第54回
2019.10.09
堀川流「探究」のひみつを探る! 第1回
京都市立堀川高等学校
今、高校教育においてホットイシューのひとつとなっている「探究」。次期学習指導要領の実施に向けて、探究を取り入れた授業づくりに取り組まれている先生方も多いのではないでしょうか?
よりよい探究についてのヒントを探るべく、今回スタッフが伺ったのは京都市立堀川高校。20年前から探究を柱としたカリキュラムを実施している高校です。
マナビラボでは、これから4回にわたって、堀川流「探究」のひみつに迫ります。第1回・第2回では、研究部長の井尻達也先生(取材当時)へのインタビューの様子をお届け。堀川高校での探究についての考え方や、授業づくりのポイントについてお話を伺いました。
堀川の探究の肝は「生徒にいかに考えさせるか」
——井尻先生は、研究部長として堀川高校の探究活動をまとめるお立場にいらっしゃいますが、先生ご自身は堀川高校の探究の一番のポイントはどこにあるとお考えですか?
井尻先生
やっぱり生徒が主体なので、生徒にいかに考えさせるか、生徒自身が学びを広げたり深めていくかっていうところですね。われわれ教員の側から言えば、どう生徒に問いかけるか、というところが肝だと思います。
——午前中に少し授業を拝見させていただきましたが、その短い時間のなかでも、先生が生徒に「教える」というよりも、生徒から「引き出す」とか「待つ」ということを大切にされていることを感じました。そういうファシリテーション術のようなものを、教員どうしでシェアしたり互いに教えあったりするようなことはあるのでしょうか?
井尻先生
そんなに回数は多くないですけど、研修会をやったりはしますし、探究基礎の授業を持ってくださっている先生方で週1回程度集まって話をする機会もあります。
探究の理念とか目標は共有しなくてはいけないと思っていますが、その具体的な方法や授業の進め方については、先生方にお任せしています。そういうベースのうえに、去年やっておられた先生と話をしながら、指導方法の蓄積を引き継いだりしている感じですね。
——ひとつのゼミを二人組で担当されているようですが、そこで一緒にやっている先生で学びあったりとか?
井尻先生
そうですね、二人組にしているのはそういう意図もあって。全部ではないですけど、長く経験されている先生と比較的新しい先生っていうような組み合わせを考えています。
皆でゼロから創りあげる「安心感」
——急にこの学校に着任したら、「探究の授業、どうやったらいいのかな」ってちょっと迷ってしまう気がするんですが、そういう先生方を巻き込むような工夫があったりするのでしょうか?
井尻先生
うーん、巻き込む…。というか、巻き込まれてしまうんです、この学校に来ると。
教科の教科書がある授業なら、自分自身もかつて授業を受けた経験があったり、いろんなノウハウがあったりしますけど、探究の授業だけはみんなが困ったり悩んだりしています。僕も別に10年やってたからっていって、正解を持ってるわけでもないですし。だから逆に、不安の裏側には「一緒に手探りしながら創っていける」「創っていっていいんだ」っていう安心感もあったりするのではと思います。
——安心感、ですか?
井尻先生
安心感というか、みんなが困ってるし悩んでるんだよなっていう(笑)。それに、例えば僕は数学担当ですけど、英語の先生と教科の話をするとなるとなかなか合わへんけど、探究の授業のときは結構壁は低いですね。共通してる部分が多くって、話しやすい。例えば、今日は一回目の授業やったんで自己紹介とかしましたけど、あんなんて別に教科によって違わへんし、「どんなふうにしますか」とか話しやすい部分もあるかなって。探究があることで、先生方が教科を越えて授業について話せるというか。
目標は揺らがない
——先生方がゼミ独自でやっていく「多様性」を大事にする部分と、ここは学校として揃えていこうという「コア」になるような部分は、それぞれどのように考えられているのでしょうか?
井尻先生
コアになる部分は、先ほども言った、理念とか目標のところですね。活動はゼミに分かれて行いますけど、そこでのやり方はみんなバラバラなんですよ。生徒が身につける研究の手法も、言ってしまえばバラバラなんです。試験管の使い方をやってるところもあれば、文献講読をしているところもあるし、学問領域に応じて研究手法は変わっていく。でも、その手法を身につけることだけが目的ではなくて、課題を設定する力だったり、会話をする力であったり、振り返る力であったり、堀川高校として総合的な学習の時間のなかで身につけてほしい力は共通しています。つまり、目標だけは揺るがない。
——教員でも生徒たちでも、少し向いている方向がバラバラになってきているかなというとき、そうした「コア」の部分に引き戻すためにされていることはありますか?
