マナビラボ

第8回

2020.04.08

コミュニティ・カレッジからみる アメリカの多様性

前半

海外の教育事情を紹介するこのコーナー。前回に引き続き、アメリカの教育事情をテーマに据えてお送りします。今回は高等教育、とりわけ日本の教育制度には馴染みの薄い、アメリカのコミュニティ・カレッジについてご紹介します。

この記事をお読みになっている先生の中には、10年ほど前に放映されたアメリカのコメディドラマ『コミカレ!!』(原題:Community)をご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれません。架空のコミュニティ・カレッジを舞台にしたドラマの冒頭、このようなセリフがありました。

 

「コミュニティ・カレッジとはどんな所でしょう?

— 頭の悪い若者や高校を中退した20代、離婚した中年、脳の活性化を試みる老人のための“負け犬カレッジ”。

これが、世間の評判です。」

 

かなり脚色のかかった表現ではありますが、実際には文字通り、コミュニティ・カレッジには多様性に富んだ学生が通っています。中には高校の授業の発展版を求めて授業を受けに来る、アクティブ・ラーナーな高校生もいます。4年制大学に進学することを信じて疑わないこうした高校生たちにとっては、確かにコミュニティ・カレッジへの進学は「負け犬」のイメージがつきまとうものであるかもしれません。しかし、海外からアメリカの大学に進学することを考えている留学生にとっては、経済的にも経験的にも、スマートにアメリカの学位を習得する手段でもあります。

 

州によって教育制度が異なるため、ひとくくりに語れないのがアメリカの教育事情。コミュニティ・カレッジについても例外ではありません。コミュニティ・カレッジの位置付けは州によって、また同じ州内でも地域によって大きく異なります。

 

このテーマの前半となる今回はコミュニティ・カレッジができた背景、そして留学生の視点で見た位置付けに注目してその本質を探りたいと思います。

 

コミュニティ・カレッジの始まりは、1893年の恐慌の下で行われた、テキサス州の私立大学、ベイラー大学の学長による働きかけに見ることができると言われています。

経済不況の影響を受け、経費削減の方法を探っていたベイラー大学。当時の学長は、教員や教材にかかる費用を抑える対策として、テキサス州とルイジアナ州にある小規模なバプテスト系大学に、4年間のカリキュラムのうちの1、2年目のみを提供することを提案します。学生たちは残りの3、4年目をベイラー大学で過ごし、学士の学位付与もベイラー大学が行う、という仕組みです。小規模大学とベイラー大学双方の負担を大幅に減らしたこの仕組みは、アメリカに2年間の高等教育機関を誕生させました。

 

このバプテスト系大学の取り組みの数年後、シカゴ大学の学長から大学教育について次のようなコメントが発表されました。

「大学の1、2年目の教育は学術的ではない。始めの2年間の教育は大学とは切り離して組織的に強化すべきである」

その後、この考えに賛同した公立高校の教員が前述のシカゴ大の学長と協力し、イリノイ州で初めての公立コミュニティ・カレッジを設立しました。

 

2年間の高等教育を提供する公立のコミュニティ・カレッジは州外にも広がり、バプテスト系大学の取り組みに見られる経費削減という側面と、イリノイ州に見られるアカデミアへの準備期間という側面を持つものとして、当時のオピニオンリーダー達の注目を得ることになりました。

 

その後もコミュニティ・カレッジは、教員養成、職業訓練教育の提供、高等教育の普及、生涯教育の場と、時代に沿って様々な役割を果たしながら発展を遂げてきました。そして現在では冒頭に紹介したドラマ「コミカレ!」の台詞の通り、学力的もしくは経済的な理由で4年制大学に進学“できなかった”10代、20代にとっては4年制大学の代替として、キャリアを積む大人達にとっては新しい学位を取得する場として、そしてキャリアとは関係なしに生涯教育を受ける場として、その存在を確立させています。

 

設立当初と比べると期待される役割が多様化してはいますが、4年制大学への編入を先に据えた経費削減、アカデミア入門への準備、という側面は変わらず存在しています

 

コミュニティ・カレッジの財源や特色は州によって大きく異なります。しかし、4年制大学に4年間通う代わりに、1、2年目をコミュニティ・カレッジに通い、3年目から4年制大学に編入することで費用が大幅に節約できる、という点はどの州にも共通しています。

 

また、4年制大学への編入や準学士の取得を目的としたプログラムと、職業教育/生涯教育を目的に置いたプログラムが分かれて存在しているのも、州を越えた共通点です。前者のプログラムに進学すれば、準学士の学位取得に加え、4年制大学への編入に必要な単位の取得やそれに伴うサポートが受けられます。

 

コミュニティ・カレッジの設立のきっかけとなった経費削減アカデミア入門準備という2つの側面。この2つの側面は、アメリカの4年制大学への進学を目指す留学生の視点を持つと、よりはっきりと認識することができます

 

国立大学がないアメリカでは公立大学といえば州立大学のことを指します。コミュニティ・カレッジを含むアメリカの州立大学は、州外からの入学者の学費設定が州内入学者よりも高く設定されているのが一般的です。大学によっては日本の私立大学以上の学費がかかることも珍しくありません。そうなると、日本の大学のように「公立大学に進学すれば学費が安く済む」というロジックは通用しません。どこの州の大学に進学するにしても“州外”のカテゴリーに入る留学生には、州内出身のアメリカ人学生よりも高い学費を納めることが要求されるのです。

 

こういった背景から、学費が抑えられるコミュニティ・カレッジから4年制大学へ編入するという選択肢は、たとえ州内出身のアメリカ人と比べれば多額の費用がかかるにしても、留学生にとっては大きな節約になります。

 

アカデミアへの準備としての側面はどうでしょう。アメリカ式の教育を受けていない留学生にとっては、コミュニティ・カレッジでの生活が本格的な大学生活の準備期間としての機能も果たします。留学生枠での入学条件は大学によって異なりますが、コミュニティ・カレッジの入学条件は4年制大学の条件と比べると比較的緩やかです。また、アクティブラーニングが声高に唱えられているものの、まだまだ講義式の授業が多い日本の高校を卒業した生徒達を想像してみてください。コミュニティ・カレッジに通う期間は、アウトプットに重きが置かれるアメリカの教育に慣れるためのパスウェイとなります。

 

先ほど、コミュニティ・カレッジの財源や特色は州によって大きく異なる、と書きました。実は留学生の受け入れについても、州によって、さらには同じ州内でも地域によって大きな差があります。

 

次回は留学生の受け入れ数をはじめとした特色の違いを、カリフォルニア州とバージニア州を例にご紹介したいと思います。お楽しみに!

 

 

(取材・文章 湯田 晴子)

MORE CONTENT

  • ニッポンのマナビいまの高校の授業とは!?
  • マナビをひらく!授業のひみつ
  • アクティブ・ラーナを育てる!学校づくり
  • 3分でわかる!マナビの理論
  • 15歳の未来予想図
  • 超高校生級!明日をつくるマナビの達人たち
  • どうするアクティブラーニング?先生のための相談室
  • 高校生ライターがいく
  • マナビの笑劇場