マナビラボ

第24回

2019.12.25

田舎が壮絶に合わなかった!?非主流地域振興の仕掛け人〜「公共」教材づくりプロジェクトに関わる大人たち〜

まよひが企画 佐藤恒平さん(中編)

NPO法人「6時の公共」による、新科目「公共」の教材づくりプロジェクトに密着取材!(ご参考:http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5872http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5876

取材中に出会った素敵な大人たちをご紹介していきます。

前回に引き続き、山形県朝日町で地域振興のコンサルタントとして活動されている佐藤恒平さんを特集。今回と次回は、佐藤さんへのインタビュー編をお届けします!

>>>佐藤恒平さん 前編はこちら

 

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————さっそくお伺いしていきたいと思います。そもそも、佐藤さんが「町おこしって面白いな、自分はそこに関わっていきたいな」と思われたきっかけは何だったのでしょうか。

佐藤さん:僕が通っていた高校は、普通科ではなく総合学科で、美術の専門カリキュラムがある学校だったんですね。そこでのめり込むようにデザインの勉強をしていく中で、ある先生に「デザインにもいろいろあって、どういうデザインをしていきたいのかで全然方向性が変わってくるけれど、君は何のデザインをやりたいの?」って言われたんですよ。そう言われて、なぜか咄嗟に「町おこしとかどうですかね」って出たんです。そしたら、先生は「それはいい」ってすこぶる褒めてくれて。それで気を良くして、町おこしにデザインを使うっていう方向に進むことにしました。

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佐藤さん:じゃあ、なんで急に町おこしが出てきたのか考えると、それはもっと昔、小学校の頃にまでさかのぼって。小学校3年生のときに山奥の村に移住したんですね。自然豊かな場所で、同級生が4人しかいないようなところだったんですけど。でも、僕、壮絶に田舎が合わなくて。母を見ていて、ほんとに人間関係がつらくなってしまったんです。

うちの母はすこぶる明るい人で、移住したときから、町のイベントの司会とか企画運営とかと任されてたんですよ。最初は、「うちの母親、すごく頼られてるな」と思っていたんですけど、そのうちいろんなところで母親の悪口を聞くようになったんですね。でも、イベントをやろうとすると、やっぱり母頼みなんです。

町おこしを頑張る人に対して町がついてこないっていうことに関して、すごく違和感を感じながら生活をしていたんです。地域おこしが必要だってことは学校でも習うはずなのに、誰ひとりとして地域おこしが大切だと思ってないような空間の中で、すごく矛盾を抱えながら生きていた。自然が豊かな環境は好きなんですけど、人がいるせいで田舎が嫌いっていう、ちょっとこじれた考えになっていました。

高校入学を機に、田舎からは無事脱出できたんですけど。でもやっぱり、自分の町をどうにもしようとしない大人たちに会ってきたということが、自分の中で「しこり」としてずっと残っていて。そういう中でデザインを勉強して、デザインに何かしらできることがあるんじゃないかって思ったのがきっかけですね。

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————地域振興を登山に喩えてお話しされていましたが、佐藤さんご自身、次々と新しい登山ルートを開拓されていますよね。

佐藤さん:発想のオリジナリティーという話でいうと、僕はオリジナルで手法を作っていますけれど、実はそんなに個性的なことはやってないんですよ。「非主流」の地域振興って、格闘技でいえばカウンターなんです。相手がある程度何かしらの成果を出していないと、こっちの成果が出ないっていう感じなんですよね。ゆるキャラが流行らないと、「桃色ウサヒ」の意味がないんですよ。主流がないと意味がない。つまり、最高に後追いなんですね。

みんな「オリジナリティー」っていうと、未開の荒野から何かを発掘しなきゃいけないっていうイメージで考えるじゃないですか。でも、僕の場合は、ゴールはすでに見えてるので、ゴールに向けての道の開拓だけにオリジナリティーを注ぐことができる。だから、数がたくさんできるって感じかなと思います。

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————そういう「非主流」なやり方が自分に合っているかも、と気づかれたきっかけはどんなところにあったのでしょうか。

