マナビラボ

第2回

2016.02.03

ひととつながる和太鼓

芥川高校和太鼓部(大阪府)

卓越した演奏と舞台演出で観客を魅了する公演を続ける大阪府立芥川高校和太鼓部。
太鼓とばちに打ち込む和太鼓部生活で部員が手にするのは、人とのつながりと、「自分からなんでもやってみる」という姿勢だという。

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太鼓に感じる可能性

音は、空気の振動である。知ってはいるのだが、和太鼓の近くでは、まさにその音を「感じる」ことができる。腹の底から体のすみずみまで、ビリビリと振動しているのがわかるのだ。大阪府立芥川高校和太鼓部は、常にその音を感じながら活動している。

大阪府立芥川高校和太鼓部は、創部21年目を迎える部活動である。演奏会などの活動場所は、近隣の地域をはじめとして、インドネシアのバリ島からヨーロッパなど、世界に広がっている。しかしながら、創部当初から現在のようだったわけではないと、指導に当たる山下勉先生は言う。太鼓の経験をほとんど持たない生徒が、自ら積極的に練習に励んだ結果、世界を舞台に活躍する現在につながる和太鼓部をつくりあげてきた。部長の廣瀬愛佳さん(高校3年生(2015年8月14日取材当時))は、和太鼓は「可能性です」、という。一つからでも始められ、様々な曲を表現することができるためだ。

和太鼓部の部員は、太鼓をたたくだけではない。和太鼓はもちろん、笛、お囃子、鉦、踊り、口上、余興など、舞台上での動きは多種多様であり、多才である。また、全国各地の民謡を演奏する際には、その民謡についての知識を頭に入れる。曲についての背景知識をもとに、観る者を惹きつけ続ける工夫を、部員がこなすのだ。毎年3年生の8月に引退する和太鼓部員。2年と少しの期間で、どのようにしてそれらを身につけるのだろうか。

 

技術を支える基礎

08051935 「入部して一ヶ月は、太鼓をたたくことができません。筋トレや素振りなど、基礎的な体力と技術を学ぶ期間なんです。あいさつや礼儀など、部活動での基礎も先輩から代々教わります」と、坂田七彩さん(高校2年生(2015年8月14日取材当時))が教えてくれた。廣瀬さんは、「先輩に教えてもらいながら基礎練習をすることが楽しかった」と述懐する。この期間に基礎をしっかりと作り、いろいろな応用ができるようにしていくのである。実際、芥川高校和太鼓部は女子部員36人、男子部員21人(取材当時)と、女子部員が過半数を占めるが、筋トレなどの基礎的な練習の甲斐あって、演奏はまったく力強い。

 

演奏にとどまらない活動
高い演奏技術を誇り、海外から国内、ご近所まで活動する和太鼓部では、やはり舞台上での演奏が一番のやりがいかと思いきや、部員たちは和太鼓部でのやりがいは「人と深く関われること」にあると口をそろえる。「小さい子が好きなので、小学校での演奏会で反応を見るのがうれしいです。また、老人ホームでの演奏会では、演奏後の交流で涙を流しながらほめてくれる方もいます」(坂田さん)というように、演奏に裏打ちされた交流が、和太鼓部での活動の原動力になっている。

08052410 また、和太鼓部では、東北地方の復興支援を部員自ら企画して実施している。2015年の7月には、福島県を訪
れて、和太鼓による交流を行った。昨年は、事前に手紙などで接点を持つことができた人とそうでない人が生じたことから、今年は全員深く交流できるように計らった。実行委員長の高谷佳那さん(高校3年生(2015年8月14日取材当時))は、社会福祉協議会と連絡をとりながら「一人でできないことも、いろんな人と協力すればできる」と改めて感じたという。現地では、演奏会だけではなく、その前後に仮設住宅を訪問して現地の方々と交流を行った部員もいる。和太鼓の演奏だけではなく、演奏を通じて目の前の人たちと直に接することが、高いモチベーションを保つ一因でもある。

芥川高校和太鼓部の特徴は、ここにある。接点を持った人たちに喜んでもらいたい、というモチベーションと、それに支えられた部員の自主的な立ち回りである。演奏だけでなく、演奏を通じて交流を持った人たちに喜んでもらいたいからこそ、演奏技術を向上させ、演奏会の演目や演出を考え出し、それらに必要な技術や準備を積極的に進めていく。また、指導に当たる山下先生の姿勢が、「あまり口を出さない」、「自由にやらせてくれる」と部員に言われるように、基本的には干渉しない方針をとっていることも重要である。

08051937部員が自主的に動くことができる環境の中では、部員同士が支え合うことも大切だ。部長として一年間、部をまとめてきた廣瀬さんは、「部長が入れ替わるときが一番つらい。立場が変わって、仕事が増えるしれから手をつけていいか、皆が信用してくれているのかといった不安があります」と言う。一方で、同じく3年生の高谷さんは「いつでも笑顔で、悩んでいる子には積極的に声をかけています」と、サポートしている。先輩として後輩を指導することも含めて、組織として各々がサポートし合いながら和太鼓に取り組んでいる。また、東北の復興支援でも、昨年度の実績から改善点を見つけ出し、自主的な取り組みを継続して行う態勢がとられていることにも注目したい。

 

自らが動いてみること

和太鼓をはじめたきっかけは人それぞれだ。やりがいもひとつではない。それでも、各々のやりがいや楽しみのために、なにができるのかを考え、自分で人や組織を動かしていくことに積極的であるのは共通しているように見える。「自分から積極的に行動してみる。悩んだらやってみる」(高谷さん)、「自分から積極的に動く。一から全部作らなくても、誰かの企画に乗っかることからでも」(廣瀬さん)、「やりたいと思ったことはやってみて、やり始めたら最後まで。周りの人に支えられているという感謝の気持ちを持って」(坂田さん)と、彼女らは異口同音に言う。それは、和太鼓部の活動を通じて自らが動いてきた、という経験を雄弁に物語っている。

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スライドショーの写真は顧問の山下勉先生の提供

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    松尾 駿

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