マナビラボ

第7回

2019.09.25

アメリカの教員の1日

後編

前回に引き続き、アメリカの高校事情をお届けします。

アメリカで、一般的な話をしようとすると例外ばかりでキリがありません。今回は、思い切ってバージニア州で活躍する1人の先生に焦点を絞り、そこからアメリカの高校事情を見ていきたいと思います。

 

住む地域によって学校生活も大きく異なるアメリカ。先生のスケジュールをご紹介する前に、まずはバージニアがどのような州なのかを説明させてください。

地理の先生や世界史の先生は、バージニアと聞いてトマス・ジェファーソンが頭に思い浮かぶかもしれません。バージニア州はアメリカ独立時に存在した13州のうちの一つであり、「アメリカ独立宣言」の起草者のひとりであるトマス・ジェファーソン、初代大統領のジョージ・ワシントンをはじめ、全米最多の8人もの大統領を輩出した州です。歴史、伝統を重んじる、東海岸の文化を代表するような州だと言えるでしょう。この東海岸の雰囲気は学校の中でも感じられます。それは、西海岸や西南部の雰囲気とも少し、あるいはかなり違ったものかもしれません。

 

今回の取材に協力してくださったオー先生が勤務しているのは、バージニア州の州都リッチモンドからそれほど遠くない地域の公立高校です。英語科の教員として今年で2年目を迎えるオー先生。彼の日常的なスケジュールを教えてくれました。

オー先生の高校は一日4コマで動きます。基本的にはそのうち3コマで授業をし、残りの1コマで授業準備や係の仕事をするそうです。しかし、この高校は生徒数が多いため、授業時間が一日4コマになる先生もいるとのこと。ただしその場合は追加の授業分の手当が出ます。

時間割は、1990年代に流行したブロックスケジュールが使われています。ブロックスケジュールは、1日に6~8種類の科目を45〜55分の授業で受ける伝統的な時間割の代替として導入されたもので、今でも多くの高校で使われています。ブロックスケジュールにも様々なタイプがありますが、オー先生の学校では、奇数の日と偶数の日で異なる時間割を回しています。1限目の授業だけは毎日同じで、2〜4限は一日置き。したがって、生徒たちは7種類の授業を取ることになります。

それでは具体的にオー先生の一日のスケジュールを見てみましょう。

 

 〜オー先生の1日〜

6:45  起床。

7:25  学校に向けて出発。

7:45  学校到着。

8:00  生徒が登校し始める。(8時より前は生徒は立ち入り禁止)

8:30  1限開始。授業。(学年の終わりに近づくにつれ、遅刻する生徒が増える)

9:22  1限終了。

9:27  2限開始。授業はないので偶数の日は授業準備。

奇数の日には係の仕事をする。係の仕事もいろいろあるが、今年は資料室で、支援が必要な生徒の音読テストをサポートする係に。

11:08  2限終了。昼食開始。

昼食は、3限が行われている時間に5回に分けて取られる。教科によってどの時間帯が昼食時間になるかは異なる。

英語科は1番始めなので、11:08から11:32に昼食をとる。昼食後、3限開始。

1:16  3限終了。

1:21  4限開始。授業。

3:00  4限終了。

授業が終わって30分ほどは生徒のフォローアップに使う。

毎日陸上部の練習に参加しているので、3:30~5:15は練習に参加。

60%の先生は部活や放課後に行われるテストの実施、登校拒否の生徒のサポートなどで3:43~4:00頃まで学校にいることが多い。

6:00  帰宅。

 

※授業の開始時間や終了時間は00分や05分ではなく、27分や08分になっていますが、オー先生の学校の時間割をそのままをご紹介しています。

 

日本の先生方の日常と比べてみて、いかがでしょうか。そしてオー先生の昼食の時間について、お分りいただけたでしょうか。この学校では昼食の時間が全校で決まっているわけではなく、クラスごとに異なります。オー先生は運よく3限の授業が始まる前に昼食をとり、昼食後に通しで授業ができますが、他の先生の授業では3限の授業の、言わば授業中に昼食の時間が入る、ということになります。

この不思議な現象はカフェテリアの大きさが生徒の人数に対応できない場合に発生します。教室で昼食をとることが当たり前の日本では信じられないことかもしれませんが、たとえお弁当であっても昼食はカフェテリアでとることが当たり前のアメリカの高校では、授業の半ばで昼食の時間があるのは珍しいことではありません。

 

また、アメリカの学校の教室は、授業を担当する「先生の部屋」のような雰囲気に包まれているのも日本とは違うところです。生徒がクラス単位で同じ教室にとどまる日本とは対照的に、アメリカでは先生が教室に滞在し、生徒たちが自分の選択した授業が行われる部屋へと移動します。よって、教室のレイアウトなどはそこの教室で行われる授業を受け持つ先生の一存に任せられます。

ただし、オー先生の学校は教室の数も足りないため、自分の教室を持てない先生もいるそうです。オー先生もまだ教員をはじめて2年目ということもあり、自分の教室はないとのこと。代わりに、写真にあるようなカートを持って授業をする教室を回ります。オー先生はスペイン語の先生と教室を共有しているそうです。

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             “教室移動に欠かせないカート

 

バージニア州では英語の授業の生徒数を24名以内に納めるようにとのガイドラインがあります。オー先生の授業にはそれを少しオーバーする、25名〜26名の生徒がいます。しかし、この人数も教科によって異なります。数学の授業は30名が平均と、英語の授業よりは少し多いようです。生徒の人数が教科によって違うのも、日本の学校から見ると少し不思議な感覚かもしれません。

 

先生が自由に使っていいスペースは教室だけではありません。日本で言う職員室であるスタッフルームにも、アレンジできるほどのスペースがあります。スタッフルームは通常、教科ごとに与えられます。大きな部屋の中に同じ教科の先生方の席が割り当てられているイメージです。この席も、キュービクルと呼ばれる壁のような仕切りがあり、日本の職員室の印象とは全く異なります。オー先生はこの仕切りの中に大好きな日本のほうじ茶と急須を置くスペースを作ったそうです。

 

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                                “オー先生のキュービクル”

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                              “机の上のお気に入りコーナー”

 

 

今回は、バージニア州のオー先生の紹介を通してアメリカの高校事情を少しだけご紹介しました。これだけを見ると日本との違いが目立ちますが、実際には、試験の結果に振り回される苦悩や保護者対応の多様化に伴う困難、生徒間の格差解消への奮闘など、アメリカの先生方と日本の先生方に重なる部分もたくさんあります。

そして今、アメリカの中では担当学年をチームと見なして同じ島に座る日本の職員室スタイルを取り入れようという声もあるそうです。国によって相応しい形があるのはもちろんですが、今目の前にある「当たり前」から、他の人の「当たり前」を借り合ってみるのも、面白いかもしれません。

 

 

(取材・文章 湯田晴子)

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