マナビラボ

第48回

2018.04.25

まちづくり×まなびづくり:コーディネーターとしての教師

後編②

新潟県立佐渡中等教育学校・進路指導部の宮崎芳史先生の授業では、生徒たちのプロジェクトを学校の中で完結させるのではなく、地域に開いていこうとする。そんな宮崎先生の思い浮かべる教師像とは?…プロジェクトは地域に開かれるだけでなく、地域のものになる。

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人と人をつないでいくポイントは何ですか?

宮崎先生:誠意だと思っています。これも企業時代に学んだことですが、人をつなぐとか人から信頼されるというときには、誠意を尽くすということが大事なのだと思います。学校の外部とのやりとりをするときには本当に心を尽くして、協力してくれる方一人ひとりためになっているかどうか、常にちゃんと考えなければならない。たとえば、今日授業に参加してくれた地域の方々が、大人と子どもの関わる機会をもっと作らないといけないというモチベーションをもっていることを知っているからこそ、こういうプロジェクトの授業への協力をお願いできるのです。

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先生にとって教師とは…。

宮崎先生:学校にどっぷり所属して「学校の教育活動に協力してください」と言っても、企業を経験した身からすれば、いつ、どこで、そんなボランティアをするような時間があっただろう…と思うのです。たまに、時間を絞り出して協力できることもありますが、それは継続的なものとはなりにくいでしょう。結果として教育につながるというスタンスでなければ誰も協力してくれないと思いました。むしろ、地域づくりの方に軸足を置いて、佐渡のため、ひいては、佐渡の企業のため、というところに軸足を置いて、そこから学校の教育活動に落とし込んでいくという方がよいのではないかな、と思っています。

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以前から「まちづくり」には興味がありました。どうやって人と人をつなげていくか、人が“豊かな”環境を守っていきたいと思える仕掛けをどう作るか。教員になったときにも、人と人をつなげる場づくりという意味での「まちづくり」に貢献したい、というのがありました。地域づくりの方に軸足を置いて、そこから学校の教育活動に落とし込んでいくことは、一般的な教育論からすると建前の話なのかもしれませんが、自分にとっては本音の話なのです。こんなにやりがいがあって楽しい仕事はないと思います。自分にとって「まちづくり」と生徒の成長は完全につながっている、両輪です。

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コーディネーターとしての教師の役割を重視しているのでしょうか。

宮崎先生:それはありますね。教員が示すものは知識だったり、熱い思いだったりすると思うのですが、コーディネートするとか場づくりをすることも重要なのだと思います。今世の中で求められている資質・能力とは何か、それを身につけさせるにはどうしたらよいか、と考えたとき、場づくりの仕方、クリエイティブなアイディアの出し方、環境の整え方、人と人をどうつなげていくか、そのときに何を心掛けなければならないか、そういうことも重要ではありませんか。でも、これまでそういうことを教員が見せてこられたか。一部の部活の先生はいろんなところと協力することで、そういう姿を見せてきたのだと思いますが、学校の中だけで動いている教員がそういうものを見せることができるかというと、できないと思います。自分は、生徒の隣にいる教員というよりは社会人として、背中を見せていきたいと思っています。

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今日の授業ではクリエイティブということが一つのポイントになっていましたが、クリエイティブを育てるとは…。

宮崎先生:クリエイティブなアイディアは雑談の中から生まれるというのが大前提だと思っています。いかに雑談を生み出せるかですね。子どもたちの中に答えがあってそれを引き出すわけですが、やっぱり子どもたちの世界は狭いので、世界を広げることが大事だと思います。たとえば今日は、佐渡の綺麗な写真が載っている雑誌やガイドブックを置いたり、去年のプロジェクトの報告書をいくつか並べたりしてみました。これだけで子どもたちの世界は広がるのだと思います。

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生徒たちと一緒に、雑誌を1ページずつめくりながら、彼ら・彼女の中から出てきたアイディア、たとえば「オシャレ」のイメージに少しでも近いものを探してみたり、音楽を流して生徒がワクワクする雰囲気をつくったりすることも、生徒たちのクリエイティブなアイディアの創出につながると思います。従来、学習における「不要物」と言われてきたようなものが、実はクリエイティブを生む種になるのかもしれませんね。とはいえ、自分のやり方や信念を周りの先生に押し付けてはいけないと思っています。カチッとやるところはカチッとやる、学校らしいところの良さは良さとして、他の先生方の理解や協力を得ながら、メリハリをつけて、こうした取り組みを進めていくことが重要ですね。学校の外の協力者の方々にお願いしているのは、それでも足りない部分です。学校の外とのつながりを作るためには、常にアンテナを張っておく必要があるし、絶対にタイミングを逃してはいけません。いわゆるクリエイティブには程遠いような泥臭さがあるけれど、これも生徒たちのクリエイティブなアイディアの創出を支えるうえで大事なことだと思っています。

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今後の課題について教えて下さい。

宮崎先生:課題は、やはり、継続性です。最初は自分の学年のために、と思っていたのですが、地域の方と関わる中で、地域の方にとっては一回限りでは意味をなさないし、教育活動としてもそうなのだと思います。「続けるんだよね」「来年も再来年もやるんだよね」と協力してくださる方々に言われてきて、それに応えていかないといけないと思いました。じゃ、継続するにはどうやっていくか、となったとき、学年ではなく学校(進路指導部)としてずっと継続していくことができる組織づくりが重要なのだと思います。その意味で、入試が変わってきている今は、チャンスなのだと思っています。校内での組織づくりについていえば、たとえば、いかに新入試に対応できるかという文脈を共有して、こういうプロジェクトをすすめていくことができます。一方で、外の人がいるからこそできるこうしたプロジェクトを、教員の入れ替わりが激しい(公立の)学校で継続していくことの難しさもあります。誰が引き継ぐのか、というのが一番悩ましいことですが、学校の中だけでプロジェクトに必要なノウハウやつながりを引き継ぐのではなく、学校の外(地域)でそれを引き継ぐことのできる組織というのが必要になってくるのだと思います。学校の外で学校のキャリア教育を支援してくれる組織を強化していくことです。つまり、宮崎という教員がいなくても、このプロジェクトが継続していくような仕掛けを考えることですね。地域と学校をコーディネートするような行政の仕組み、一つの学校に所属するのではなく、学校間をつなぎ、地域に所属する地域コーディネーターのような役割もこれからは一層必要になってくるのではないでしょうか。

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-学校の中から地域を捉えるのではなく、地域の側から学校を捉えようとする宮崎先生のお話、とても新鮮でした。地域と学校を本当の意味でつなぐキャリア教育という窓から、これからの教師像をのぞいているような気持ちがしました。

本日は、ありがとうございました。

 

2008年4月、新潟県立佐渡中等教育学校は「佐渡の歴史と文化に誇りを持ち、豊かな知性と人間性を身に付け、世界的視野で活躍できる人の育成」を教育目標に掲げ、開校した。中等一貫教育の強みを生かし、6年間を通した系統的な活動やキャリア教育の充実に取り組んでいる。郷土愛の育成の一環として「佐渡学」講座が開講されるなど、地域との交流から体験を通して郷土への理解を深めることもカリキュラムの中に盛り込まれている。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    松尾 駿

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