第9回
2018.11.07
水族館部の活動を支える
〜長浜高校水族館部③〜
愛媛県立長浜高校水族館部は発足以来、約20年間にわたり、精力的に活動してきた。分校・廃校の危機を認識するところから始まった水族館部の活動。分校・廃校の危機と隣り合わせであることは今も変わらないが、水族館部の躍進は止まらない。たった2つの水槽から始まった活動は今、学校だけでなく地域を活気づける原動力となっている。
顧問の重松洋先生は、水族館部のこれまでを振り返り、発足以来、水族館部ではその活動を支える「物語」が共有され、展開されてきたと言う。水族館部の3年間は生徒たち一人一人に変化をもたらしてきた。また、「ジェリーズガード」の研究開発は、水族館部のこれまでの「物語」に新しい展開をもたらすものであった。
Q. 水族館部に入ってきた生徒たちが、3年間を通して変わったという実感はありますか。
重松先生:みんな変わりますよ。すごい変わります。やっぱり月に1回全然面識のない人と交流するというのがすごくいいと思います。また、月1回の公開日というのもすごくタイミング的に良いんです。公開日が終わったら、班単位(研究班、繁殖班、イベント班)でブレーンストーミングを行います。自分らが先月に掲げた目標が達成できたのか確認し、翌月に何をやるか自由に意見を出してとりまとめ、最終的に部全体で共有し、バージョンアップを図るんです。
Q. そのサイクルはいつ頃確立されたのですか?
重松先生:ここまで組織立ってやり出したのはこの3年ぐらいです。3年程前に長浜にどんな水族館を作ろうかということを、水族館部内で話し合いました。そのとき、生徒たちが自分たちで水族館を作るんだったらどんな水族館にするか、まさにブレーンストーミングで話し合いをしたんです。
そこで、彼らから「お客さまが街を回遊する水族館」という案が出てきました。要は、1つの水族館だけがあったところでお客さんはそこにしか来ないでしょ、と。それじゃあ街に潤いは生まれない。街の中に人が入ってくることでビジネスチャンスも生まれるし、人との交流も生まれてくる、という発想から「お客さまが街を回遊する水族館」というのを提案したんです。その時にやったブレーンストーミングによる話し合いが、結構いいよね、ということで定着していきました。
Q. 「ジェリーズガード」について教えてください。
重松先生:割と、ここぞというところで必要な人が出現して、「物語」が展開していってる気がします。今年の1月に東京で行われた、高校生ビジネスプラングランプリで準グランプリになったんです。もともとその大会のことは知らなかったし、そこに生徒たちの研究を発表させる予定もなかったんですけど・・・主催者から参加しませんかとお声かけいただき、おもしろそうなのでプランを立て始めた途端に、突然、静岡の企業の方から電話がかかってきて、「興味があるんでぜひ一緒にクラゲ予防クリームつくりませんか」と。
Q. それが「ジェリーズガード」?
重松先生:それです。絶賛開発中で生徒も頑張っています。
Q. 研究班の研究の成果がビジネスプランに影響したということですか?
重松先生:そうです。だから、今までの研究としての発見から、ビジネスプランつまり商品をつくる発明の方に、もう一歩踏み込んでいるんです。僕にとっては全く新しい世界なんです。
今、試作品はバージョン8まできました。その出来栄えを、生徒が実際にクラゲで調べています。マグネシウムがクラゲ予防に効くというのを生徒たちが突き止めたんです。今は、マグネシウムをどのくらい入れたらいいかとか、どのタイミングで入れたらいいかとか、その辺を企業の方と調整しながら最適化をしている状況です。
たとえば、バージョン3は確かによく効くんですけど、これは水と油が分離してしまうんです。商品としての安定性に問題がある。なので、水と油が分離しないような製法に変えないといけないんです。企業の方でも研究し試行錯誤するし、うちとしてもここをこういうふうにしてほしい、と要望を出したりします。データが全てなので、うちの生徒がとったデータをもとに企業とやりとりをしている最中なんです。
Q. ほんとだ!プロデュースドバイ長浜ハイスクールアクアリウム!
重松先生:担当生徒は、今相当入れ込んでやってます。データを取る実験では、10回中8回、9回はがっかりするような結果なんですけど、ごくごくたまに、おおー!みたいな結果が出るんです。そういうのが報酬になってるんでしょうね。
水族館部の「物語」はどんどん展開していく。重松先生も生徒たちと一緒に未知の世界に飛び込んでいる。
次回は、水族館部の生徒による「ジェリーズガード」の研究開発について取り上げます。
お楽しみに!
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取材
田中 智輝
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取材
村松 灯
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取材
町支 大祐
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渡邉 優子
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撮影
村松 灯