井尻先生
「評価」ですね。評価をするということは、目標をもう一度確認することでもあり、自分が何のためにやっているのかを問うことでもあります。教員も生徒も、自己評価をすると原点に戻れるというか。例えば半期の授業だとしたら、中間と期末、半年に2回ぐらい、「ちょっと振り返ってみよか」みたいな形でやると、多少収束する部分はあるかなと思っています。
——具体的には、どういう形で評価をされているのでしょうか?
井尻先生
一つは成果物。例えば、レポートとか研究計画書、論文の執筆や発表とかっていう部分と、日々やっている振り返り、もちろん普段の授業の様子とかもですけど、そういうところを見ながら評価します。
大事なのは、生徒と一緒に面白がれること
——少し話が変わってしまうんですが、これから探究に取り組みたいという高校の先生方とお話をしたときに出てくるのが、先生方の専門と生徒の関心のマッチングに関する悩みなんです。教員が持っている専門性と生徒の関心が必ずしも合わない。先生方からも「自分はこの専門じゃないから、このグループの指導はちょっと……」というような声があって、うまく教員を配置できない。そんなお話をよく伺うんですが、堀川高校ではそのあたりどうされていますか?
井尻先生
どうだろう、「俺の専門と、このテーマ違うのにな」って思ってる先生方は、うちでもいるのかもしれないですね。ただ、それは「探究観」がちょっと違ってて。探究の授業では、先生方がチョークを持って講義する場面はほぼないんです。知識を与えるとかもないですし。
井尻先生
この探究活動で、われわれの役割として大事なことは、生徒と一緒に考えるってことだと思うんですね。自分の専門にかかわらず、生徒がもってきた問いに対して、もちろん生徒もその問いに向き合うし、僕らも「分からへんなぁ」とか言いながら向き合うだけじゃないかな、と僕は思ってます。だから、「これ教えられへんやん、どうしよう」なんてこと考える必要はまったくなくて。
例えば僕自身も、生徒と一緒に「分からへんな」という話をしてて、1週間後に生徒が何か調べたり考えてきたことを聞いて、「あ、そうやってやるんや」とか新たな発見をすることもたくさんありますよ。共同研究者として一緒に取り組んでいるって感じなので、自分の専門領域だからどうこうということは、あんまり問題になりません。
井尻先生
大事なのは、僕らが生徒の興味に興味を持てることだったり、生徒の面白いと思ってることを面白がれるってことやと思うんです。実際、面白いですよ。高校生の疑問なので「そんなとこ行くんや」って単純に面白いし、「どうやんのん」とか「何でなん」とか、僕からすると基本もう疑問しかないです。だから、先生方にも「どんどん質問してください」って言っています。そしたら、彼らは考えるので。
最初に言いましたけど、堀川での探究の肝は、まさに「考える」っていうところなんですよね。「これはこうやで」とか「あれはこうやんねんで」っていうことはまったくなくて、「どうすんのん」「これ何?」って聞く。で、一緒に考える。
——確かに、午前中の授業でも、先生方は「こうしなさい」ではなくて、「どうするの?」っておっしゃってましたね。
井尻先生
本音では、「こうしなさい」って言えない、教えられないというのもあると思うんです(笑)。言ったらあかんのかもしれんですけど、僕も数学のゼミをやっていて、実際よう分からへんところ、いっぱいあります。でも、ほんまに分からへんときは「分からへん」って言うし、生徒らの活動を見ていて「あ、こうやったら間違うな」「時間かかるな」と思ってても言わないときもあるし。いろいろ先回りしても、貴重な失敗の経験がなくなっちゃいますしね。
第2回では、引き続き、井尻先生に探究の授業づくりのポイントを伺っていきます。
探究を進めていく際の一番のハードルはどこにあるのか?
〈よい探究〉ってどういうもの?
探究を軸にした授業を考えるうえでのヒントがいっぱい!
公開は2週間後を予定しています。ぜひお楽しみに!
京都市立堀川高等学校は、1943年新制高校の発足にともなって再編成された、京都市立高校のひとつ。前身は1908年設立の京都市立堀川高等女学校で、今年度で創立101周年を迎える。平成11年度より普通科・人間探究科・自然探究科の三つの学科が設置され、約20年にわたって探究学習を軸にしたカリキュラムづくりが行われてきた。
-
取材
田中 智輝
-
取材
村松 灯
-
取材
町支 大祐
-
取材
渡邉 優子
-
撮影
村松 灯