マナビラボ

第25回

2020.01.08

バリエーション豊かな笑顔をつくりたい〜「公共」教材づくりプロジェクトに関わる大人たち〜

まよひが企画 佐藤恒平さん(後編)

NPO法人「6時の公共」による、新科目「公共」の教材づくりプロジェクトに密着取材!(ご参考:http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5872http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5876

取材中に出会った素敵な大人たちをご紹介していきます。

今回は、山形県朝日町で地域振興のコンサルタントとして活動されている佐藤恒平さん特集の最終回(後編)です。

高校生や高校の先生方と関わりながら地域振興に取り組まれている佐藤さん。そんな佐藤さんならではの「教育」への思い、メッセージとは!?

>>>佐藤恒平さん 前編はこちら

>>>佐藤恒平さん 中編はこちら

 

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————レクチャーのなかでも、「選べる社会」を目指したいとおっしゃっていましたね。

佐藤さん:はい、「迷える世界」をつくることが大事だと思っています。勝ちたいと思うと、そのための方法ってたくさん出てくるはずなんですよ。迷いの中で決断すること、勝つための手段を選べるということが、本当の意味での自主性だと思うんです

————「スリル」から学べることは多い。でも、本気で勝とうと思わないと、そのスリル自体が生まれないということでしょうか。

佐藤さん:そのとおりです。スリルって、勝つために努力したぎりぎりの中に生まれるんだと思います。プレイヤーがお互いどんなに努力しあっても、結局最後は運で転ぶということがあるんですよね。ボードゲームの場合は特に、努力が100%報われるってことはないんですよ。

ただ、それは、努力しなくていいってことじゃないんですよね。やっぱり努力はしなくちゃいけない。僕がなくしたいのは、わからないまま勝ったり負けたりすることなんです。わかろうと努力していくと、最終的に、これ以上は考えてもわからないっていうところにぶつかるんですよね。4分の3で勝てるところまではできたけれど、4分の1の確率で負けるかもしれない。100%勝つっていうのは無理だって「わかる」瞬間がくるんです。「わかる」からこそ、4分の3のほうに賭けるべきか、4分の1のほうに賭けるべきかを「迷える」

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————何をもって勝ちとするのかがわからなかったり、ルールがわからなかったりするゲームの中で、「でも、頑張らなきゃ」っていう気持ちだけが空回りしてしまうこともあるように思います。そういう場合、佐藤さんはどうされているんですか。

佐藤さん:大きく分けて2つですね。1つはゲームに参加しないこと。自分はまだルールが分かってないから、そこには参加しませんって言ってしまう。

もう1つは、対話なんじゃないかなと思います。対話といってもお互いコミュニケーションを取れっていう意味ではなくて、「これ分かんないんだけど、どういうことなの?」って問いかけて、いろんな人にその人の見解を聞いてみる。この人はこう思ってる、この人はこう思ってるってことを、採集していくような作業をしますかね。そうやって、ルールを解きほぐしていって、勝ちパターンを考えていきますね

————仕事をするうえで「勝ち」とか「成果」といわれるものは無数に存在すると思うのですが、佐藤さんがこれは追い求めるべきだと思われるのは、どういった成果なのでしょうか。

佐藤さん:まず「商売人」として話をしてしまうと、僕は城の落とし方を教えるプロではありますが、どの城を攻めるべきかを教えるプロではありません。だから、その時その時のクライアントが攻めたい城を落とすっていうのが僕の最大のミッションだとご理解いただければと思います。

登山の喩えでいうと、山の頂上に到達するっていうのがミッションで、なぜそこに向かって頑張るのかといえば、登頂すればお金がもらえるからです。でも、頂上に向かう途中に道を描いていくと、その道でしか出会えないものとか、そこでしか見られない景色とかがあって。そういう出会いとか景色をクライアントにも知ってもらうということが、僕の中では山の頂上なんですね。だから、僕にも山の頂上はあるんですけど、それは本来クライアントが目指している山の頂上ではなくて、クライアントにとっては寄り道の部分なんです。

でも、そういうポイントに寄ることを捨ててでも、クライアントが目指す頂上に行かなきゃいけないときがあるんですよ、職業人としては。だから、それによってお金をもらっているという意味での職業人としてのプライドは、山の頂上にもっています。ただし、働くうえでの楽しさは、山の中腹にあるいくつかのポイントに持っているという感じです。

