針のもとで、新城市では現在、若者議会の設置が条例で定められている。実は、このように若者議会の設置を条例で定め、予算をつけ、その予算をいかに運用するのかまで若者に委ねるという施策を日本ではじめて実施したのは新城市だという。まずは、新城市まちづくり推進課の森玄成さんに条例化までの経緯をうかがった。

 

田中:若者議会では実際にどのようなことをされているのでしょう?事業の概要を教えていただけますか?

森さん:条例のもとで若者議会が発足したのは平成27年度のことです。ですので、28年度にあたる現在の委員は第2 期若者議会委員ということになります。現在の構成員は、高校生が12名、大学生4名、社会人4名の計20名から成ります。実際には彼ら4つのチーム(広報PRチーム、まちなみチーム、図書館チーム、課題から政策チーム)に分かれて活動しています。

 

田中:そもそもなぜ若者議会が設立されるに至ったのでしょうか?

森さん:実は、新城市が「消滅可能性都市」に挙げられたということが背景にあります。2014年に指摘されたのですが、新城市は愛知県で唯一の「消滅可能性都市」ということになります。そこで、どうにかまちおこしをと考えた際に、まずは若者の声を聞かなければということになりました。若者政策ワーキング19名が1年間「若者が活躍できるまち」について検討したり、市民約150人に集まってもらって、「若者の住みたいまち新城」というテーマでワークショップを行ったりして。そうした中で、若者たち自身が市政に直接的に関われるような仕組みづくりが必要なのではという流れができていったように思います。

 

田中:市政に若者の意見を取り入れるという動きは他の自治体でも活発ですし、そうした流れは今後も強まっていくように思います。その中で新城市若者議会の独自性や強みといったものがあるとすれば、それはどういった点にあると捉えていらっしゃるのでしょうか。

森さん:やはり単に若者の意見を取り入れるということにとどまらず、彼らが答申したことを実施、運営にまでつなげていく、そういった実効性を備えている点は重要ではないかと思います。市が執行する業務について若者議会が立案を行うというのを基本にしながらも、市が運営主体になるものにとどまらず、若者議会自身が企画・運営をするものまで出来る限り挑戦の範囲を広げるような仕組みづくりをしています。ですので、委員のみなさんは本気で新城を変えよう、新城をよりよくしよう、新城の魅力をもっと引き出したいという思いで取り組んでいます。

田中:なるほど、お話をお聞きしていて若者議会のみなさんの熱意を強く感じましたし、その思いに応えたいという市の職員のみなさんの思いにも感銘を受けました。その背景には、明確な問題意識と若者を支える仕組みがあったのですね。一方で、そうした仕組みづくりの段階で、様々な試行錯誤があったのではないかとお察しいたしますが、いかがでしょうか?

森さん:はい。軌道にのるまでにはいろいろな仕掛けを試みた部分はあります。やはり最初は「やらされてる感」のようなものがあって、それを取り去りたいと思って試行錯誤しました。そのなかで転機となったのが、大臣制をとったことでした。要するに各プロジェクトに担当をつけるということなのですが、その際、記者会見を開いて大臣がプロジェクトあたっての公約のようなものを発表することにしました。このあたりから、目の色が変わってきたという感じがします。

 

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田中:記者会見をすることで、自分たちのプロジェクトの主導権を自分たちがとることができるようになったのですね。

森さん:そうですね。それは私たちにも大きな気づきを与えてくれました。場を準備すれば、本当に若者たちが主導して、使命感をもってやってくれるんだということを実感しました。そうした気づきから、できるかぎり公の場に出て行って欲しいという思いもありまして、政策提案の際には議場をお借りして市長への提案を行うといったことをしています。

 

田中:本物の議場で政策提案を行うことや、その提案が市政に結びつくという実感が、本気で新城を変えたい、よくしたいという強い思いにつながっているのですね。ところで、若者議会のみなさんは9月にカナダに研修旅行に行かれたとお聞きしましたが、こうした活動もまた新城市のこれからを考えるということとつながっているのでしょうか。

森さん:カナダ研修は、新城市が1998年から続けている「世界新城アライアンス(New Castle Alliance)」への参加が目的でした。「世界新城アライアンス」というのは、世界中の「新城」= “Newcastle”の名をもつ都市が集まって意見交換をするといったものなのですが、2008年からは若者部門が設けられて、若者同士の交流の場となっています。実は、若者議会の着想はこのサミットで各国の若者政策を知ったことから得られたものでした。

 

世界中の「新城」とつながる−New Castle Allianceへの参加

1998年より2年に一度のペースで各国の “New Castle” で開催されているという「世界新城アライアンス」。カナダのニューキャッスルで開催された今年(2016年)のアライアンスの様子や、若者議会の普段の取り組みについて若者議会のみなさん(加藤沙也果さん、多田琴香さん、北尾希穂さん、佐々木香奈実さん、井上友誉さん、山崎ランサム窓香さん)に感想をお聞きした。

 

 

田中:カナダでのアライアンスはいかがでしたか?

