マナビラボ

第3回

2015.12.24

想定を超えた学びの創造
−地域課題の解決と授業をつなぐ−【後編】

−−−−今回の授業のめあてはなんでしょうか

浦崎太郎先生:3年生の物理で、光電効果を扱います。アインシュタインがこの理論を構築するまでの常識であった、「光は波である」という考えでは説明できない現象です。この現象を説明することが当時の課題でした。アインシュタインによってすでに明らかにされた知識として教えることはできますが、なぜそれが当時の課題だったのかを認識させ、「アインシュタインがどのようにその課題を乗り越えたのか」、という実際の先人たちの課題解決プロセスを理解することが今回のねらいです。当時の矛盾を理解することは簡単ではない。ところが、この点を理解しないと内容の価値がわからない。「矛盾を深く理解する」ことが今回の目的です。

 

−−「矛盾を深く理解する」ことはなぜ大切なのでしょうか

浦崎先生: 可児高校では、「県立高校改革リーディング・プロジェクト推進事業」に参加して、「地域課題解決型キャリア教育(エンリッチ・プロジェクト)」を実施しています。高校生が実際に地方公務員や市議会議員、地元の住民と地域の課題について考えることで、地元地域の「当事者意識」を身につけることができます。そのためには、地域の課題を課題として認識すること、地域の課題にあるいろいろな矛盾を理解することが必要になってきます。

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−−「エンリッチ・プロジェクト」はどのようにして始まったのですか
浦崎先生:プロジェクトは2013年度からです。きっかけは2011年頃の可児高校の状況です。可児高校では勉学に対しての迷いを持つことで目前の課題に打ち込めない生徒が増えていました。進学実績が頭打ちになっていた。そこで、本気の大人と関わることで生徒があるべき自分に気づけるのではないか、そうすると覚悟が決まって勉学に打ち込めるのではないかと考えたのです。2012年度から、小規模な取り組みに県職員有志が休日を利用して参加してくれる形で大人と生徒が関わる活動を開始しました。そうすると、やみくもに学習作業を強いるよりは志や覚悟の確立に投資したほうが合理的だという手応えを得られた。その取り組みの中で可児市職員と仲良くなり、2013年度からは市職員が公務として協力してくれるようになりました。さらに、同年11月からは可児市議会からの公的な支援を得ています。2014年度から、市民団体にも協力を要請し、今年度からはコーディネートを担当するNPO縁塾が立ち上がりました。

 

−−はじめは小規模だったのですね

浦崎先生:そうですね。しかし、やっているうちに企画・調整が増えてしまった。本務のかたわらでできる量ではなくなってしまったんですね。本務に支障をきたすわけにはいかないし、学校を変える、労力に見合った効果を得るためには、全員参加にしたい。加えて、特定の教職員だけが地域と連携しても、転勤等によって続かなくなる。学校が企画・運営の主体になる連携事業は続かないのです。となれば、地域主体で連携事業をやるしかない。そうすると、市議会・行政・学校・諸団体をつなぐコーディネーターが必要になります。そこで、NPO縁塾が立ち上がりました。

 

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−−授業と地域課題解決型学習とは、どのようにつながるのでしょうか

浦崎先生:アクティブ・ラーニング型授業を地域と学校とでどう分担するか。地域の課題解決と整合性の高い授業を、というのが今回の目的です。今回のテーマはどこに重点をおいても扱えます。「学力向上」がテーマであれば、それもできます。それでも、地域と授業との間のつながり—「探究能力」によるつながりがないと意味がないと考えています。その両者をいかに扱うか。アクティブ・ラーニング型授業と地域課題解決との整合性の高い授業とはどういうものだろうという点に配慮して準備しています。

 

−−授業中にはどのようなことに目配りをするのでしょうか

浦崎先生:「こうなるはず」と「こうなっている」、つまり「仮説」と「実験結果」を、対比させることが大切です。そのために、まず予備考察。光が波動だったら……という仮説を理解するための時間を十分にとります。授業の半分以上。課題を課題として認識するためです。既存の理論では矛盾する結果が出てきたとき、当時の科学者はどうしたと思うか? 実験結果を否定できなければ、科学者は、その実験結果を説明できるモデルを編み出すしかない。その結果として、新たな理論があるのだということ。知見を発見するプロセスまで含める立場に立てば、授業で教える知識も現在進行系になる。当時の課題を乗り越えてきた結果が今、ということを理解できれば、生徒の目の前に直面している課題に取り組むことができるのではないかということです。

 

−−グループワークでの声かけについて教えて下さい

浦崎先生:3年生の今だからこそできる授業です。いろいろ深く理解できるから、本質的な深いことを投げかけてもくらいついてくることができる。そういう基礎学力をつけてきているこの時期だからこそ。とはいえ、グループは一律ではありません。今回のクラスでは、より深く価値のわかる生徒が2割くらいいます。これくらいいると、面白いことも起こってきます。反応のあまりよくないグループもありますが、グループによってゴールも違います。全体としては「矛盾を理解する」ことがゴールですが、個別のグループでの到達点は異なるということを考えています。

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−−授業準備についてどのような考えをもっていますか

浦崎先生:いままで受験学力のためにアクティブ・ラーニング型授業をやってきて、現在はアクティブ・ラーニング型授業と受験学力を過度にリンクさせてはいけないと考えています。もちろん適切な介入は必要ですが、授業後の課題や定着課題が重要です。授業だけでなく、定着をどうフォローするかの方が大事ですね。確認テストや課題が大切である、という認識がより深まってきています。そのための準備はいうまでもなく大切です。例えば、今回は時間を細かく区切ることで予備考察の時間を増やし、課題を十分理解するようにしています。「説明→活動」という流れがすべてに適用されるわけではありません。単元・内容、生徒によって細かくアレンジしてチューニングしていくこと。きっとこうなるだろうから、こういう発問をして、と細部を考えるところまでが準備です。当然、生徒のことをよく見て、想定しておくことが必要になります。

 

−−アクティブ・ラーニング型授業を行うにあたっての考えを聞かせてください

浦崎先生:地域課題解決型学習とアクティブ・ラーニング型授業をやってきて、どちらも大切なものなのですが、最近まで両者のつながりが明確でないと感じていました。両者を別のものとして捉えながら取り組んでいると、負担感がすごく大きくなった。これはなんとかしないといけない、と考えている時に、両者の根っこは一緒なのではないか? ということに思い至りました。当初は確信がないままこのような発想を人に伝えていいのだろうか、と考えもしましたが、いろいろなところで説明していると、共感の声をたくさんもらいました。そこで、受験学力だけではもういけない、地域課題解決も、地域と真につながるものになる必要があると確信しました。学校に社会を入れようとする考えは根強いようにも思えるのですが、可児高校では生徒を地域に送り出していく。その現場から、地域課題解決型学習とアクティブ・ラーニングとのつながりを発信していかなければならないと考えています。

 

 

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岐阜県立可児高等学校は、可児市に所在する1980年創立の普通科公立高等学校。県内でも有数の進学校として、「自ら学ぶ」「自ら治む」「自ら鍛う」の精神を掲げ、「清新はつらつ」を目標に教育活動を行っている。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    木村 充

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