マナビラボ

第45回

2018.03.28

佐渡の豊かさ再発見!

前編①

新潟県立佐渡中等教育学校・進路指導部の宮崎芳史先生が担当する「佐渡を豊かにする『中等生PROJECT』〜中等生が始めるクリエイティブな島づくり〜」というプロジェクトの授業におじゃました。プロジェクトの実施は次年度の4月から9月を予定している。今回は、1月のプロジェクトの始動に立ち会わせていただいた。3・4年生の有志でプロジェクトチームを結成し、「佐渡の豊かさとは何か?」を考えるところから始め、アイディアを共有していく。

集まった生徒は、3年生(中学3年生)5名と4年生(高校1年生)6名。プロジェクトの実施時には、学年が一つ上がり、みんな高校生になっている。全体をファシリテートする宮崎先生の他に、佐渡中等教育学校の先生が数名と地域の方が数名(レストランを経営するシェフの尾崎さん、ゲストハウスのオーナーで佐渡の郷土料理「いごねり」を生産している山内さん、ビジネスデザイナーの増山さん、佐渡市職員の川上さん、地域のイベントをディレクションしている関根さん、地域おこし協力隊の渋谷さん、カメラマンの松尾さんなど)、この日の授業に参加した。

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「“中等生が始めるクリエイティブな島づくり”が今日から始まるわけですね。みんなからクリエイティブな動きをしていって、それが佐渡全体に広がって、もっとこういうことやってみよう、あれもこれもチャレンジしてみようという雰囲気を作っていけたらいいな、と思っています。クリエイティブでアクティブでコラボレーションができてデザインをしてすすめていくことができる、そんな力をつけて、社会で活躍することにつながったらな、と思っています。そういう話はさておき、楽しく、わくわく、仲良くが重要です。大変なこともあるかもしれないけれど、乗り越えることで達成感や一体感が得られるのだと思います」。

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宮崎先生からプロジェクトの趣旨説明があったあと、授業の進め方についての提案があった。それは、生徒みんなが“ファシリテーター”になること。「簡単に言えば、ファシリテーターというのは、みんなの考えや思いを引き出す人です。今日は全員にファシリテーターになってほしいと思っています。そのために、まずは聞き上手になってください」。みんなが話しやすい、参加しやすい雰囲気の重要性が共有されたあと、そうした雰囲気は、相手への共感を示したり、話のペースを相手に合わせたりといったちょっとした気遣いで可能になることが確認された。そのうえで、宮崎先生は、目的を意識して活動をすることが肝心だと強調する。話すのに夢中になっても忘れてはいけない本日のミッションは「佐渡を豊かにするクリエイティブなアイディアを企画書にまとめる」ということ。でも、そもそも「豊かさ」って何だろう?授業の出発点はココだ。

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合計4時間にわたる長丁場となるこの日の授業は、3つのワークショップから構成されている。

【ワークショップⅠ〜豊かさとは何か?〜】

まずはアイスブレイク。授業の参加者みんながゲーム形式で「佐渡の魅力」について6人にインタビューをした。それを踏まえ、生徒たちは個人で自分の思う「豊かさ」について考え、A4の用紙に一言でまとめ、発表した。「豊かさ」とは…「自然が綺麗なところ」「漁業が盛んなこと」「心の余裕」「心が満たされていて満足感があること」「人々が幸せと感じること」「物と心が両方満たされていること」「人の温かみ」…。生徒たちは、他の人の意見を踏まえて、もう一度「豊かさとは何か」について個人で考え、簡単にまとめ直し、それぞれの考えを教室の壁に貼り出した。壁に貼り出されたみんなの考えを休憩中に自由にのぞくことができる。休憩時間には、宮崎先生が用意した音楽が流され、教室の雰囲気が和む。

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【ワークショップⅡ〜PROJECTがめざす佐渡の豊かさビジョン〜】

