マナビラボ

第6回

2019.09.12

アメリカの教員の1日

前編

今回から2回にわたって、アメリカの高校事情をご紹介します。

-自由な服装で活発な議論を展開させ、生徒を下の名前で呼び、友達のように接する教師。

アメリカの高校の先生達に対して、ざっくりとこんなイメージを持っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。実際のところは、そういう先生もいれば、そうじゃない先生もいます。と言うのは日本でも言えることですが、地域的にも人種的にも世代的にも、「アメリカ」の中には日本以上に多様な「常識」が存在します。この記事の中ででてくる「アメリカの〜」という言葉にも、良くも悪くも例外に溢れる多様性が含まれています。

実際にはひとくくりにアメリカの教育事情を語れない、と言うメッセージをお伝えしつつ、前編ではアメリカの一般的な教育制度中心の紹介を、後編では東海岸のバージニア州で活躍する先生のスケジュールを軸に、アメリカの高校事情を紹介したいと思います。

 

先ほど、アメリカの中では日本以上に「常識」が多く存在する、と書きました。その背景の一つには地方分権的な教育行政があります。公教育の権限は州に委ねられていますが、州内でも学区によって学校制度が大きく異なることがあります。そのため、同じ年の子どもたちでも学区によっては小学校5年生だったり中学1年生だったり、小学校でもlower elementary(低学年)とupper elementary (高学年)で分かれていたりと、同い年と同じ学年が必ずしも一致しないこともしばしば。6-6-3制が徹底されている日本の感覚でアメリカ人と話すと、学校制度の多様性に起因する「?」の大発生が起こります。

内訳は異なるものの、だいたいどこの州も小中高を合わせた初等中等教育の提供が、5歳〜19歳のうちにおさまるように義務付けられています。この無償で組織的な教育を受けることができる期間はK-12と呼ばれます(Kindergarten to twelveの略。読み方はケースルートゥエルブ、ケートゥートゥウェルブ、ケートゥウェルブ)。K-12の概念はアメリカ全土共通のものですので、学校教育について話す際はK-12を使うことによって就学年数の違いから発生する混乱を避けることができます。

また、K-12の中には高校も入ります。アメリカでは高校までが義務教育となります。したがって、ほとんどの場合は日本のような高校受験はせずに学区で進学する高校が決まります。

 

学校制度も学校を取り巻く環境も地域によって大きく異なったり似ていたり、あまり全体的なことを言えないのがアメリカの教育事情ではありますが、学校教育の中で共通していることもあります。その中でもアメリカ独特のものが毎朝欠かさず行われる「忠誠の誓い(The Pledge of Allegiance)」 です。

日本の社会科の授業でアメリカを取り扱う際のキーワードの一つにもなっている「人種のサラダボウル」。昨今は入管法改正の流れから、日本でも多文化共生社会の例としてアメリカが紹介されることも珍しくありません。しかしこの人種的にも文化的にも多様な人々を「アメリカ国民」と呼ぶことのできる背景には、様々な仕掛けがあります

毎朝行われる子供たちの「忠誠の誓い」も、言語、文化、生まれ育った背景が違う人々が「アメリカ」という国家の元でアメリカ国民となる為の仕掛けの一つとして機能することが期待されています。実際には作業的に行われてしまっていることがほとんどのようですが…。

 

Unknown           

                                             “星条旗が掲げられている英語の教室”

 

「アメリカ人」を形成する上でもう一つ重要なのは言語です。メキシコに近い州ではメキシコ系の移民も多く、スペイン語を外国語として習得するための授業が提供されている学校も多く存在します。ただし、移民として入国したスペイン語圏出身の児童生徒を対象に、スペイン語を教授言語として授業をする公立学校はほぼありません。代わりに、地域によっては多くの公立高校でESL(English as a Second Language)の授業が提供されています

公立高校のESLの授業は、通常の授業と同じ枠組みで行われていることが一般的です。アメリカの高校の授業は生徒が受講科目を選択しますので、英語が第二言語である生徒は他の科目と同じようにESLを選択します。教授言語の支援が必要な児童生徒に対する手厚い支援は、アメリカで不自由なく生活するためのサポートであると同時に、国民形成にも必要不可欠な要素です。

 

 

国民形成に結びつくようなハードコアなお話をしてしまいましたので、「アメリカ人」というアイデンティティ形成を大切にする一方で、個人のニーズも大切にしていることがわかる例も紹介しましょう。

これも規定は州や学区によって異なりますが、アメリカのほとんどの学区では理学療法士(Physical Therapist)や作業療法士(Occupational Therapist)、 言語療法士(Speech Therapist)が配置されています。生徒が受講科目を選択する上で、前述のセラピーが必要だと判断された場合は、時間割の中にセラピーを組み込むことができます。特殊学級という枠組みでもなく、生徒が自ら「選択」できるセラピーの位置付けは、日本の学校教育の中には見つけられない制度かもしれません。

 

 

アメリカの教育制度は多様性がある分、紹介するネタの宝庫ではありますが、今回はここまで。

次回もお楽しみに!

 

(取材・文章 湯田晴子)

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