マナビラボ

第2回

2017.11.08

オランダ発
「学びを学習者の手に取り戻す」
ためのアクティブラーニング論!

今回ご紹介する文献:

Bolhuis, Sanneke. (1996). Towards Active and Self-directed Learning: preparing for lifelong learning, with reference to Dutch secondary education, Paper presented at the Annual Meeting of the American Educational Research Association (New York, NY, April 8-12, 1996).

 

今回は、オランダのラドバウド大学のサネク・ボルハウズ教授が1996年のアメリカ教育学会で発表した際の原稿をご紹介します。

 

突然ですが、以下のような状況に置かれた経験はないでしょうか?

・親として、子どもに頭を悩まされた

・職場での自分の担当業務が大きく変わる予定になった

・趣味の絵画に関する技術に、もっと磨きをかけたいと思った

・ある慢性疾患を抱えていることを医師から伝えられ、これから自分はどうなるのかを知りたくなった

・家を買うために、地域毎の情報や、不動産会社、住宅ローンなどについて勉強しないといけなくなった

 

これらは、誰もが生涯に渡って経験する「実生活の中での学び(learning in real life)」を引き起こす場面の例として、ボルハウズ教授が挙げる場面です。

 

ボルハウズ教授は、実際的な悩みや好奇心を抱くこのような場面から引き起こされる「実生活の中での学び」こそが、学校を出た後の人の生涯教育を支えると言います。それなのに、「学校での学び」は、「実生活の中での学び」とはかけ離れてしまっているのではないか卒業後に子ども達が「実生活の中での学び」を紡いでいくための準備を、「学校での学び」はしてくれていないのではないか、と問題提起します。

 

人が学校を卒業した後にも生涯に渡って学び続けられるようにするためには、学校などで「教えられる」経験ではなく、日常の中からインフォーマルに、そして自発的に、「実生活の中での学び」を紡ぐ経験こそが必要だと唱えるボルハウズ教授は、そうした日常的な学びの特徴として、まず「自分自身が方向付けを行う学び※(self-directed learning)」であることを挙げます。〔※Self-directed learningは自己管理学習、自発的な学習、自己決定型学習など、分野や論者によって様々な訳語が用いられます〕

 

実生活の中での学びを、自発的に、自ら方向付けて行う場合の基本的な手順は、以下の通りです:

【1】方向性の決定と準備(Orienting/Preparing)
【2】方法論の決定(Taking Strategic Decisions)
【3】学習活動の実施(Executing Learning Activities)
【4】評価(Evaluating)
【5】統制(Regulating)

 

「方向性の決定と準備」とは、まさに自分自身で方向付けを行うことを意味します。具体的には、目標を設定したり、仮説を立てたり、目標の達成を阻む要因を考えたり、どのようにして必要な情報を得ることができるかを考えることが、この最初の手順に含まれます。

 

「方法論の決定」は、目標が定まったら、何をどのように、どのような順番で行うことでその目標を達成しようとするかを決めることを意味します。なお、学習者はわからないことを調べたり、習得していないことを習得しようとしているわけですから、その方法論についても試行錯誤が必要です。ですから、ここで定めた方法論は得てして「仮の」ものになり、この「方法論の決定」は何回か立ち戻ってくる手順になります。

 

「学習活動の実施」は、言葉の通り、先の手順で定めた方法論を実行する手順です。例えば、人に聞く、図書館で調べる、自分に似た悩みを抱える人のコミュニティに入ってみる、とにかく一度やってみる、など、様々な実行の仕方があり得ます。

 

「評価」は、先の手順で実施した学習活動の成果を振り返り、「自ら」評価することを意味します。目標は達成できたか? 自分が学ばなければならないことの内容や方法について、もう少し具体的にわかってきたか? そもそも自分が最初に設定した目標は達成可能か? など、様々な質問を自分に投げかけることが重要です。また、この手順を学びの「結末」と捉えるのではなく、あくまで学びの「経過」を振り返る途中段階と捉えることで、さらなる学びへとつなげることが重要だとボルハウズ教授は言います。

 

「統制」は、以上の4つの手順すべてにおいてなされ続ける手順です。一歩メタな視点に立って、学びのプロセスを見つめます。次の手順に進むに十分な検討ができているか、最初の手順に戻って目標設定からやり直す必要はないか、といった問いを投げかけ続けることで、学びの質を高め、モチベーションを維持します。

 

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「学校での学び」は、教科毎に体系化され、抽象化されていて、「実生活の中での学び」にあるような雑多で複雑な対象を手探りで探究する要素をいくらか欠いてしまっています。

また、「方向性の決定と準備」の手順は学習者ではなく、教育行政や教師、教科書会社などの「他者」に委ねられます。さらに、その他者が設定する目標は、学習者自身の人生の目標とは、ずれていることが多くあります。

「方法論の決定」についても、他者によってなされることが非常に多いのが現状です。学習者が学び方を選択することは稀なので、それぞれの学習者が方法論を決定するための基準を身につけることもありません。

「学習活動の実施」についてもまた、学習者の意志は反映されていなく、ただ指示に従って実施するだけであることが多くなっています。

さらに、「評価」は、まさに「教師がするもの」であるという認識が強い手順です。学習者は、評価の方法も基準も決定しません。評価は教師がするものですから、その教師の評価基準に合わせて、学習者は学ぼうとします。結果、学び方を選ぶための基準だけでなく、評価の基準や、自己点検の方法をも、学習者が身につける機会がないまま「学校での学び」は進んで行くことになります。

 

ボルハウズ教授は、この「学校での学び」の問題点を、以下の文章で端的に指摘します:

学校制度と教師は、「学びの機能」を学習者から奪っている。

 

独学で何かを学ぶときに、「自分が自分の先生になる」、「自分自身を教育する」などと表現することも、ボルハウズ教授は皮肉だと語ります。本来、「実生活の中での学び」における自然発生的で自発的な学びは、学習者のものであるのに、学校制度に慣れすぎた現代に生きる私たちは、そのことをあまりに忘れすぎてしまっているのかもしれません。

 

奪われた「学びの機能」を即座に学習者に返すことは難しいけれど、第一に「教師が5つの手順について、自分はどのように考えて判断しながら授業を進めているのか、学習者自身に話すこと」からはじめてみてはどうか、とボルハウズ教授は提案します。そして、徐々に、「統制」の手順だけでも学習者に関わらせるようにしていく。さらに、可能な範囲で、できるだけ「実生活の中での学び」に近い活動を授業に取り入れ、自分自身で学びを方向づける経験を積む機会をつくることができれば、学校での学びにも重要な変化が起きると言います。

 

21年前のオランダからの問いかけ。

 

あなたの周りにある教育は、「学び」を学習者から奪う教育ですか?

それとも、「実生活の中での学び」を生涯に渡って続けていくことができるように、アクティブラーニングを促す教育ですか?

 

  • 取材

    山辺 恵理子

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