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————本当に目指したいと思える、自分なりの「山の頂上」を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。

佐藤さん:短いスパンで終わる何かを考えていくことがいいんじゃないですかね

例えば、学校の先生の場合、一つの授業が終わって「よかった、いい仕事をした」と思えるなら、それでいいんじゃないかと思います。一つの授業だと、道のりを立てやすいじゃないですか。僕にくる問題解決の相談の中でも、よく聞いてみると「エベレストを登る方法がなかなか見つからない」って言っているような内容がくることもしばしばあります。でも、富士山にも登ったことない人が多いんですよ。登るならまず高尾山からじゃないのかなって。まずは、自分の適性を測るような小さい山登りをしてないことが問題じゃないですかね。

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————「私はやりたいことがない」「やりたいことが見つからない」という悩みを持っている高校生も多いと思います。

佐藤さん:やりたいことは、基本的に探しても見つかるものではないと思います。

その上で、僕なら、やりたいことは見つからないけれどそれでも生きていかなきゃいけないっていうことを伝えますね。夢は一生追い続けてもいい。ただ、それはいったん置いといて、何かしら生きていかなきゃいけない。でも、何もないまま未開の地をさまようのは大変だから、せめて靴とサバイバルナイフぐらいは持っておいたほうがいいよね、と。じゃあ、靴やサバイバルナイフに相当するものって何なのか。それはもしかしたら語学かもしれないし、試しにビジネスを小さくやってみることによってお金の仕組みが分かるということかもしれません。いろいろあると思います。

みんな、やりたいことを見つける方法を考えちゃうじゃないですか。でも、やりたいことを見つける人たちって、「やりたいことを見つけよう」って思って見つけているわけじゃない場合が多いんですよ。だから「見つけることはそんなに急がなくてもいい」って言ってあげたらいいんじゃないでしょうか。

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————佐藤さんご自身は、今どういったことを目指されていますか。これから先の展望について教えてください。

佐藤さん:先ほども言ったように、あんまり長期の目標は持っていないですけど。ただ、いつも思っているのは、誰かを幸せにすることで自分は生きていけるんだということ。その「誰か」は、必ずしも目に見える誰かではなくて、想像上の誰かでもいいし、過去の誰かでもいい。僕なんか、過去の自分を救うためにやってる企画とか、結構あるんですよ。辛かったあの頃の自分を救ってあげたいなと思って。そんな風に、とりあえずは今の自分じゃない誰かを幸せにするっていうところは、常日頃からの目標にしていきたいと思います。

最後に、その先にある「山の頂上」は何かっていうことですけど、これは僕の中で一つ決めていまして。「バリエーション豊かな笑顔をつくる」ということ。普段自分はこういう笑い方してたけど、こんなものでも笑えるんだ、こんな笑い方もできるんだ、と思ってもらいたいんですよね。ずっとギャグ漫画が好きだと思ってたけど、恋愛漫画を見て「ああ、恋っていいな」と思えるような。そういう今まで味わったことのない感覚で笑えるっていうことを知ったときに、本当の意味で心が動くんだと思うんです。それがアーティストとして一番の本懐ではないかなと思います。

————これからのご活躍がますます楽しみです。ありがとうございました。

 

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佐藤さんってどんな人?

1984年長野県生まれ、福島県会津出身。

東北芸術工科大学・大学院でデザイン工学を学ぶ。

2009年、総務省の地域おこし協力隊(2期生)として朝日町で地域振興に関わる。

2014年、地域振興サポート会社「まよひが企画」(読み方:マヨイガキカク)を設立。現在は、朝日町・山形県と年間契約を結ぶとともに、総務省の地域力創造アドバイザーとして、岩手県と高知県四万十町にも派遣されている。具体的な事業として、朝日町の非公式キャラクター「桃色ウサヒ」を通じた情報発信、ゲストハウス「松本亭一農舎」の運営、イベントの企画・運営など。最近では、発達障害や不登校の子どもたちの居場所づくりプロジェクトも企画・運営されている。(http://mayoiga-k.jp

社名の「まよひが」とは、岩手県の民話『遠野物語』に出てくる、道に迷わなければたどり着けない家のこと。民話では、その家から何かを盗んでくることで、幸せになれるとされている。「地域振興も自分自身できちんと迷い込んで、何かを見つけなければならないし、そうして見つけたものを次世代につないでいかなければならない。そんな思いを社名に込めました」(佐藤さん)。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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