マナビラボ

第11回

2016.04.20

一歩踏み出すための学び
−今が将来につながるために− 【前編】

立命館宇治高等学校(以下、立命館宇治高校)は、京都府宇治市に所在する、立命館大学の附属校である。立命館大学への進学や海外の大学への進学にも積極的でスポーツで活躍する生徒も多い。世界を視野に入れて生徒たちに進路を考えてもらう上で、キャリア教育の重要性を認識し、高校1年生の総合的な学習の時間をキャリア教育授業にあてている。キャリア教育授業の名称は「キャリア・サービス・ラーニング(以下CSL)」。
立命館宇治高校では、2008年度よりキャリア教育部を設置し、キャリア教育の推進を始めた。中でも、2013年度に立ち上げたCSLでは、ボランティア活動など社会との関わりの中でキャリアを考える授業を展開している。カリキュラム開発や授業の実践で中心的な役割を果たしたのが、数学科の酒井淳平先生である。

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取材に伺った2015年12月12日の授業は、「働く意味・学ぶ意味について考える」ことをテーマとしていた。土曜日の最後の授業である4限目。生徒の今の学びと将来をつなぐために、グループでコンセプトマップを作成する。生徒はこれまでの4回の授業を通して、働くこと、学ぶことについて考えを深めてきた。今回は、この4回の授業の振り返りを行う。酒井先生は、「単発の授業だといいことを学んでもすぐに忘れてしまう。これまでの4回分の復習を、まとまっておこない、学びを深めることが今回の目的です」と語る。
授業準備には、CSL担当者全員が関わる。2015年度にCSLを担当する教師は4人。酒井先生が主導して資料を作り、他の先生も手直しをしながら指導案を完成させる。各授業の前には、丁寧な打ち合わせを行う。「CSLの授業を担当できる人を広げていけるように」との思いから、酒井先生はこのチームの指導体制にこだわる。チーム指導を成功させるには、「目標の共有が大事」。授業内容や資料はもちろん、到達目標も打ち合わせの時間に共有する。

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授業の始まりは、エジソンはなぜ偉大だったのか、という話題から。既存の技術やモノを上手くつなげて、より有用なモノを作り出した。パソコンや携帯電話とスマートフォンとの関係も示し、身近なところから具体的に「つなぐ」というところに焦点を当てて、今日のメインテーマである「考えをつなぐ」ことに生徒の意識を向けさせる。
5分ほど導入とテーマの説明をすると、これまでの働くこと・学ぶことに関する4回の授業の内容を思い出し、振り返る個人ワークに入る。それぞれの授業の内容を簡単におさらいして思い出しやすくした後、一つの授業につき2分ずつ思い出した内容を書き留める時間をとる。このときは周りと相談せず、一人ひとりが内容をじっくりと思い出して吟味する。各自が各授業の資料をみながら、キーワードかキーフレーズを10個を目標にシートに埋めていく。酒井先生は、見回りながら、「『やりがい』とかいい感じやね」、「◯◯とかOK」、と生徒の書いている内容をひろいつつ全体に声をかける。「今日は3週間ぶりの授業で生徒が内容を思い出せるかやや不安もありました」。しかし、10個埋めている生徒は少ないものの、ほとんどの生徒は5つ以上のキーワードを思い思いに書いている。

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おさらいや説明、個人のワークを含めて15分ほどで、振り返りに区切りをつける。これからいよいよコンセプトマップ作りに入る。3人から4人で1グループを作るように指示し、机をくっつけさせる。まずやるのは、授業ごとのキーワードをグループで3つにしぼること。20から30あるキーワードの中から、大切だと思うものを選択する。そして、それをコンセプトマップに書き込んでいく。マップにはA3の用紙の四箇所にあらかじめ各授業のキーワードがひとつだけ書いてあり、線などによって区切られてはいないものの、おおまかに4つの象限がイメージできるデザインになっている。そこに、グループで選んだキーワードを書き込んでいく。コンセプトマップは、それぞれのことばをつなぐことが大切。まだ慣れていない生徒たちに、先生が「間隔をあけて、ちょっとばらけるように書いた方がやりやすいよ」とアドバイスを送る。5分ほどでキーワードの配置を止め、酒井先生がコンセプトマップに出会ったときに受けた、学生がどのように学んでいるか、どこまで深く学んでいるかが見えるという感覚も紹介しつつ、この授業で生徒たちがコンセプトマップを作る目的を示していく。

