マナビラボ

第47回

2018.04.18

プロジェクト継続の鍵としての地域

後編①

今回はおじゃましたのは、新潟県立佐渡中等教育学校・進路指導部の宮崎芳史先生のプロジェクトの授業。キャリア教育の一環として取り組まれているプロジェクトがめざすのは、生徒、教師、地域が、それぞれ本気のモチベーションでかかわっていける、みんながwin-winである、ということだ。生徒たちのプロジェクトは、学校の中で完結するようなものではなく、地域に開かれている。生徒のワクワクと地域の思いをつなげる教師のお仕事の一端をのぞいてみよう。

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プロジェクトを始めたきっかけについて教えて下さい。

宮崎先生:佐渡中等教育学校でなぜこのプロジェクトを始めたかというと、同校に赴任した昨年度、4年生(高校1年生)の担任になって、高校1年生からどうやって3年間キャリア教育を積み上げていくか考えたときに、中核になるのは、いかに地域の人と学校をつなげるか、ということだと思ったからです。一番最初に取り組んだのは「地域人と話そう」という授業で、佐渡キャリア教育ネットワークというところで知り合った地域おこし協力隊の方を招いて実施しました。地域おこし協力隊は生徒たちにとってすごく勉強になるモデルだと思っています。というのも、ゼロから自分で仕事を作り出していく、しかも、佐渡という場所に来て課題を見ながらクリエイティブに何かを生み出していかないといけない、という地域おこし協力隊の人たちの考え方に触れることは、生徒たちの刺激になるからです。実は前任校でも、キャリア教育を推進するNPO法人みらいずworksに協力してもらって「職業人と話そう」という授業を行いました。そのとき授業に参加してくれた地域おこし協力隊の方から「ないものは自分が作ればいいんだ」という考えが出てきて、それによって、生徒たちの発想も変わっていったのです。地域と生徒をつなぐことには教育上すごく意味がある、と実感しました。これがこのプロジェクトの大元にあります。

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どうやって学校と社会とをつなぐかという中で、これまで、新潟大学のゼミやいろんな企業の方に来てもらって大学生や職業人と話す機会を作ったり、キャリア教育ネットワークに「佐渡のしゃべり場」という場を作ってもらって、そこに生徒たちが参加するよう背中を押したりしてきました。自分の中でのビジョンで、ここは絶対ぶらしちゃいけないと思っているのは、社会との関わりの先にある「社会人としてどうやって世の役に立つか」ということです。しかし、学校の中だけでは本当に社会で求められているものがどういうものか実感をもって説明できない。生徒たちが、世の中で求められている力ってこういうものだな、社会ってこういうものなんだな、と体感するような機会を作るために、その方法論として、できるだけ学校の外の、社会の人に関わらせたいと思ってこういう活動をしています。

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地域とのつながりに注目しているのですね。

宮崎先生:一般的な教育はどうしても生徒のためということだけになりがちだと思います。地域のためというよりは生徒の成長のため、極論でいえば、佐渡に帰ってこなくてもよいし、地域のためでなくても、生徒が成長できればよいという…でもそれだと、地域の人たちが教育に協力するモチベーションにつながっていかないのではないでしょうか。学校が「地域に貢献する」と本気で思っているからこそ、地域の人たちは、佐渡のため、地域のため、というところに意味を見出して教育にも協力してくれるのだと思います。たとえば、地域おこしプロジェクトや佐渡のためにできる仕事を考えよう、ということで、リアルな(地域の)課題を設定して、生徒たちにその解決方法を考えてもらいますが、生徒たちだけではできない、地域の人や大人の支えが必要だ、協力者を呼び込みたい、となったときに、地域のためということを本気で思っていないと協力してもらえない…生徒たち自身の、佐渡のため、地域のため、という本気の思いが最終的には重要になってくるのです。本プロジェクトは、当初学年のキャリア教育として実施していましたが、今年度からは学校全体で進路指導部として取り組んでいます。3年目に入りましたが、今後、進路指導部としてやっていくためには自分の力だけではできないので、いかに地域の組織づくりをすすめていくか、協力者をつなげていくか、に重点を置いて活動しているところです。

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「キャリア教育」に対する問題関心について教えて下さい。

宮崎先生:キャリア教育については教員採用試験のときからすごく重要視して考えていました。二次試験の面接で何を話そうか、90倍を勝ち抜くためにどうしようか、ずっと教員をやっている人と差別化できる自分の強みは何だろう、と考えたときに、企業で営業を5年やっていたことを生かして教員をやらなければ、採用されることもないし、活躍することもできないと思いました。そう考えたとき、今の世の中でキャリア教育が求められているということ、自分の強みを生かせるということに、ピンと、グッときて、キャリア教育に力を入れていこうと決めました。今できることは全部キャリア教育だし、教育活動そのものがキャリア教育につながっているし、部活動も、教科の活動も、何でもキャリア教育になるのだと思います。とりわけ、自分としては、キャリア教育を「生徒の心に本気になる火をつけること」として捉えています。社会の本気でやっている大人と関わる中で、生徒たちには、自分のキャリアプランニングにおける目的意識やビジョンを明確にし、本気になってほしいのです。

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社会の本気の大人との関わりが重要なのですね。

宮崎先生:自分が社会人経験をしてきた中で、世の中で求められている力は、勉強だけではなく土台としてのコミュニケーション力だと感じていました。そういう力をどうやって育てていくのかと考えたとき、最初は、社会人経験者として「世の中ではこういうものが求められている!」ということを自分が伝え、生徒たちを本気にさせたいと思っていたのです。でも、教員になった途端に、自分の言葉をすごく嘘くさく感じるようになったのです。企業人として語っていた言葉にはリアリティがあったのですが、教員として言うと、教員の都合のよいように世の中を見せて生徒をうまく丸め込もうとしているような…。もちろん、教員の言葉で生徒が変わることもあると思うのですが、教員という立場から発することの嘘くささを感じてしまった。それよりも、生徒をもっといろんな人とつなげて、刺激になるような出会いを演出していくことの方が重要なのではないかな、と考えるようになったのです。今、自分の中では「出会いを刺激に」というのがキーワードになっています。前任校から佐渡に赴任して以来「よし、学校に誰か連れてこよう!」と思って、自分から地域に飛び込んできました。

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地域の方々との関わりで、生徒たちの学びはどのようなものになっていると思いますか?

宮崎先生:今日の授業にもたくさんの地域の方が参加してくれました。こういう授業をすすめていく中で、生徒の中から「自分たちは恵まれている」「恩返しをしたい」「佐渡の魅力は人だ」という発言が出てくるのは自分としては予測していなかったことでした。当初、プロジェクトにおける学びの中心は、佐渡の魅力の発掘と発信と考えていたのですが、生徒たちにとっては、プロジェクトを通して地域の人たちと本気で関わった経験そのものが重要な学びであり、その経験から佐渡の魅力を捉え返しているのですよね。

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生徒たちのプロジェクトを地域へと開いていく宮崎先生の思い浮かべる教師像とは…?後編②につづく。

 

2008年4月、新潟県立佐渡中等教育学校は「佐渡の歴史と文化に誇りを持ち、豊かな知性と人間性を身に付け、世界的視野で活躍できる人の育成」を教育目標に掲げ、開校した。中等一貫教育の強みを生かし、6年間を通した系統的な活動やキャリア教育の充実に取り組んでいる。郷土愛の育成の一環として「佐渡学」講座が開講されるなど、地域との交流から体験を通して郷土への理解を深めることもカリキュラムの中に盛り込まれている。

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