マナビラボ

第9回

2020.04.22

コミュニティ・カレッジからみる アメリカの多様性

後半

前半の記事では、コミュニティ・カレッジはアメリカの4年制大学への進学を考えている留学生にとって、経済的にもカリキュラム的にも魅力的な存在だということをご紹介しました(ご参考:http://manabilab.nakahara-lab.net/article/6078)。この魅力はコミュニティ・カレッジの本質として捉えることができるかもしれませんが、カレッジの特色は地域によって大きく異なります

今回はまず、日本からの留学先としても人気の高い、カリフォルニア州に焦点を当ててその特色を見ていきたいと思います。

 

● カリフォルニア州の一例

 

日本でもお馴染みのアメリカ文化の多くを発信しているカリフォルニア州。ハリウッドのあるロサンゼルスやシリコンバレーのあるサンフランシスコもカリフォルニア州に位置します。歴史的に日本からの移民も多く、日系アメリカ人の人口が多いことでも知られています。また、日本からロサンゼルスへの飛行時間は10時間ほど。東海岸のニューヨークと比べると、3時間ほど短いフライトです。

しかし、物理的な近さや文化的な魅力はアジア諸国の留学生がカリフォルニアを目的地に据える理由の一つにすぎません。アジアのみならず、世界中からの留学生がカルフォルニアに集まる背景には、有名大学の多さも関係があります。

カリフォルニア州には、スタンフォード大学やカリフォルニア工科大学などの有名私立大学に加え、全米の有名公立大学を示すパブリックアイビーのリストには必ず登場するカリフォルニア大学群があります。日本人向けの観光ツアーでも度々紹介されるUCLAや、アメリカの公立大学ランキングで長年トップを取り続けてきたUCバークレーは、このカルフォルニア大学群に属します。こうしたカリフォルニア州内の有名大学に進学することが世界中の留学生の憧れだと言うのに不思議はないでしょう。

前述した有名大学はどこもアメリカ有数の難関校です。アメリカ人にとっても難関校なのですから、言語や文化のハードルがある留学生にとっては更に難易度が高まります

そこで魅力が発揮されるのが、コミュニティ・カレッジです。記事の前半で、コミュニティ・カレッジの経済面とアカデミア入門への準備期間としての特徴を述べました。この他に、コミュニティ・カレッジには州立大学との提携による編入枠(Guaranteed admission)という、4年制大学への編入を目指す学生には嬉しい制度があるのです。(この制度は、カルフォルニア州だけではなく、他の地域のコミュニティ・カレッジにもあります。)

この編入枠は日本の高校—大学間にある指定校枠のようなもので、留学生だけではなくアメリカ人学生にも人気の高い制度です。したがって、編入の枠をめぐってはアメリカ人学生とも戦わなければなりません。それでも、コミュニティ・カレッジで取得した単位や成績によって編入が保証されるこの制度は、留学生にとっては大変魅力的です。

カリフォルニアのコミュニティ・カレッジには、この編入枠を利用してカリフォルニア大学群へ編入することを目指している留学生が、世界中から集まってきているのです。またコミュニティ・カレッジ側も留学生の受け入れに積極的です。世界中を飛び回り、留学生を対象にしたマーケティングを戦略的に展開しているコミュニティ・カレッジは珍しくありません。

ご参考までに、私が2019年の夏にカリフォルニアを訪問した際に撮影したディアプロ・バレー・カレッジの写真を掲載します。ディアプロ・バレー・カレッジは、留学生の多様さと、州内外問わず有名4年制大学への高い編入率を誇る人気のコミュニティ・カレッジです。キャンパスに並ぶ建物の名前やウェルカムボードからは、留学生の多さが伺えます。

 

図1

      名前にスペイン語やスワヒリ語が使われている建物

 

図2

      多言語ウェルカムボード

 

 

ここで、コミュニティ・カレッジの特色は地域によって大きく異なるということの紹介を込めて、カリフォルニアとの違いが顕著に見られるバージニア州西南部のコミュニティ・カレッジをご紹介したいと思います。

 

● バージニア州の一例

 

バージニア州は、アメリカの首都であるワシントンD.C.の南側に隣接しています。首都D.C.の郊外であるバージニア州北部には、日本食も手に入るアジア系スーパーがあります。つまりここでは「多民族国家アメリカ」を実際に目にすることができます。バージニア北部に位置するコミュニティ・カレッジも例外ではなく、海外からの留学生が多く通うカレッジも存在します。しかし、そこから6時間ほど南西に向かうと、2016年の大統領選以降、世界中に実はその存在が大きいのだということを知らしめた「大して多文化多民族ではないアメリカ」が存在します。

バージニア州内にある23校のコミュニティ・カレッジの一つ、サウスウエストバージニア・コミュニティ・カレッジは、まさにそういった地域にあるコミュニティ・カレッジです。米国教育統計センターのデータによると、美しい山々に囲まれたこのカレッジに通う学生の約94%は白人です。州外からの学生は5%以下。このカレッジにはアメリカの国内外で熱心に研究を続けてきた優秀な研究者かつ愛情深く生徒思いの教育者である教授が何人もいます。しかし、扉は開かれてはいるものの、留学生はほとんど在籍していません。同じバージニア州内のコミュニティ・カレッジでも、留学生数で見るとワシントンD.C.近郊に位置するカレッジとは大きな差があります。

 

図3

 サウスウェストバージニア・コミュニティ・カレッジのキャンパス

 

世界で活躍する著名な日本人の中には、アメリカの有名大学を卒業した方々やアメリカで生活を送ったことのある方もたくさんいます。日本国内にはアメリカのニュースがあふれていますし、インターネット上では日本語で書かれたアメリカの情報にも簡単にアクセスできます。しかし、日本人の人気タレントの移住先として人気のロサゼルスやハワイもアメリカである一方、日本との繋がりが教科書の数ページしかないような地域もアメリカです。留学生が少ない地域のコミュニティ・カレッジでは、イメージ通りのアメリカ生活はできないかもしれません。でも、日本にいては出会えないアメリカを体験する場にはなるでしょう

 

アメリカの有名大学へのパスウェイとしても、定年後の生涯教育の場としても魅力的なコミュニティ・カレッジ。

行き先次第で、全く違うアメリカが見えてくるかもしれません。

 

 

(取材・文章 湯田 晴子)

 

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