マナビラボ

第23回

2019.12.18

「非主流」地域振興のススメ!〜「公共」教材づくりプロジェクトに関わる大人たち〜

まよひが企画 佐藤恒平さん(前編)

NPO法人「6時の公共」による、新科目「公共」の教材づくりプロジェクトに密着取材!(ご参考:http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5872http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5876

取材中に出会った素敵な大人たちをご紹介していきます。

今回から3回にわたって取り上げるのは、地域振興のコンサルタントとして活動されている佐藤恒平さん。山形県朝日町で、ゆるキャラ「桃色ウサヒ」を通した町の情報発信をはじめ、さまざまな地域振興の事業を展開されています。教材づくりプロジェクトの合宿も、佐藤さんが運営するゲストハウス「松本亭一農舎」で行われました。

今回は、合宿中に行われた佐藤さんの講演をダイジェストでお届けします!

 

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「非主流」の地域振興を目指して

「地域振興」といっても、その内実はさまざまだ。言い方ひとつとっても、「地方創生」「地域活性化」「町おこし」など、地域振興に類する言葉が数多くあって、とても広い概念であることがわかる。だが、そうした多様性にもかかわらず、地域振興の目的は「実は一つしかない」と佐藤さんはいう。それは、「その地域に住んでいる人が、楽しさや幸せを感じられるようにすること」だ。例えば、地域振興の取り組みでは、観光客の数を増やすことを達成目標に掲げることも多い。だが、本当に大事なことは観光客の増加そのものではなく、「観光客の増加によって、どのくらい幸せな人が増えたか」。佐藤さんが代表をつとめる「まよひが企画」では、「地域の人たちに、この場所に住んでいてよかったなと思ってもらうこと」を目指して、地域振興のビジネスを行っているのだという。

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そうした会社の理念を端的に表す言葉がある。それが「非主流」地域振興だ。「非主流」とは、佐藤さんが多様な地域振興を分類するために考え出した言葉で、その分類によれば、地域振興には他に「主流」と「反主流」がある。地域振興の課題を山、地域振興の成果を山の頂上に見立てて、それぞれを説明してみよう。地域振興の「主流」では、成功事例によってすでに発見されている登山道を同じように登って頂上を目指す。つまり、目指すべき成果と成果に至るためのプロセスとが成功事例によってすでに示されていると考え、成功事例と同じようにアプローチしていくのが「主流」の考え方だ。一方「反主流」は、そもそも山の頂上を目指さない。目標となる新しい「幸せ」の形を見つけ出すところから始めるのだ。それは、山の頂上ではなく、海や川や崖にあるかもしれない。「反主流」のアプローチでは、さらにそうした新しい目的地にたどり着くためのルートも開拓していく。言いかえれば、「反主流」とは目指すべき成果もプロセスも新たに開拓するという立場で、こうした立場をとる人々はイノベーターと呼ばれることもある。だが、「主流」と「反主流」はただ対立しているだけではない。というのも、「反主流」のアプローチが成功すると、それは新しい「主流」になるからだ。

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これに対して、「非主流」は、「主流」と同じように山の頂上に目標をおくものの、成功事例と同じ登山道を登るのではなく、新しいルートを開拓しようというアプローチである。地域振興という険しい道のりを行くにあたって、目指すべき目標(山の頂上)が見えているということは、成功のイメージが持てるということであり、取り組む人たちのモチベーションを上げることになるだろう。だが、佐藤さんは、そこに至るプロセスについては地域によって独自のものであったほうがよいのではないかと提案する。その理由は二つある。一つは、皆が主流のルートを登ろうとすると、ルートのなかで競争が起こって、同じ成果を出しにくくなる可能性があるということ。もう一つは、過去の成功事例では運の要素も大きいということだ。同じルートを登っていっても、天候などの運に恵まれなかったら、登頂はかなわない。地域振興の「成功」の要因には、ルートの良し悪しという要素と運の要素とが複雑に絡み合っていて、真似できる部分をすべてを真似してもうまくいくとは限らないのだ。こうした点を考慮すると、成功のイメージは共有しつつ、そこに至るルートは自分たちの町に合ったものを開拓するという「非主流」のやり方は有効なのではないか、と佐藤さんはいう。