佐藤さん:僕も常々それを考えているんですけど、よく分からないんですよね。ただ、親には常日頃から「オリジナリティーが高いもの、人と違うものをやれ」とは言われていました。だけど、「人と違う」といっても、何もないところからやったものが人と違う人と、人を見て違いをつくれる人というのは、全然違うんです。他を見ずに自分でやったことが他の人と全然違うっていう人もいるじゃないですか。僕はやっぱりそういう人たちを天才っていうんだなと思ってるんですけど、僕はむしろ、天才もいて普通の人もいる世界を俯瞰して見た上で、結局「ここをつくる人はいないから、ここがオリジナルだな」という風に考えています。そういうやり方でしか、親がいう「オリジナリティーが高いものをやる」ことができなかったというのが、きっかけかもしれないですね。

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————「非主流」というのは、いま流行っているものや成功しているもの、つまり「主流」が分かった上で、それを少しずらしていくという発想なんですね。「6時の公共」の皆さんが開発している教材も、当たり前に思っていることやルールを疑ってみようっていうところが核として共有されているように思います。でも、それって実は難しいことでもありますよね。疑おうと思って力が入りすぎてしまうと、「当たり前」への批判が逆にステレオタイプ的なものになってしまったりする。「非主流的」なモードになるコツはあるんでしょうか。

佐藤さん:例えば、これはゲームから学んだことなんですが、勝ち負けが賭けられた中でのスリルを楽しむことができるかどうか、というのが大きいんじゃないでしょうか。最後の最後まで勝敗が分からない、混戦状態のときのほうが面白かったりするということを知っているっていうのがあるかもしれません。

あとは、脱力している人間が一番モテるんじゃないかと思ったことも関係していると思いますね(笑)。根幹には、「かっこつけたい」という気持ちがある。でも、ただ斜に構えているだけだと、本質的にはかっこ悪いじゃないですか。そことも違うかっこよさを目指さなくちゃいけない。つまり、僕の周りにいるかっこいい人たちをたくさん並べたときに、そこにはないかっこよさを目指そうとしているところがありますね。服のセンスがいいからモテる奴らとは違うモテ方をしたいとか。友達いるやつはモテるから、友達いないままでモテたいとか。

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————なるほど、分かりやすいですね(笑)。いまゲームを通じて学んだというお話が出ましたが、佐藤さんご自身もゲームを使って研修をされたりしていますよね。

佐藤さん:いま、ゲームを使った研修や教育の主流は、アイスブレイク的なものか、何かのワークをロールプレイで体験するという方法なんですね。

でも、僕のゲーム研修は、市販のゲームを使って、勝つために努力するということを必ずやってもらう。きちんと勝ち負けがあって、まずは勝つことだけを目標にやってもらって、その中で知見を得てもらうというやり方です。勝ち負けを大事にするゲーム研修をするというのは、僕なりの非主流かなと思ってます

————勝ち負けを大事にされるのは、どうしてなんですか。

佐藤さん:教育の現場においては、多くの場合、勝負はなかったものにされます。でも、現実の社会の場合は勝負ばっかりじゃないですか。だから、本来あるものをなかったものにしないために、教育が嘘をつかないために、いま足りていない勝負を大事にするゲーム研修をしています。つまり、バランスを取りたいんですよね。それが、非主流であり続ける一つの理由かもしれません。(後編に続く)

佐藤さんってどんな人?

1984年長野県生まれ、福島県会津出身。

東北芸術工科大学・大学院でデザイン工学を学ぶ。

2009年、総務省の地域おこし協力隊(2期生)として朝日町で地域振興に関わる。

2014年、地域振興サポート会社「まよひが企画」(読み方:マヨイガキカク)を設立。現在は、朝日町・山形県と年間契約を結ぶとともに、総務省の地域力創造アドバイザーとして、岩手県と高知県四万十町にも派遣されている。具体的な事業として、朝日町の非公式キャラクター「桃色ウサヒ」を通じた情報発信、ゲストハウス「松本亭一農舎」の運営、イベントの企画・運営など。最近では、発達障害や不登校の子どもたちの居場所づくりプロジェクトも企画・運営されている。(http://mayoiga-k.jp

社名の「まよひが」とは、岩手県の民話『遠野物語』に出てくる、道に迷わなければたどり着けない家のこと。民話では、その家から何かを盗んでくることで、幸せになれるとされている。「地域振興も自分自身できちんと迷い込んで、何かを見つけなければならないし、そうして見つけたものを次世代につないでいかなければならない。そんな思いを社名に込めました」(佐藤さん)。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    村松 灯

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