マナビラボ

第36回

2017.08.16

「話、つづけてや」

「伝えたい気持ち」を支える英語の授業(前編)

今回取材に伺ったのは、神戸市立葺合高等学校・宮崎貴弘先生の英語の時間。ゴールデンウィーク明けすぐの、1年生の授業。4月から数えて10回目の授業だというが、信じられない…。

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ウォーミングアップでは、プリントに載っている10個の質問について隣の人とペアになって会話をする。ペアでジャンケンをして、どちらが先に話すのか、順番を決める。一人に与えられた時間は90秒だ。前回の105秒に比べ短い。即座に応答することが求められる。

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宮崎先生は、ウォーミングアップはトレーニングである一方、ペアを組んだパートナーと一緒に取り組むconversationという双方向的な活動でもあることを強調する。「レスポンスは、とても重要。たとえば、Wow! Really? You did? Amazing! 次は、レスポンスに気をつけてみよう。(The responses are very important. For example, “Wow! Really? You did? Amazing!” So, from now on, you are going to have to be careful to give RESPONSES.)」。活動の留意点を確認したうえで、今度はconversation−−「対話」−−に挑戦だ。宮崎先生は、ペアの間を回りながら、生徒たちの声に耳を傾ける。

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ペアでのやり取りが終わると、宮崎先生からランダムに指名された生徒が二人、前に出てきて、即興のconversation−−「対話」−−に取り組む。二人をクラスみんなが拍手で迎え入れる。ペアワークが始まる前に、宮崎先生が「Fくんの課題、みんな、覚えてる?」と、前に出てきた生徒の一人、Fくんの前時の活動を踏まえた課題を、クラス全体のものとして共有する。課題は、単語ではなく文章で話すことだ。

Fくんが質問される。「あなたは、他の外国語を勉強することに興味がありますか?(Are you interested in studying another foreign language?)」。Fくんは「ドイツ語に興味があります(I’m interested in German.)」と答えるが、すぐに「なぜ?(Why?)」と聞き返され、「なぜなら…(Because…)」。Fくんは、文章で答えようとしている。クラスのみんなは、Fくんの言葉に真剣に耳を傾けつつも、次の言葉を絞り出し、どうにか文章にしようと四苦八苦しているFくんの様子に時々笑みをこぼしながら見守っている。Fくんたちの即興のconversation−−「対話」−−は、クラスのみんなからの拍手で締め括られる。

Fくんたちのconversation−−「対話」−−の後、良かった点について、日本語で、ペアの人と話し合い、全体で共有する。Fくんは、会話がうまく広げられなかった、と自分の活動を振り返る。Fくんの新たな課題を踏まえ、宮崎先生は、全体に問いかける。「聴き手として何かできる工夫はある?話し手がもしも困っていたら、みんなはどうする?」。生徒たちの発言から、宮崎先生は、今日のウォーミングアップの活動をまとめる。なかなか次の言葉が出てこない話し手を前に、聴き手にもできることがあるのではないか。聴き手は、話し手の言葉を待つだけではなく、ジェスチャーをしたり、前の言葉と関連がありそうな単語や文章を補ったりすることで、話し手の手伝いができるのではないか。

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さて、今日の授業で取り扱うのは、A Village of One Hundred−−もしも世界が100人の村だったら−−の中の1パート。

まず、宮崎先生は、59パーセントと1パーセントを強調した円グラフを板書し、世界が100人の村だったとしたら、この村の59パーセントの富を裕福な6人が所有していて、たった1パーセントの富を貧しい50人で共有している状態にある、という前回までの学習内容について確認する。そのうえで、宮崎先生は「もし、この村全体の富が1000万円だったとすると、裕福な人と貧しい人は、それぞれいくらの富を所有していることになる?(If the wealth of this village were 10 million yen, how much money would the rich people get and how much would the poor people get?)」と問いかける。生徒たちは、額を寄せ合って計算をはじめる。

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この村全体の富が1000万円だったとすると、裕福な6人が所有している富は590万円で、1人当たりにすると98万円である。これに対して、貧しい50人が所有している富は10万円であり、1人当たりにすると2千円になる。裕福な人と貧しい人との間には大きな差があることがわかる。生徒たちは集中して、宮崎先生の説明を聞いている。宮崎先生が一通り英語で行った説明が理解できているかどうか、日本語も用いながら、生徒たち同士で、確認する時間が与えられる。