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「みんなには、この4時間の授業での学びをひとつでも多くつないでほしいと思います。ところが、「つなぐ」って曖昧な言い方ですね。そこで、もう少し説明します」と、グループワークのときにひっかかりそうなことを、コンセプトマップとはなにかというところから説明する。コンセプトマップは「ことば同士がどうつながるかを図で表すもの」。スライドには、例として「にんじん」、「野菜」、「みかん」の3つの単語がある。これらをつなげるとしたら? ということを具体例に、「つながるって似てる、原因と結果、どっちかがどっちかの一部、共通してる、などがあるよね」と理解させ、実際のマップのキーワードのいくつかをつなげるとしたらどうなるかを一例として説明する。その上で、「つなぎ方もいろいろあるよね。そこで、10分間で、できるだけ多くキーワードをつないでください」と指示を出す。コンセプトマップを作るにあたって、今回の決まりは色のついたペンでつなぐことと、つないだ理由も簡単に添えること。単に線を引くよりも、考えを深めやすい。
生徒は、授業の内容を思い出しながら、活発に議論しつつ線でつないでいく。理由を考えないといけないので、数を単純に増やして終わり、ではない。「このキーワードだと、つなげるの難しいな」、「この理由だといけるんちゃう?」など、これまでの授業を縦貫してコンセプトマップを作っていく。しかし、ある程度で作業が行き詰まってしまうグループも出てくる。そのようなときには、酒井先生が「周りの班のようすを見に行く人を出してもいいよ」など、他のグループの考え方や議論を参考にしやすいような指示を全体に出す。すると、他のグループのマップや議論から、新しい見方を取り入れて、マップ作りがまた活性化していく。

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おおよそ10分が経過すると、他の班のマップを見に行くように指示する。グループワーク中は誰か一人だけであったが、今度は全員が他の班に行き、見ることができる。同じ内容の授業を受けているので、「こうやってつないでるのか」など感想を言い合いながら賑やかにマップを読んでいる。最後に、一番前の班を一つ指名し、3分ほど黒板でプレゼンをして、振り返りのワークシートを各自記入して授業が終わった。2月には、個人で一年間のまとめのためのコンセプトマップを作る。個人作業のマップ作りの前哨戦だ。

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酒井先生は、数学の授業でもグループワークを積極的に取り入れている。数学に取り入れる際にも、「CSLでやっていたので、怖さはありませんでした」と語る。始めに10分でその日の内容を解説、グループで簡単な例題を解き、3分ほど解説。次はやや難しいワークシートの問題をグループで解く。先生は見回りながら、質問やヒントを出して理解が深まるように介入する。ほとんどの生徒が互いに質問しあって問題を解いている。それでも少し行き詰まっているようであれば、理解している生徒を別のグループに派遣して教えあうことを促す。解説も入れて20分ほどすると、グループを解いて各自で振り返りの問題を解く。「プリントを見るのはかまいませんが、相談はなしでね」、と個人で理解を深める時間を確保する。最後に、今日のポイントをひとこと、生徒を指名して共有する。答え合わせをして、数学の授業は終了。
「数学は個人で解くものというイメージがあるように思います。しかし、解くプロセスでは個人作業に限定されなくてもよいはずです。そもそも社会に出るとチームで問題解決をする場面が多いですし」、と酒井先生はいう。ワークシートには答えをつけている。「答えを読む力をつけてほしいです。わかるところとわからないところがわかるように。それこそが将来自分で学ぶときに必要な力なので。この形の授業にして、数学が得意な生徒は人に教えるためか、自然と答案をきれいに書くようになりました。教える生徒と教えられる生徒が流動的になるようにもしています」。

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グループワークを取り入れたことで、酒井先生は「かえって個々の生徒に目が行き届くようになりました」と振り返る。「アクティブラーニング、というよりも、態度も含めてラーニングが気になります、生徒たちがどう学んでいるのか」。というのは、「生徒には将来常に挑戦をして、前向きに生きていってほしい。そのためにCSLでは『やってみるわ』って一歩踏み出すような力がつけばと思います。数学はその一つ手前、わからないものに挑戦していく力、人に伝える力をつけてほしい」という思いから。「自分の将来と今の学びがつながってくれればいいです。数学など教科を通してもキャリア教育をできればと思っています。」

酒井先生の工夫や思いについては、後編で!

 

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立命館宇治高等学校は、宇治市に所在する私立の高等学校である。立命館の建学の精神と教学理念に基づいて、世界と日本の平和的発展に貢献するために未来のグローバルリーダーを育成することを教育目標としている。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    木村 充

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