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非主流なゆるキャラ「桃色ウサヒ」

そんな「非主流」地域振興という考え方を象徴しているのが、朝日町の非公式ゆるキャラ「桃色ウサヒ」だ。町名の朝日とウサギを足して「ウサヒ」で、佐藤さんはウサヒの「中の人」を公称している。取材中も、町の人から「ウサヒの中の人だ!」と声をかけられていた。「非公式のPRキャラクターとなっているのは、町がお金出していないというわけではなくて、公式にしてしまうとどうしても課長決裁で動かなくちゃいけなくなってしまうから」。町の人から急遽「明日来て」と呼ばれることもあるので、佐藤さん自身の判断で動けるように、あえて非公式という形をとっているのだという。

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もともと、佐藤さんが朝日町の地域振興に関わるようになったのは、大学院時代に朝日町で「桃色ウサヒ」の研究をしたのがきっかけ。地域振興にデザインを生かすという研究の一環として、ウサヒというキャラクターを生み出し、朝日町で試験的に活動していたのだ。その後、2009年に地域おこし協力隊の制度が始まったとき、朝日町役場から「君がやっていた桃色ウサヒの研究に、協力隊の制度を使ってお金を出すから、朝日町に戻ってこないか」という電話があったという。「3年間保証してくれるっていうし、何よりも魅力的だったのが「佐藤くん、新しい着ぐるみ買ってあげるよ」って(笑)。これは人生で一度しか言われることがない台詞だと思って、会社を辞めて朝日町に来ることになりました」。

ウサヒの一番のポイントは、「無個性だということ」だと佐藤さんは語る。「ゆるキャラ」の語を生み出したみうらじゅんさんによれば、ゆるキャラの定義には、見た目からご当地愛が伝わるということが含まれる。だが、「ウサヒの見た目からはまったくご当地への愛が感じられないですよね」。そうした意味で、ウサヒは「ゆるキャラらしからぬ、ゆるキャラ」であり、「無個性だということが、一番の個性になっています」。

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無個性なウサヒを見ていると、こんな気持ちになってこないだろうか。「このキャラクターに任せて、朝日町は本当に大丈夫なんだろうか」。ちょっと頼りないな、という気持ち。もうちょっとやりようがあるんじゃないだろうか、という気持ち。もっとこうしたらいいのに、という気持ち。ウサヒを見たときに感じるこんな気持ちこそ、実は「町おこしに一番大切な当事者意識」なのだと佐藤さんは言う。「結局のところ、別にゆるキャラがいるから町がおきるわけではなくて、ゆるキャラに関わってくれる人がいて、初めて町に情報発信ができます。それに、自分が関わったということによってでないと、誇りとか自信って生み出せないんですよね。町が勝手にやったことがうまくいったからといって、それが地域の自信になるかといったらそんなことはありません。だからこそ地域の人に自ら率先して関わってもらうために、わざと隙の多いデザインを採用しているんです」。佐藤さんによれば、完成したゆるキャラだとそれができない。「地域振興においては、必ずしも「良い」デザインが「最適」なデザインなのではない、というのが僕の見解です」。

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桃色ウサヒというキャラクターが実証したのは、「地域の人を主役にしなくても、地域振興はできる」ということだ。地域振興では、しばしば、地域の人が主役となることの重要性が語られる。だが、ウサヒの場合は、あくまで主役はウサヒで、地域の人びとは「影のプロデューサー」のような役割に徹している。地域の人が「影」になることで、むしろ積極的に、安心して地域振興に関われるようになっているのだ。それは、「主役」という言葉に踊らされることなく、地域の人に当事者として関わってもらうにはどうしたらよいかを考え抜いたからに他ならない

