マナビラボ

第19回

2017.02.01

全国調査の結果を解説!
〜Vol.2 アクティブラーニングの効果と悩みの変化〜

全国調査の結果を解説する「ニッポンのマナビ いまの高校の授業とは!?」

2015年度に続き、東京大学大学総合教育研究センター中原淳研究室は、一般財団法人日本教育研究イノベーションセンターとの共同研究として、「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する全国調査2016」を実施しました。
各教科(国語、数学、理科、地歴・公民、外国語)の教科主任の先生向け、各教科でアクティブラーニングに取り組んでいる先生向けの2種類の調査について、調査票を送付した全国の高等学校約2,414校のうち、約74%にあたる1,794校からの回答を得ました。

全国調査2016の結果解説、2回目となる今回は「アクティブラーニングの効果と悩みの変化」についてです。

アクティブラーニングの効果の変化
アクティブラーニングの効果の変化

 

ご存知の通り、2014年11月文部科学大臣により「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」が諮問されてからというもの、「アクティブ・ラーニング」への注目が高校教育において急速に高まってきました。
本調査では、この間、高校教育にどのような変化が生じているのか、教科主任の先生に尋ねています。

まず、アクティブラーニングの実施による効果について、2015年からどのような変化があったかのを尋ねました。
その結果、「協働性」「思考・表現力」「課題解決力」などの効果が、2015年度と比べて「変化があった」と感じていることがわかりました。

  • ・協働性:コミュニケーション力、積極性、社会性、協調性、他者と学ぶ楽しさ など
  • ・思考・表現力:思考力、表現力、発想力、知識・理解の統合 など
  • ・課題解決力:課題発見力、情報収集・活用力、実行力、柔軟性 など

全国調査2015の結果では、アクティブラーニングのねらいの上位が「協働性」「思考・表現力」「課題解決力」でした。先生方のねらいと対応して、授業の効果も着実に向上していることを示す結果であると言えるのではないでしょうか。

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教科別に見ると、「市民性」において教科間の差がやや見られたものの、全体的に教科による大きな差はほとんど見られませんでした。

先ほど「授業の効果も着実に向上している」と述べましたが、一方で、その回答の多くは「どちらともいえない〜やや変化を実感した」であり、変化は決して大きなものとは言えないものでした。
もちろん、以前からアクティブラーニングに熱心に取り組んできた学校では、この1年間での変化は大きなものとはならないことには留意する必要があるでしょう。
しかし、この結果はアクティブラーニングに「組織的に取り組んでいる」14.9%の教科主任の回答によるものです。
先生が独自に取り組んでいる教科、あるいはまったく取り組んでいない教科では、変化はより小さなものであると考えられます。

全国調査2015の結果では、授業の効果を高めるためには、アクティブラーニングの視点に立って授業改善に組織的に取り組むことが重要であることが明らかになりました。
従って、今後、授業改善に組織的に取り組む学校が増えることで、効果を実感する学校も増えていくものと考えられます。

 

アクティブラーニングの悩みの変化
アクティブラーニングの悩みの変化

 

次に、アクティブラーニングの実施により感じた悩みについて、2015年からどのような変化があったかのを尋ねました。
その結果、「教員の負担増加」「教育資源」「授業の進度」「授業方法や評価」に関する悩みなどが、2015年度と比べて「悩みが増えた」と感じていることがわかりました。

  • ・教員の負担増加:授業前後の負担の増加、授業中の負担の増加 など
  • ・教育資源:予算の不足、施設・設備の不足、時数の不足 など
  • ・授業の進度:進度の遅れ、進度のばらつき など
  • ・授業方法や評価:教員の授業スキルの不足、客観的な評価が困難 など

「教員の負担増加」「教育資源」「授業の進度」「授業方法や評価」といった悩みは、アクティブラーニングの視点に立った授業改善に力を入れて取り組むほど、より大きく生じてくる性格の悩みであると考えられます。
これらの悩みを解決するためには、アクティブラーニングに以前から取り組み、既に悩みを克服した先輩の先生方や悩みを同じくする先生同士で問題の解決策を共有し合うことで、解決の糸口を見つけることができるかもしれません。

一方で、「生徒や保護者の理解」「教員の理解」に関する悩みについては、2015年度と比べて「悩みが減った」と感じていることがわかりました。

  • 生徒や保護者の理解:生徒の理解が得られない、保護者の理解が得られない など
  • 教員の理解:教員が必要性を感じていない、教員間で対立がある など

「アクティブラーニングで大学に受かるのか」といった不安が生徒や保護者に見られますが、「生徒や保護者の理解」に関する悩みは減りつつあるようです。
また、「アクティブラーニングに積極的な先生とそうでない先生との間に温度差がある」といった悩みが見られましたが、このような「教員の理解」に関する悩みも減りつつあり、組織的に取り組む基盤は整いつつあると言えそうです。

 

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教科別に見ると、「授業の進度」「教育資源」において教科間の差がやや見られたものの、全体的に教科による大きな差はほとんど見られませんでした。
(地歴・公民科、国語科において授業の進度に関する悩みがやや増えており、理科、地歴・公民科において教育資源に関する悩みがやや増えていました。)
アクティブラーニングに関する先生方の悩みの多くは、教科に特有のものであるというよりも、取り組むときに共通して現れるものであると考えられます。
そのため、ときには教科をまたがって先生同士で悩みを相談し合ってみると、思わぬ悩みの解決につながるかもしれません。

悩みの解決方法については、先生のための相談室が参考になると思いますので、ぜひご覧になってください。

 

上図は、ご自由に引用・転載していただいて構いません。また、引用・転載にあたっては、事前にご連絡をいただく必要はありませんが、必ず以下の【出典記載例】に則って、出典をご明記ください。

【出典記載例】
木村充, 伊勢坊綾, 小山田建太, 田中智輝, 村松灯, 山辺恵理子, 中原淳 (2017). 東京大学-日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究 高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査2016: 第一次報告書.
http://manabilab.nakahara-lab.net/wp/wp-content/uploads/2017/01/1streport.pdf

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