マナビラボ

第27回

2016.12.28

社会に出たときに必要な力を養う
アクティブ・ラーニング

幅広い学力層の生徒が主体的に学ぶ数学の授業【後編】

 

主体性があってこその学び合いの活動

北海道清水高等学校の数学で、アクティブ・ラーニングを行っている樋口智一先生。生徒たちは、各々自身で考え、学び合う。このように生徒を主体的な学びへと導く授業は、どのように作られているのだろうか。授業後、樋口先生にお話を伺った。

 

−アクティブ・ラーニングを授業に取り入れた背景を教えてください。

 

本校には、既に数学嫌いの状態で入ってくる生徒がたくさんいます。そうした子たちは、数学の授業が退屈で仕方がない。この子たちがどうするかというと、授業中寝るしかないんですよね。赴任した6年前、このような状況を目の当たりにして、なんとか打開できないかという気持ちで始めたのが学び合いの授業でした。

実際に生徒がずっと活動をしているので、眠る暇などはありません。

 

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−生徒たちの中から、講義型の授業の方がいいという声が挙がったことはないのですか?

 

今でも、声が挙がることはあります。その際には、生徒に講義型がいいか、学び合いの型がいいか、決めさせます。上位層の一部の子や、他者との対話が苦手な生徒は、講義型の方が良いということがあります。そのような声を受けて、しばらく講義型の授業をした後に、再度アンケートを取るんです。

学び合いの授業では、全員が主体的に参加しているのに対して、講義型の場合はどうしても退屈している生徒が出てしまう。それを見て、やはり“学び合いの授業が良い”というアンケート結果になるんです。

上位層の生徒たちが飽きないように、自分で進めていけるようなプリントを用意している点も、学び合いへの納得度を高めていると思います。

アクティブ・ラーニングは、学びに臨む姿勢が重要です。だからこそ、どのような授業が良いかを主体的に選ばせることが大切だと考えました。

 

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−樋口先生の授業は基本的にすべて学び合いの型だそうですが、新たな単元に入った際などに講義型にして必要事項を解説することはないのですか?

 

基本的には既習事項でなくても、すべて学び合いの授業で行います。しかし、ルールが守れないといった授業の“失敗”が見られた場合には講義型にします。1年生の時は、安心して対話できる環境作りを重視しているので、特にルールを徹底します。学び合いのルールを遵守させて、基礎基本を徹底できるようにしなければ、学力向上に結びつくアクティブ・ラーニングはできないと考えています。そこで、1年間は“しつけ”を大事にするのです。

最初の頃は、「私語をしない」「全員が参加する」といったルールとしています。失敗を経験して、講義型になり、そこから学び合いの授業に復帰するたびに、生徒と話し合います。「どうしたら、社会に役立つ力をもっとつけられると思う?」「全員参加にするためにはどうしたらいい?」。そう投げかけると、生徒たちから「歩き回って学び合おう」「男女で教え合おう」という新たなルールが出されます。

学び合いの活動を選ぶからには、自分たちでルールを作り授業を育てていこうという、主体性が大切なのです。

 

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-学び合いの授業をする上で、最も重視していることは何でしょうか。

 

学び合いをする意味を、生徒にきちんと理解させることです。社会に出た時に、一人きりで仕事をすることはまずありません。チームで仕事をする上で、コミュニケーション能力は欠かせないですよね。学び合いの活動の中でその姿勢や術を身に付けてほしいと考えました。「これは、社会に出たときの訓練だよ」という前提を伝えると、その必要性を生徒たちは理解します。

もともと、地元では“就職に強い高校”というイメージがあったので、高校卒業後は働きたいという意識を持って入学してくる子も少なくありません。また、総合学科なので、自主自立の学校目標の下、学校全体で実社会に役立つ力を養おうという方針もあります。

そのため、本校の生徒は社会に役立つ力をつけようという意欲があります。そんな心を刺激する授業作りを大切にしているのです。

 

生徒の声を取り入れることで、学び合いが活性化

 

-生徒の振り返りコメントを毎授業で読み上げていますよね? その理由を教えてください。

 

授業でコメントを読み上げると、生徒は自分の思いや改善点をきちんと考えて振り返りを書いてくれるようになります。他にも、「この意見はどう思う?」とクラスに問いかけることもあります。客観的に自分たちに必要なこととは何かを考えることは、メタ認知にもつながりますよね。

 

また、実際の学び合いの活動の中での意見や疑問も吸い上げるようにしています。

例えば、「3人に教え合おう」と決めたのも、生徒の意見からでした。それまでは、1人と教え合えればOKとしていたのです。しかし、ある時、解説を聞いた直後に、他の生徒にも話を聞こうとし、それまで対面していた生徒に「俺の説明がわかりにくいってことかよ」と突っ込まれている子がいました。ゆくゆく話を聞いてみると、「説明の仕方は人それぞれだから、違う人の話も聞いて理解を深めたい」ということでした。

