マナビラボ

第46回

2018.04.04

出会いから企画へ

前編②

新潟県立佐渡中等教育学校・進路指導部の宮崎芳史先生が担当する「佐渡を豊かにする『中等生PROJECT』〜中等生が始めるクリエイティブな島づくり〜」というプロジェクトの授業のワークショップⅠ、Ⅱでは「佐渡の豊かさとは何か?」について、それぞれアイディアを出し合い、共有した。次のワークショップⅢでは、地域の大人たちの力を借りながら、アイディアを具体的な企画に発展させていく。

 

【ワークショップⅢ〜アイディア創出&企画書づくり〜】

休憩後、この日最後のワークショップに移った。まずは、前のワークショップでチームごとにまとめたものを、個人のワークシートに落とし込んでいく作業に取り組んだ。そのうえで、宮崎先生がいうところの「天地人分析(流行、佐渡・中高生の強み、人のつながり)」を意識しながら、アイディアの創出&企画書づくりに取り組んでいく。「すでにみんなからいろんなアイディアが出ているけれど、実現したい『豊かさ』とはどういうものかを意識しながら、『豊かさ』を実現するためにはどうすればよいかを考えながら、すすめていきましょう」。

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最後のワークショッップの肝はアイディアをより具体的にしていくこと。①ブレーンストーミング、②アイディアのグルーピング、③大人からのアドバイスタイム、④企画書づくり(概案)という手順ですすんでいく予定だ。まずは、各自アイディアを一つずつ付箋に書いて、チーム内で共有する。宮崎先生から画用紙が配布された。「(付箋を)一人一枚ずつ貼ってぐるぐる回していきましょう。配布した画用紙は縦に使って順番に縦に貼っていって、似ているものは横に貼っていきましょう」。

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生徒たちからは様々なアイディアが飛び出す。「さっき出たアイディアの、ジブリとかの、PR動画を作る」「全島をあげたイベントをする。たとえば、佐渡一周をたくさんの人が手をつないで囲んでみて団結できるみたいな」「島流しマニアとかいるかもしれない」「島民みんなで協力してできるギネス世界記録に挑戦する」「ロング『いごねり』を作る」…

 

途中で去年プロジェクトをやり遂げた先輩たちが様子を見に来た。先輩たちの言葉からは、プロジェクト遂行の苦労と達成感がひしひしと伝わってくる。「自分たちのプロジェクトの準備が終わったのは当日の朝で…。そこから学んだことは、どんなプロジェクトに対しても最低2週間前にはそのプロジェクトができるように見積もっておかないといけないということです」。「自分はそれまで地域に興味はなかったんですけど、(ビジネスデザイナーの)増山さんや地域の人たちの支えがあって自分たちの企画を押し通すことができました。プロジェクトの実施が近くなるとアクシデントやトラブルも多くなって、精神的に辛くなることもあったけれど、それだけ結果は伴ってくるので…」。

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休憩を挟んで、大人からのアドバイスタイム。大人たちが、それぞれのチームのアイディアを聞いてコメントする時間だ。生徒たちは、ワークシートのアドバイスタイムという欄にメモを取りながら、大人たちの声に耳を傾ける。4年生チームが、グルーピングしたアイディア群について説明を始めた。「これは、PR系。動画で佐渡にあるジブリみたいなところをとったり、映画をとったり…」「こっちはイベント系です。海のイベントをしたから次は山のイベントかな…」「私が一押ししている食べ物系です。佐渡には美味しいお米とかがあるので、佐渡の食べ物と良いところを巡ったりして…」。

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PR系・動画と聞いて、カメラマンの松尾さんから…「最近低予算でやっているのが面白いというのがあるけれど、話題性が抜群というのを追求できないといけないと思う。流行ってるってことは、埋もれちゃう可能性があるってことだから、どこで見せるのかを考えることも大事。駅で流すとかテレビで写してもらうとかね。YouTubeだと、そこまで辿り着いてもらえないかも。そうすると、PRのPRが必要になっちゃうからね。ターゲットは誰なのか…」。

松尾さんのコメントに続けて、地域のイベントをディレクションしている関根さんも…「PRのPRになっちゃうっていうのはそうだよね。何をしてるのかわからなくなっちゃう。PRをして何が残るんだろう。みんなは今佐渡をPRしようとしてるけど、もしそのPRが成功したとして、残った先のものをイメージして作ることの方が大事なんじゃないかな。PRをして、人を爆発的に呼ぶことも大事なのかもしれないけど、人を呼んだ後、実際そこに何が残るのか。それが実際に幸せにつながるのか…」。