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生徒たちが100人の村の富の配分状況について把握したところで、宮崎先生は、問いかける。「もし、君がこの村の貧しい人だったら、1ヶ月間2千円で、生活することができる?(If you were a poor person in this village, could you live for one month?)」YesかNoで答えるだけではなく、なぜ、そのように考えるのか理由まで答えることを求められる。生徒たちはペアになり、自分が、月2千円で、生きていくことが可能かどうか、英語で自分の考えを述べていく。ペアワークの後、全体で意見を共有する。そこでは、生活するためには、具体的に、どんなお金が必要か、意見が挙げられる。衣食住を切り詰めて、どうにか生活できるにしても、もし、病気になったら…。

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宮崎先生は、生徒たちの意見を踏まえ、次の問いを投げかける。「なぜ、裕福な人と貧しい人との間でこうした差が生じるのだろう?(What are the reasons for the gap between the rich and poor in this village?)」生徒たちは、またペアになって、自分の考えを述べていく。1人につき1分の時間が割り当てられている。宮崎先生は、質問をしたり、コメントをしたりしながら、教室の中を回っている。宮崎先生が、クラス全体の様子をみて、話し手交代の指示を出す。そのとき「いいよ。話、つづけてや。いいで、いいで。」という生徒の低い声が聞こえてきた。もっと聞きたい。話し手が英語で何を伝えようとしているのか、夢中になって耳を傾けている聴き手の声だ。

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全体で、意見を共有する時間。宮崎先生が指名した生徒が前に出てきて、自分の考えを発表する。発表は、発表者を迎える拍手から始まる。発表者に質問をしながら、英語の正確な表現を確認・説明し、クラス全体の理解の様子に注意を払いつつも、宮崎先生は、発表者からやや距離を取り、にこやかに発表を見守っている。

全体で意見を共有したところで、教科書に戻る。今日学習したところを黙読し、個別に理解した内容を確認・整理する時間が設けられる。

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宮崎先生は、今日学習したところの最後に示された「私は、私の村(=世界)のみんなに幸せになってほしいと思っている」という筆者の意見を取り上げ、今日の最後の問いを投げかける。「みんなが幸せになることは可能だろうか?(Do you think it is possible to make everyone happy?)」

今度は4人のグループワークだ。ジャンケンで勝った人が、グループの中で最初に話す人だ。生徒は、YesかNoで答えるたけではなく、Yesなら、どうやってそれは可能になるのか、Noなら、なぜそう考えるのかまで答えるよう求められる。1人に割り当てられた時間は1分。各グループの話し手は起立して自分の考えを述べる。1分経つと、聴き手から拍手が送られ、次の話し手に交代だ。YesかNoだけでなく、どうやって?なぜ?まで答えることは「めっちゃムズカシイ…」らしい。

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グループワークの後、宮崎先生は、クラス全体のYesとNo、それぞれの人数を聞き、それぞれの考えについて、前に出てきて発表するように促す。先生は、言い換えたり、言葉を補ったりすることで、発表者それぞれの英語の発表をサポートする。その一方で、発表者は、英語で発表しつつも、ジェスチャーを交えたり、ホワイトボードを使って絵に示したり、自分の考えを伝えようと工夫を凝らす。

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以上の活動を踏まえ、生徒一人一人が、「みんなが幸せになることは可能だろうか?(Do you think it is possible to make everyone happy?)」という問いに対する自分の考えを英語でもう一度まとめてくることが、今日の宿題だ。

あたたかい雰囲気の中、リズミカルにすすめられる宮崎先生の英語の授業は、あっという間に終了。授業後、先生のお話を伺った。(後編に続く)

 

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神戸市立葺合高等学校は、1939年に現在の校地に開校した神戸市立神戸中学校(旧制)の流れをくみつつも、1949年に普通科と商業科の2つの学科を設置した新制高校として発足した。現在は、普通科と国際科の2つの学科が設けられ、「自主の人たれ」「創造の人たれ」「世界の人たれ」という教育方針を掲げた教育活動が行われている。

 

 

 

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    田中 智輝

  • 撮影

    村松 灯

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