 

佐々木さん話したいこと聞きたいことがたくさん出てきたんですが、言葉がなかなかうまく出てこなくて。そこがもどかしかったです。

 

加藤さん言葉もそうなんですけど、積極性の面でも違いがあるなと感じました。カナダの方であれ、スウェーデンの方であれ、会議の中で次々に意見を言っていて。私たちは恥じらいがあったり、誰かが話していると聞くことに一生懸命になるような部分があって。文化のちがいみたいなものも感じました。

 

佐々木さん文化といえば、食事はやっぱりびっくりしました。

 

井上さん朝から肉です!野菜も生のままでてきたりして。お味噌汁って最高だなって思いました。

 

一同:そうそうそう!!

 

田中:やっぱりご飯の話はもりあがりますね。異文化に触れると同時に、自分たちの文化についても考えた研修旅行だったんですね。ところで、会議ではどのような課題が話し合われたのですか?

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佐々木さん「高齢者が住みやすいニューキャッスルにしよう」というのがテーマでした。

 

田中:会議を通してどのようなアイディアが得られましたか?

 

山崎ランサムさんグループに分かれて議論したのですが、私たちのグループでは、どんな人でも、それぞれの好きな時に、それぞれのしたいことを、好きなだけできるホームを作ろうというプロジェクトを提案しました。そういう場所があれば、高齢者の方が家でひとりぼっちにならないで、いろんな世代のひとと一緒に、好きなことができるようになるんではないかと考えたんです。

 

田中:なるほど。他にはどんなプロジェクトが提案されたのですか?

 

井上さん僕たちのグループでは、音楽を通じて世代間交流ができないかという意見が出発点になりました。その意見を発展させて、各国のニューキャッスルで合唱団をつくって、その合唱団をいろいろな世代のひとが出会う場にしていこうという提案をしました。

 

田中:高齢者が住みやすいまちづくりというのはローカルな課題だけども、実はどの国も抱えている課題でもあるんですね。その意味では、グローバルな議論を通じて、ローカルな課題に向き合うことが実は新しいアイディアを生むのかもしれないですね。

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「若者議会」があるということを新城の魅力のひとつにしたい

 

田中:ところでいずれは新城市がアライアンスの開催地になるわけですよね。

 

井上さん次のアライアンスは新城なんです。2年後です。

 

田中:新城のどんなところをアピールしたいですか?

 

北尾さんやっぱり自然や温泉はいいなと思います。お祭りの時期にアライアンス合わせてもいいかもしれない。

 

加藤さんのどかな風景とか、新城の良さだなって感じます。なので、たくさんの人に新城に来て欲しい、新城のよさを知って欲しいと思うんです。ただ、ジレンマもあって。新城に住んでいる人たちは観光客で溢れる新城みたいなものを必ずしも望んでいるわけではないということも分かってきたんです。

 

山崎ランサムさんそれはすごく感じます。新城に訪れる人が増えて欲しいと思う一方で、場合によってはそれが新城の住みやすさを損なってしまいかねないんだなと。

 

田中:訪れる人が求めるものと、住んでいる人が求めるものが違うんですね。それを擦り合わせていくとき、何が新城の魅力になっていくんでしょう?

 

加藤さん愛知県内の他の地域の方に、新城の若者議会について話したら、「新城すごいね」って言ってもらえて。新城は何もないと思われているので、その反応は嬉しかったですね。

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田中:なるほど、若者議会があるということが新城の魅力の一つなのかもしれないですね。

 

多田さん実は、私の姉は第1期生の委員だったんです。若者議会の話をする姉がとっても楽しそうで、それで第2期の募集があると知って私も若者議会に入りたいと思ったんです。

 

北尾さん若者議会の活動についてもっと知ってもらえれば、若者議会に入りたいと思うひとたちも増えるだろうし、若者議会がある新城に興味を持ってくれるひとも増えるかもしれないと思うんです。

 

山崎ランサムさん実は私たちはもっと下の世代の、例えば小学生のころから若者議会や政治について関心をもってもらえればと考えているんです。若者の力で新城をよくしていきたいと考えたときに、いま自分たちがしていることを知ってもらって、そこに参加してくれる仲間をつくらなくてはと思って。なので、いま私たちは新城市の小学校のカリキュラムのなかに、政治への関心やまちづくりへの参加を促進するような授業を加えようというプロジェクトを提案しています。

 

田中:それは小学校の先生方と共同で取り組んでいるのですか?

 

山崎ランサムさん具体的なカリキュラムの開発はこれからですが、教育委員会の方や先生方と連携して取り組んでいく予定です。

 

田中:若者自身が学校を変えていくというのはとても新しくて挑戦的な試みですね。若者議会自身が新城の魅力になることで、新城の良さを発信すると同時に、住んでいる人たちにとってもより住みやすいまちになっていくという意気込みを感じます。これからのみなんさんのご活躍を楽しみにしています。

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新城市若者議会のみなさんは「2016年マニフェスト大賞」にて応募総数2514件のなかから見事にシチズンシップ推進賞の最優秀賞に選ばれたとのことであった。インタビューに伺った時期は選考の最中であったため、授賞式の様子を直接お伺いすることはできなかったが、授賞式の前日に行われたプレゼン大会においても新城市若者議会議長の村松里恵さんが一位に輝くなど、若者議会のみなさんの挑戦の斬新さと発信力が高く評価されている。

 

 

 

  • 取材

    田中 智輝

  • 撮影

    松尾 駿

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