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佐藤さんは、「地域振興のアイディアは、地域の中にいる人がそこそこ持っているんですよ」と言う。地域のPRをする際、インフルエンサーを町に呼んで情報を発信してもらうなど、外部の目線を意識したり、外部のコネクションを活用したりすることは、王道かつ有効な手法である。だが、普段地域で生活をする中でアイディアが生まれていたり、そうしたアイディアを持っている人たちも少なくない。だから、「PRすることそれ自体ではなくて、PRをすることによって地域を活性化していこうという場合には、地域の中の人のアイディアをどんどん採用していくのもありだと思います」。ウサヒは、そうした地域の人(影のプロデューサー)たちのアイディアを、実際に実行に移す部分を担う。それは、「地域の人たちにはアイディアはあるけれど、形にする力がなかったり、時間がなかったり、色々なしがらみがあって実行に移すのは憚られたり……という事情があります。だったら、ウサヒが代わりに実行して、うまくいったときだけ「実はあのおばあちゃんのアイディアだったんです」というと、「じゃあ、私もちょっと良いアイディアがあるんだけど」ってこっそり教えてくれたりするんですよ」。失敗したときには誰かのせいにはせず、成功したときには地域の人の手柄にすることで、ウサヒに関わろうとしてくれる人が増えるのだという。

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異色のゆるキャラ、ウサヒ。それは、朝日町の町民が「育てていく」ことで成長する、町のシンボルだ。この「育てていく」という体験を通して、地域の人びとの自信と誇りを生み出す。それが「桃色ウサヒというプロジェクト」なのだと佐藤さんは言う。

 

地域振興の「正解」

長く地域振興に携わる佐藤さんだが、地域振興の「正解」はまだ見つかっていないと言う。「町おこしという言葉ができたのは1970年代半ばのことだそうなんですけど、いまだに成功した町おこしの本を見ると、『奇跡の〜』って書いてあるんです。ということは、奇跡といわれる程度にしか町はおきていない。とすれば、もしかしたら根本的にやり方が間違っているのかもしれないんです」。だからこそ「非主流」の考え方を大切にしたいというのが、佐藤さんのスタンスだ。「主流もOKだし、反主流もOKです。一番怖いのは、これしかないんだと思って町おこしをやってしまうことだと思っています。仕方なく進んだ道ではなくて、ちゃんと自分で迷って、その中で自ら選んだ道だからこそ頑張ろう、そう思えるような状態にすることが、地域振興で一番大事なことだと考えます。だから、正解は見つかっていないと言いましたけど、実は正解が大事なのではなくて、迷うことが大事なのではないかと思うんです」。きちんと迷い、きちんと選び、きちんと次世代へとつないでいくこと。佐藤さんの挑戦はこれからも続く。

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佐藤さんってどんな人?

1984年長野県生まれ、福岡県会津出身。

東北芸術工科大学・大学院でデザイン工学を学ぶ。

2009年、総務省の地域おこし協力隊(2期生)として朝日町で地域振興に関わる。

2014年、地域振興サポート会社「まよひが企画」(読み方:マヨイガキカク)を設立。現在は、朝日町・山形県と年間契約を結ぶとともに、総務省の地域力創造アドバイザーとして、岩手県と高知県四万十町にも派遣されている。具体的な事業として、朝日町の非公式キャラクター「桃色ウサヒ」を通じた情報発信、ゲストハウス「松本亭一農舎」の運営、イベントの企画・運営など。最近では、発達障害や不登校の子どもたちの居場所づくりプロジェクトも企画・運営されている。(http://mayoiga-k.jp

社名の「まよひが」とは、岩手県の民話『遠野物語』に出てくる、道に迷わなければたどり着けない家のこと。民話では、その家から何かを盗んでくることで、幸せになれるとされている。「地域振興も自分自身できちんと迷い込んで、何かを見つけなければならないし、そうして見つけたものを次世代につないでいかなければならない。そんな思いを社名に込めました」(佐藤さん)。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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