マナビラボ

第16回

2019.04.17

宮城県松島高校観光科の「特色づくり」に迫る!(前編)

特色ある学校づくり」は、今日の学校教育について考えていくときの重要な課題の一つになっています。とはいうものの、実際の「特色ある学校」とは、どのようなものなのでしょう?また、学校における特色づくりは、具体的には教師のどのような活動によって可能になっているのでしょう?

 

こうした「特色ある学校」をめぐる問いを抱きつつ、2018年11月14日、マナビラボ・プロジェクトでは、宮城県松島高等学校観光科の授業に潜入し、観光科のカリキュラムや取り組みについて根堀り葉堀り伺ってきました。

今回から前編・中編・後編の3回に分け、同校観光科について、ご紹介させていただきます!

 

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見学した授業の様子

見学させていただいた当日の授業は、プレゼンテーションに向けた最終準備の時間。生徒たちはそれぞれのグループに分かれ、いくつかの教室を移動しながら、最終調整に精を出していた。

翌日には、旅行会社の方々に向けて、生徒たち自身が作った観光プランをプレゼンし、それがゆくゆくは商品として発売されるとのこと。

プレゼンの前には、女子たちが「髪の毛、結うんだよね?」「ブレザーのボタンは?」等々、お互いの身だしなみをチェックし合っている様子も。どのグループもプレゼンでは、パワーポイントを使ったり、寸劇を取り入れたりしながら、自分たちの作った観光プランの良さをわかりやすく伝えている。

本番さながらのプレゼン後には、先生方からのアドバイスを踏まえつつ、すぐさまブラッシュアップに取り掛かる。ワイワイガヤガヤしながらも…よりよいプランにするために、よりよいプレゼンをするために…真剣な眼差しがとても印象的だ。

 

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松島高校観光科のこれまで

松島高校の観光科は、日本三景である「松島」という観光資源を学習材料として活用し、将来において観光産業やそれに関わる産業に携わる人材を育成する、という宮城県の県立高校将来構想計画の方針のもとに、2014年4月に新設された学科である。それまで普通科学級だけだった松島高校は、2014年度入学生から普通科3学級、観光科2学級となり、今日に至る。

観光科の授業は、商業を専門とする教員全7名および他教科の教員で行っている。人事異動によるメンバーの度重なる変更を経験しながら迎えた2018年は、観光科発足から4年目の年であり、発足以来のカリキュラムを踏襲しつつも、新しい試みにも挑戦しているところだという。たとえば、その新しい試みの一つが、この日見学させていただいた「宿泊を伴う観光旅行プラン作り」である。「宿泊を伴う」というのは、初めての試みとのこと。

こうした観光プランの作成やガイドは、カリキュラムの中にどのように位置づいているのだろう?

 

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観光科カリキュラムの概要

観光科では、普通の教科・科目の他に、観光に関する専門的な科目(全体の3割)を学んでいる。たとえば、1年次には「観光基礎」「地元学」、2年次には「旅行業務」「観光地理」「Dream Skyward」(観光外国語)、3年次には「観光実践」「Global Good」(観光外国語)がそれぞれ学校設定科目としてカリキュラムの中に組み込まれている。

観光科のカリキュラムでは座学だけではなく、実習も重視されている。たとえば、1年次の「観光基礎」の中には約2週間の販売実習、2年次の「旅行業務」の中には約1ヶ月泊まり込みのホテル実習が含まれている。こうした積み重ねを経て、観光科での学びの総仕上げとして着手されるのが、3年次における商品としての観光旅行プランの作成およびそのガイドである。

また、生徒たちは3年間にわたって「観光ボランティアガイド」にも携わっている。もともと「観光ボランティアガイド」は、授業の一貫として、生徒が自分の実力を試すことを目的とするものであった。このガイドを利用するのは、主に小中学校であり、はじめの頃は数校程度の依頼しかなかったという。しかし、このガイドが好評を博し、そのことが旅行会社にも伝わり、結果として今日のカリキュラムに組み込まれ、3年次における生徒による商品開発にも生かされている。「観光ボランティアガイド」は、今では年間約1000人のガイドを受け入れている状況で、すでに再来年まで予約が入っているという。

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授業見学後、観光科での取り組みや生徒の様子について櫻井潤先生(観光科長)と榛澤順子先生(観光科商業科長)にお話を伺った。

 

 

――観光科のカリキュラムの特長は何だとお考えですか?

 

櫻井先生:そうですね、スパイラル型にどんどんと経験を積み重ねていけるのが特長なのかなと思います。

ガイドというと一回切りのイメージを抱くと思いますが、本校ではガイドを多数引き受けているので、いろいろなパターンを練習することができます。そのときによって、相手がどういう方か、何を求めてるのか、というのは違うわけで、じゃあどうすればいいかっていうのを、実際にいろんなことに接しながら考えていけるところが、本校の一番珍しいところであり、特長だと思っています。

 

 

――多数の観光ガイドを引き受けるのは大変そうですが…。

 

榛澤先生:上の学年が下の学年を指導するんですよ。

この間の日曜日も、九州の高校の修学旅行生にガイドをしてくれる人を募集したのですが、最終的には60人もの生徒がガイドに携わってくれました。だいたい1グループにつき本校の3年生か2年生のメインガイドが1人、1年生のアシスタントが1〜2人付いてガイドをしたんです。1年生は、3年生や2年生の姿を見て、こんなふうにしていくんだなってことがわかってきますし、特に3年生は「私がやるから、こういうふうにフォローをしてほしい」とか、「ここはこういうふうに気を付けてほしい」っていうことを、当日のリハーサルのときに伝えたりもしていて、結構細かく指導していましたね。

それから、生徒たちがガイドで回っていると、販売実習とかで以前お世話になった企業の事業所の方々が励ましてくださるんですよ。

下の学年は、上の学年や地域の方々から、育てていってもらってるという感じです。

 

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――今日見学した授業からも生徒の熱心さが伝わってきました。みんな高いモチベーションをもって取り組んでいるんですね。

 

櫻井先生:「仕事の報酬は何だ?」という話をするとき、私は「仕事の最大の報酬は仕事なんだぞ」と話すんです。

「いい仕事をすれば次に仕事がくる。今、小中学校からの観光ガイドの依頼が多いのは、先輩方が良かったからだ、あなたたちの後はあなたたちの腕にかかってるからな」っていうことを言われると、確かに、相手とどう接するか、その場でどういう姿勢が必要なのか、ということを、生徒たちなりに少しずつ意識するようになるんだと思います。

 

榛澤先生:学校があるこの地域で実習をしてるっていうのが、すごく大きいのだと思います。

実はこの辺に住んでる子って本当に少なくって、生徒の8割、9割は電車で通ってくるんです。だから、入学したときは、松島の観光名所と言われるところでも聞いたことはあるような気がする…といったレベルで、それが何なのか、どこにあるのかもわからないんです。そこから実際に足を運んで見てみたり、先輩に教えてもらったりして、ガイドできるようになっていくんです。

 

――生徒の高いモチベーションや生徒同士での教え合いが、観光ガイドボランティアを支えるキーになっていることがわかりました。授業の中では観光について、どのように教えているのですか?…つづきは中編で。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    田中 智輝

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