マナビラボ

第52回

2019.06.26

英語で「伝えたい」ことは何ですか?

横浜市立桜丘高校 中編

生徒どうしの発言がつながったり、授業の内容が既習の知識や生活上の経験とつながったり、生徒自身の興味や進路希望とつながったり……。50分のなかで様々な「つながり」が生まれる授業をされている、横浜市立桜丘高校英語科の勝倉美子先生。授業後に、実践を支える思いについてお話を伺った。

>>>前編はこちら

 

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「英語以外」へのこだわり

——受験間近の時期ですが、生徒の皆さんが和気藹々と学習している様子が印象的でした。

勝倉先生

 この時期でも、他の子が言ったことをきちんと聞いたり、自分にはないところを吸収できる生徒たちなんですよね。

 今回嬉しかったのは、教科書の内容について、自分で調べてくる子が何人もいたということです。英語の授業なんだけど、内容に関して生徒のなかに入っていく部分があってよかったな、と思いますね。

 

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——今日の授業でも、多くの生徒さんたちが、英語を調べるだけではなく、様々な場面で辞書や事典を引いていました。

勝倉先生

 私、英語以外のところで結構こだわるので。生徒に「これって何のこと?」ってたくさん聞くんですよ。今年度使っている教科書は全部入試の長文読解問題なんですけど、扱っているテーマとか分野ごとに並んでいて、とても面白いんです。そういう意味では、この教科書を選んでよかったと思いますね。どんなに英語が難しくても、内容が小学校で扱うようなものだったらつまらない。やはり、高校3年生の知識や発達段階に合っていないと、と思います。

——今日の内容でいうと「倫理」でしょうか、他の教科とのつながりも感じました。

勝倉先生

 他の教科や学問分野との関わりについては、特に意識しています。それが進路を考えるきっかけになったり、大学での研究や自分の知らない学問との出会いにつながったりすると思うので。だから、生徒たちには、なるべくいろんな話題を振るようにしています。

 

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——そうすると、教材研究も英語のことだけやっていればいいというわけではないですよね。大変じゃないですか?

勝倉先生

 私自身好奇心が強いので、気になったことがあれば「ちょっと調べておこうかな」という感じで、実は「教材研究をしている」という意識はあまりないんですよ。楽しんでやっています。

 それに、どうしても自分の知識がないところについては、他の教科の先生にどんどん聞きにいっちゃいますね。高校はそれぞれの教科が内容的にも組織的にも独立しているイメージがありますけど、扱うテーマが本当に広いので、教科の枠を越えて聞きにいかないと自分のなかだけではとても足りないです。

 

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——勝倉先生がそのように「内容」を大切にされているのが、生徒の皆さんにも伝わっているようでした。今日も、「自己認識」というテーマについて、授業が終わった後も議論していたグループがありましたよね。

勝倉先生

 ええ、内容をもうちょっと議論したいって言っていましたよね。内容を議論したいということは、英語で伝えたい中身ができているということだと捉えています。今、英語自体を語学的に勉強したい子ってほとんどいない。そう考えると、授業の方向性も、英語を使って「どう伝えるか」のほうに向かっていきます。

 そもそも、英語は道具ですからね。まずは伝えたい内容があって、それが伝わるということが大切だと思っています。

 

「伝わる英語」を目指して

——授業のなかで「相手に伝えようと思って、小学生にも伝わるように話してね」と指示されていたのが印象的でした。

勝倉先生

 自分の意見を、他の人に伝わるように言える。たとえ英語がうまくできなくても、どうにかして伝えるように努力する。そこまではやってほしいと思っています。だから「小学生に話すように」ってよく言うんですよ。授業のなかで発言するときも、話す人が相手に伝わるように意識すると、主語で切ったりとかして文構造も分かりやすくなりますしね。まずは、「中身が伝わる英語」を身につけてほしいというのが一番です。その先は、努力次第でいくらでも進んでいけますから。

 それと、話すだけでなく聞く方も大事です。流暢な英語を聞くリスニングもあるけれど、世界では必ずしもそういう英語が話されているわけじゃない。だからこそ「きちんと聞く気をもって聞こうね」と話しています。

 

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——「自分の考えを言えること」と「人の考えを聞けること」が大事だということですね。そうしたことは、なぜ大事になってくるのでしょうか?

勝倉先生

 一言で言えば、社会が変わっているから、ということだと思います。

 日本語って、はっきり言わなくても伝わる部分が大きい。日本という社会のなかで、文脈を共有していればなおさらです。でも、もう日本だけではやっていけない社会になっていて、これからは世界の人と交流していくことが当たり前になっていく。そうしたときに、どうやってコミュニケーションをとっていくのか。黙っていても伝わるという時代ではなく、意識して「自分の考えを伝えよう」「相手の考えを聞こう」としなければダメだと思うんです。そういうコミュニケーションのやり方だけでも覚えてほしいと思っています。

 

 

IMG_6143横浜市立桜丘高等学校は、大正15年に設立された実科高等女学校の流れを汲む、公立の男女共学校。学校教育目標として、「知育・徳育・体育の調和的な伸長」を掲げる。昨年度より、ドイツ・フランクフルト市のシューレ・アム・リードと姉妹校提携を結んでいる。

 

 

 

 

 

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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