また松尾さんから…「PRって言ったら、マーケティング調査とかも必要かもね。みんなはずっと住んでるから、みんなの知らない佐渡のよさとかあるんじゃない?」「台湾とか中国からのお客さんは多いけど、どうして佐渡に来るんだろう…。」生徒たちの素朴な疑問につながった。

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「ロング『いごねり』って…?」島外から来た大人のつぶやきに生徒たちは目を丸くしながらも、「こういうので、ワサビ醤油で食べると美味しいんですよ!」と教えてくれた。「いごねり」トークで盛り上がっていると「いごねり」生産者の山内さんが飛んできた。「佐渡のスーパーでは普通いつでも売ってる。これくらいのサイズで。海藻の練り物です。こんにゃくとところてんを足して2で割った感じかな。普通に使う板がこれくらいの大きさだから、長い板を作ればロング『いごねり』できると思うよ。でも、佐渡にしかないからギネスに登録…できるかな?」生徒たちは「みんなでやったら面白そう」とニヤニヤ。大人たちのコメントを聞きながら、生徒の中から「ツアーとかじゃなく、島民にも楽しんでほしいんだよね」という声が漏れた。

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「現時点で、佐渡が一番盛り上がるイベントって何なの?」今度はイベント系のアイディアに対するコメントのようだ。生徒から「トライアスロンかな?」という答えが返ってきた。「そこで人が来るんだったら、同時進行で何かやったら…宣伝するだけでも難しいからね」。イベント系とPR系を抱き合わせる提案だ。「トライアスロンと…『いごねり』?」生徒たちの笑いは止まらない。しかし、「トライアスロン手伝ったりするの?トライアスロンしてるときみんなは何してるの?」という質問には「……」。生徒たちにとっての一番のイベントは、トライアスロンではなく、夏に開かれる地域のお祭りらしい。すると、ビジネスデザイナーの増山さんからすかさず「なぜ、それに行きたいの?」という質問が飛んできた。「遊ぶ場がないから」「いろんな人に会えるから」「おめかししてね」と答える生徒たちに、増山さんが「おめかしする場がほしいってこと?」と質問を重ねていく。関根さんが一言「これってすごいヒントなんじゃない?」

佐渡市職員の川上さんは「島外の同世代の人との交流」というアイディアに注目していた。川上さんのツッコミを受け、「違う離島の高校生と島サミットとかする?」「島あるあるとかできそうだよね」「島高校生!」…生徒たちから新しいアイディアがどんどん出てくる。

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この日の授業は、一人一人が活動を振り返り、感想を共有しておしまい。「自分たちがバーと出したアイディアが大人の人たちからアドバイスをもらうことによって、現実的になって、本当にプロジェクトをやるんだ、という気持ちになりました」。「今日話し合っただけでも、自分の知らないイベントとかがあって、島内でも情報の共有・交換ができていないこともあるんだな、と思いネットワークの重要性を感じました。島内だけでなく、島外の人の視点も考えることが大事だと思いました」。「話し合って佐渡のよいところにたくさん気づけたし、生まれ育ってきた佐渡をみんながもっと好きになれるプロジェクトを企画したいと思いました」。「いろんな人の考えを聞いて、みんなと大人の方と一緒に盛り上がって楽しかったです。忙しい中、大人の方が来てくれて私たちは恵まれているんだな、と思いました」…。

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チームで企画書にまとめる作業は、次回までの宿題になった。次回は「アイディアを形にする」活動を宮崎先生とビジネスデザイナーの増山さんが中心になってファシリテートするという。増山さんからは、次回に向けてチーム内でアイディアを「深掘り」する、という課題が与えられた。最後に、シェフの尾崎さんからは「(特に食についてはよくあることだけれど)どんなアイディアも具現化する過程でいろいろな制約が出てくること」、でも「まずはそれに囚われずに考えて、はじめのアイディアが具現化の過程で変化していくことを楽しんでほしい」というエールが送られた。

 

授業終了後、宮崎先生にお話を伺った。後編へ続く。

 

2008年4月、新潟県立佐渡中等教育学校は「佐渡の歴史と文化に誇りを持ち、豊かな知性と人間性を身に付け、世界的視野で活躍できる人の育成」を教育目標に掲げ、開校した。中等一貫教育の強みを生かし、6年間を通した系統的な活動やキャリア教育の充実に取り組んでいる。郷土愛の育成の一環として「佐渡学」講座が開講されるなど、地域との交流から体験を通して郷土への理解を深めることもカリキュラムの中に盛り込まれている。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    松尾 駿

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