マナビラボ

第8回

2016.02.24

「デカルトみたいに
とりあえずなんでも疑ってみよう」

自分の言葉で「哲学」する力を育む「哲学対話」-後編

哲学する風土をつくりたい

東洋大学京北高等学校で倫理の授業として行われている「哲学対話」では、難解な印象を与える「方法的懐疑」も「心身二元論」も、対話しながら考えを深めていくことで、高校生でも自然に語り合えるような身近なテーマとなっていた。授業を担当する神戸和佳子先生は「哲学対話を通して、自分の力で答えにたどり着く喜びを知ってほしい」と話す。授業後、神戸先生と、同じ地歴公民科の石川直実先生にお話を伺った。

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―毎回、授業はもやもやした終わり方なのですか?

神戸先生:はい。基本的には最後はオープンな問いかけで、もやっとしてもらって終わります。授業中に答えを出すことはせず、『今日はこんな意見が出ました』といったまとめも敢えて行いません。問いかけで終えるのは、授業後も考えつづけてもらうための仕掛けです。

 

―先生が授業に取り入れている「哲学対話」とはそもそもどういったものですか?

神戸先生:「哲学対話」とは、1960年代にコロンビア大哲学教授だったマシュー・リップマンが大学での哲学教育に疑問を感じ、考える力を養うことを目的に小中学生向けに始めた教育プログラム「子どものための哲学(philosophy for children:P4C)」が元になっています。その後、哲学的問題をみんなで意見を出し合って考えを深めていくP4Cのやりかたは、世界中に広まり、様々な形で実践されるようになりました。私は以前、ハワイ大学内のセンターで子ども向けに行われているP4Cの実践を学ぶ機会があり、それを元に日本の高校にもマッチするような形で取り入れています。円形に椅子を並べたり、コミュニティーボールを使ったりするやり方は、ハワイで行われていたものです。

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―高校の授業を「哲学対話」で授業を進めていく上で、工夫していることは?

神戸先生:取り上げるべき大事な「問い」の立て方です。哲学者はどんな「問い」に取り組んだのかを見極め、その「問い」を生徒が取り組みやすい形にアレンジしています。また、対話型の授業はどうしても時間がかかるので、1年間で教科書全て網羅することはできません。ですので、取り上げる内容自体も取捨選択し、かなり絞り込んでいます。ノートも取りにくいので、こちらから伝える情報も最低限にしています。基本的には1授業で問い1つ、用語3つ、といったところでしょうか。

 

―教室の席の並べ方が特徴的ですが、なぜこの形なのですか?

神戸先生:この形が一番対話しやすいようです。最初のうちは、椅子だけでなく机も丸く並べてみたり、試行錯誤したのですが、最終的には対話しやすいこのスタイルに落ち着きました。この席の形の難点は、話しやすい分、どうしても私語が多くなってしまうことでしょうか。ただ、私語を制限すると自分の言葉で自由に発言できなくなってしまいます。私は、このスタイルで授業する限り、私語はある程度仕方がない、と割り切っています。

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―テストはどのように行っているのですか?

神戸先生:他の先生に担当していただいているクラスは、対話型でない形で、授業を行っているので、そのあたりは教員同士で、うまくすり合わせて、今のところはなんとかやっています。一応、基本的な知識を問う問題もある程度入れつつ、記述式にして自分で考えたことを書いてもらうような形式も取り入れています。ただ、それをどう評価するか、というところは難しく、まだまだ試行錯誤しています。

 

―京北高校で「哲学対話」授業を取り入れたのはなぜですか?

石川直実先生:京北高校では2年ほど前から「哲学教育を教育の柱とする」という方針がかたまり、中高の6年間で「哲学教育」を体系的に行うカリキュラムを整え始めました。その際、「答えのない哲学的な問いに、じっくりと取り組む経験をさせたいが、なにか良い方法はないか」と探していて、P4Cの活動を知りました。我々も、「問い」を与えて考えさせるような授業はやっていたのですが、それでは、「問い」そのものを考える力をつけることはできません。「問う力」をも養うことができる「哲学対話」をぜひ取り入れたいと、神戸先生に来ていただきました。

今後は、神戸先生以外の教員も「哲学対話」の授業ができるようにしていきたいのですが、クラス担任として普段「教室では静かに」と、生活指導を行っている教員が、「自由に話していいぞ」と対話型の授業を行うことの難しさは出てくるかもしれません。

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―京北高校の「哲学教育」の目指すものはなんですか?

神戸先生:我々としては、学校全体に「哲学する風土」を根付かせる、ということが最終的なゴールだと思っています。対話も、自由に“タメ口”で話してもらっているのは、プライベートなモードで話してもらうことで、日常に哲学を持ち混んでほしいと考えているからです。実際、半年間やっていく中で、哲学的なことを考えたり、話したりすることのハードルは下がってきているかな、と感じています。といっても、全員に根付かせることは難しいもの。将来、この教室で習った内容は全て忘れてしまったとしても、高校時代に1年間、毎回哲学的な疑問を熱く問い続ける少し変わった授業があった、という思い出が残るだけでもいいかな、と思っています。

(取材・文章:井上佐保子)

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記事末に載せる学校紹介用

私立東洋大学京北高等学校は、東京都文京区に所在する共学普通科の併設型中高一貫教育校。2015年より東洋大学の附属校となった。東洋大学の創立者である哲学者井上円了氏の建学の精神「諸学の基礎は哲学にあり」を受け継ぎ、「自己の哲学(人生観・世界観)を持つ人間を育成する」ことを目指している。

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