そこで、この生徒の案を採用し、3人から学ぼうということに決めたのです。

 

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-柔軟にアクティブ・ラーニングの形を変えているのですね。他にも、当初の指導から変更したことはありますか。

 

はい。例えば、学び合いの活動は重視していますが、今はグループ学習をしていません。私の授業では、一対一をベースとして、どんどん自由に立ち歩いて学びに行こうと促しています。

以前は、グループ学習やペア学習をしていました。しかし、グループにすると、どうしてもマンネリ化し、おしゃべりの場になってしまいがちだとわかったのです。一対一だと、誰かに話を聞きに行かなければ、学習が進みません。一人もサボることができないのがこの型なのです。

 

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-一対一だと、自分から声をかけられない子などが孤独になってしまうこともありますよね。そんな中で、授業中は絶妙な声かけで生徒同士を結びつけていたかと思いますが、どう工夫しているのですか。

 

クラスの中に、活動から外れていきそうな子は2,3人います。本人に直接声をかけることはせずに、全体に向けて言うようにしています。「集中しているかな」「あまり話したことない人の所に行ってみようね」など、一人の子を浮き立たせないような言い方をします。これは、目立つ2,3人を逃さないことが目的ですが、大抵、教師が気付かない中にも集中できていない生徒はいるもの。そんな生徒も、声かけにハッとしています。

また、自分が生徒の気質をよく知らない場合には、クラス担任・他の教科担任からの協力体制が欠かせません。振り返りシートをカルテのように使い、知識理解の到達度と表現、関心意欲態度などについて情報交換をします。すると、「やはりこの子には、こんな対応が必要だね」といったことが見えてきます。

現在、他教科とのコラボ授業も進めているので、英語と数学の授業でどう態度が違うかなども把握することができてきています。生徒の個性とタイミングを見ながらの声かけは、今後も重視していきたい点です。

 

生徒の成長を実感し、さらなるブラッシュアップを

 

-アクティブ・ラーニングの成果を教えてください。

 

学び合いを取り入れた学級の方が、そうでないところよりも定期考査の平均点が高く出ています。また、コミュニケーション能力の向上やプレゼンテーションなどに意欲的になったとも感じています。そして、授業アンケートを取ると「数学の授業で自ら考えるようになった」という割合が85%、「数学の授業に関心を持って臨んでいる」と答える生徒が70%となりました。

他の生徒に教えることで、自分で考え、成長できているからこその結果ではないでしょうか。振り返りシートにも、「○○くんに教えていると、一つの問題に時間をかけるので、自分の理解がかなり進んだと思う。○○くんは、すごい奴なのかもしれない」と書いてきた生徒がいました。教えることで、自分の理解が深まっていると実感しているのです。

また、習熟度別授業をしているのですが、どのレベルのクラスにも必ず5、6人予習をしてくる生徒が登場しました。「自分はこのクラスでは上位だから、自分が予習をしてこないとみんなの学習が進まない」という責任感が生まれているようです。数学の授業をしながら、人間的な成長や学級としての成熟を感じていくことができています。

数学は答えが決まっているので、ゴールの統一感を持って学び合いができます。そういう意味で、生徒が先生になるような今の教え合いの形はマッチしているのではないかと感じています。

 

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-今後の展望やさらに改善したい点はございますか。

 

自分一人の指導やアイディアで授業をすることには、限界があります。そこで、教科を飛び越えて、情報交換をしたいです。そのためには、学校をあげてアクティブ・ラーニングを進める必要があると感じています。

また、学校内にとどまらず、他の学校の先生方の実践も是非色々伺って、授業のブラッシュアップを図っていきたいですね。

 

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そして、数学を実社会と結びつけるような授業もしていきたいと思っています。くじの問題をやった時に、「宝くじで一等6億円出ているけれど、実際の利益の中でどのくらいの割合が社会貢献に使われているのか」といった問題などは、現在の社会に結びつくテーマです。こうしたテーマの場合には、解き方を教えあう学び合いだけでなく、自分の意見を入れたり、調べ学習につなげたりすることが可能です。生徒の姿に学びながら、さらなる授業作りを進めていきたいと思っています。

 

-ありがとうございました。

 

(取材・原稿 佐藤智)

 

>>前編(授業編)はこちら!!

 

hi8a2222_r北海道清水高等学校は、北海道十勝にある人文科学系列・自然科学系列・情報ビジネス系列・人間生活系列・生産技術系列の5つの系列からなる総合学科だ。アイスホッケー部や演劇部などが全国大会に出場し、進学希望者の90%が進学達成する文武両道を重視した学校だ。

  • 撮影

    山辺 恵理子

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