休憩後、3年生チームと4年生チームに分かれて、プロジェクトの具体的な立ち上げ作業がはじまった。配布された用紙を半分にして、左側には「佐渡の豊かさ」を、右側には「PROJECTがめざす佐渡の豊かさビジョン」を書くよう宮崎先生から指示が出された。表現方法は、文章でも絵でもよいという。また、生徒たちの議論を聞きながら、宮崎先生(3年生チーム)と地域おこし協力隊の渋谷さん(4年生チーム)が、チーム内でのつぶやきを拾って別の用紙に書き留めていく。宮崎先生も渋谷さんも、生徒たちから出てくる漠然とした考えがより具体的に表現されるよう、相づちを打ちながらも、ツッコミを入れたり質問をしたりしている。

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こうした活動にまだ不慣れな3年生チームの議論は宮崎先生のサポートで少しずつすすめられる。その一方で、これまでにもこうした活動を重ねてきた4年生チームは自分たちでどんどんすすめていく。6人のチームワークもばっちりだ。つぶやきを書き留める渋谷さんのツッコミと絵がチーム内での会話をさらに弾ませる。

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4年生チームは、議論のはじめに「豊かさ」を4つにカテゴライズした。「佐渡の豊かさ」と「PROJECTがめざす佐渡の豊かさビジョン」を、食・自然・心・生活の4つの観点から議論していく建て付けを何気なく作ってしまった。「ビジョンを具体的にするといっても、まだ何をやるかわからないよね。けれど、終わった時にこうなってたらいいな、という願いみたいなもの、あるかな…」。主に3年生チームをサポートする宮崎先生の声は4年生チームにも聞こえている。議論の途中、宮崎先生が何度か4年生チームの様子を見に来た。一枚の用紙を半分にしてさらに自分たちで考えたカテゴリに従って4等分した8つの小さなスペースに書き込んでいる様子を見た宮崎先生が「別の紙に一つ一つに分けて書いたら?」と提案した。すると、4年生チームは微妙な表情を浮かべた。「…でも、それじゃ…食で分けてるのに…」。「豊かさ」というテーマを自分たちで4つにカテゴライズして考えてきた4年生チームにとって、この8つのスペースは一枚の用紙の上で分かち難く結びついているらしい。だから譲れない。「こっちでいいね」。先生の提案はやさしく却下。4年生チームは自分たちの用紙の使い方を貫くことにしたようだ。宮崎先生はその様子を見て、にっこり。3年生チームのサポートに戻っていく。

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このワークショップの最後には「PROJECTがめざす佐渡の豊かさビジョン」についてチームごとに発表する時間が設けられた。自分たちのやり方を貫いた4年生チームの発表をのぞいてみると…「食と自然と心と生活に分けて私たちは考えました。食については地産地消で、お米とか美味しいものがいっぱいあるのでそれを使ったスイーツを作ってみたいと思います。自然は今もすごいけれど、もっと知ってもらうことが大事だと思います。ラピュタみたいなジブリに出てくるかんじのところ(佐渡金山北沢浮遊選鉱場跡)があるので、インスタとかにしてもっと知ってもらいたい。心はみんな笑顔になるということで、今話していて、おじいちゃんおばあちゃんがすごいやさしいというのはたくさん出てきたけど、若者がどうこうというのは出てこなかったので、思いやりをもった若者が増えれば、もっとみんな笑顔になるのだと思います。住みやすい生活では、自然を守りつつ交通も物質的にも便利になるということを考えました」。

 

次のワークショップでは、いよいよアイディアを具体的な企画へ。前編②につづく…!

 

2008年4月、新潟県立佐渡中等教育学校は「佐渡の歴史と文化に誇りを持ち、豊かな知性と人間性を身に付け、世界的視野で活躍できる人の育成」を教育目標に掲げ、開校した。中等一貫教育の強みを生かし、6年間を通した系統的な活動やキャリア教育の充実に取り組んでいる。郷土愛の育成の一環として「佐渡学」講座が開講されるなど、地域との交流から体験を通して郷土への理解を深めることもカリキュラムの中に盛り込まれている。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    松尾 駿

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