マナビラボ

第24回

2016.11.02

グループ活動を通して文章力を養う

思想家流に今の問題を考える倫理の授業

哲学者や思想家が提起した概念や理論を、わたしたちの身近にある問題や出来事に引きつけて考える倫理の授業に取り組まれている、群馬県立渋川女子高等学校の青木瑞代先生。1時限45分という限られた時間のなかで、抽象的な概念を具体的な経験に引きつけることで生徒の学びが深まる授業をどのように組み立てているのか。お話をうかがった。

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−−−−授業を拝見してまず目についたのがホワイトボードの活用だったのですが。ホワイトボードをつかうようになったねらいやきっかけを教えてください。

 

青木先生:ホワイトボードを使うようになったのは昨年からです。その頃ちょうど私が「群馬県高校生ステップアップサポート事業」のステップアップサポート・コーディネーターの担当に就きまして、それでまずはホワイトボードの活用から挑戦してみたのが始まりです。昨年、ホームルームで活用したところ話し合いも活性化したので、今年の文化祭前に他の先生方にも提案したところ、活用するクラスが増えました。授業では、昨年は私が担当していた日本史と倫理で使っていました。

 

−−−−どういった場面でホワイトボードを活用しているのですか。

 

青木先生:例えば、「アダム・スミス」=「神の見えざる手」というように穴埋め式に知識を記憶するのではなくて、ある概念について自分の言葉で文章化できるレベルで理解してほしいというのが第一のねらいです。ホワイトボードを使ってみると、生徒たちは話し合いながら理解していく過程で自然と文章化する力をつけていきました。実際、グループワークを行うことで、文章化することや、考えを発表することが以前よりもできるようになったという実感が生徒たちからも聞かれています。グループで取り組むことで、一人では自信がなかったり、考える手がかりがないことでも、確認したり相談しながら文章化できるようです。ですので、今は文章力や表現力を養うことを第一のねらいにして、ホワイトボードを使ったグループワークを取り入れているといったところです。

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−−−−アクティブラーニングに取り組んでいらっしゃる先生方の多くが、グループワーク等の時間をとると授業の進度が遅れてしまうという悩みを抱えていると思いますが、進度についてはいかがでしょうか。

 

青木先生:進度を保ちながら、グループワークの時間や、考えを文章化していく時間をとるというのは戦いですね。教科書に記述されている事柄には、基本的にすべて言及するようにしています。そうしなければ、生徒たちは不安になってしまいますので、授業で中心的に扱わない事柄であっても補足的にふれるようにしています。その上で、グループワークの時間を設けることで、より深い理解や文章化の力へとつなげていきたいというのが基本的な考え方です。

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−−−−授業を組み立てる際に工夫されていることなどあれば教えてください。

 

青木先生:串団子をイメージするように授業を構成する方法を心がけてきました。まず、この授業で何を伝えたいのか、何について考えて欲しいのかというその時間を貫く串を考えます。次に山場を三つ、団子のように作ります。生徒の興味関心が盛り上がり、なおかつ串から外れてしまわない教材を練るわけです。生徒が主体的に学ぶアクティブラーニングを心がけるようになってからはここで生徒が取り組む課題を三つ準備するようにしています。もちろん、実際の授業では生徒たちから予想外の発言や反応があったりします。その時に、一本通した串を中心にして柔軟に向き合うようにしています。

−−−−山場となるような課題を三つ設定するということでしたが、その際、生徒たちの思考や議論が活性化するような「問い」や課題とはどのようなものだとお考えでしょうか。

青木先生:難しいところですが、まずもって「いい問い」というのは、生徒にとって考えたくなる、解決したくなるような問いだと思います。自分の経験と結びつけて考えられる課題であったり、こんな難しいこと考えられたらすごいじゃんと思えるような魅力的な課題であれば、自然と思考や議論が活性化するのではないでしょうか。

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−−−−グループワークを通じて思考や議論が活発になる一方で、発言したり文章化したりすることがやはり苦手だという生徒や、アウトプットとして直接現れてこない学びもあるのではないかと思うのですが、そうした潜在的にアクティブな生徒に対してはどのように向き合っていらっしゃるのでしょうか。

 

青木先生:確かにどうしてもグループワークに抵抗があるという生徒はいます。ただ、そういう生徒も自分なりに授業に参加していて、興味をもったことを後でこっそり聞きにきてくれたりします。自分なりに関心をもった思想家の著作を読み進めている生徒もいて、そういう姿をみると、必ずしも授業で発言したりしていなくともそれぞれのスタイルで学んでいるんだなと感じます。一方で、授業のなかでは、もう一押しで新たな気づきに結びつきそうな発言は意識的に取り上げるようにしています。また、いいところに気づいたということを、そのつど評価して生徒に伝えたいという思いから、おもしろい発言にはポイントつけて成績評価に加算するということもしています。そういった工夫もしながら、直接現れてきてはいない気づきや生徒の学びも支えることができればと試行錯誤しているところです。

 

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群馬県立渋川女子高等学校は大正9年に渋川町立実科高等女学校を前身とし、今年創立96周年をむかえる伝統ある女子進学校である。落ち着いた学習環境に恵まれた同校では、真摯かつ伸びやかな学びの関係性のもとで、確かな学力が育まれている。他方で、アクティブ・ラーニングの視点に立った学習過程の再構成や、ICTを取り入れた授業実践など、挑戦的かつ先駆的な授業改善を進めている。

  • 取材

    田中 智輝

  • 撮影

    木村 充

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