マナビラボ

第6回

2016.01.20

明るく楽しく笑っている
高校生活を当たり前に
今村久美 x 中原淳(後編)

生徒が学びたいことと、大人が教えたいことを行き来する教育を

ラボ長の中原が、教育に熱意のある著名人の方をお招きして「これからの社会」や「これからの教育」について、ざっくばらんに語り合います。

2016年初のゲストは、NPOカタリバの代表理事、今村久美さん!

前編では「なぜ、大学にいくのか?」を問い続けた高校生活などについて、中編ではその後出会った高校生たちとのエピソードを伺いましたが、後編の今回は、「これからの高校教育」について、そして「親としての思い」を語ってくださいました。

 

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中原:    (高校生時代、カタリバ立ち上げの頃、そして高校生支援に携わってからのことを聞いてきましたが)、ちょっと話変えてね。いま……今年からかな?中教審の委員になられて。

 

今村:    はい、勉強させていただいています。

 

中原:    (笑)

 

今村:    難しいですね、あれはね。本当に。(笑)

 

中原:    中教審の委員とかなさっていて、いろんな情報が入ってくるし、いろんなことを見聞きなさっているんだと思うんですけど、高校っていう観点で言うとね。どんなことを思いますかね?

「今後高校はどうなっていくのかな?」とか、「高校での教育ってこんな風になったらいいな」とか、いろんな思いがあると思うんですよね。どんなことを感じますか?

 

今村:    そうですね。

いままでの高校は、学習指導要領が決めた……学習指導要領は、まあ、先生方の自由度はたくさんつくっていると思うんですけど、でもやっぱり「何時間でこれだけのことを教えなきゃいけない」っていうミッションを先生方が持って授業を組み立ててらっしゃった、っていうのがいまの現状だと思うんですが、これから高校がどんどんと、言って見れば(中編で紹介した、高校生の興味関心を基盤とした自主的な課題設定と計画の実行を通した学びの活動)「マイプロジェクト」を推進するような高校のあり方にならないかな、というのを勝手に思っていまして。

 

中原:    うん。

 

今村:    っていうのは、そろそろ高校生くらいになったら、自分が好きなこととか自分がテーマにしたいようなことのきっかけくらいは見つけられると思うんですよね。

なので、生徒に、高校が、学習指導要領が教えたいことがあって子どもが学ぶんじゃなくて、生徒に学びたいことがあって、そのために知識を得ていくっていう順番に変えてみたり、学校側の指導で学んだりっていうことを行き来できるようになると、「とにかく暗記する」っていう学びが変わっていくのかな、って思っています。

 

中原:    それは本当にそうですよね。

気の利いた先生とか、心ある先生はもう「探究」っていうようなことをやってらっしゃると思うんだけど、もっともっと前倒していって、高校はもちろんだしね。下手すりゃ中学校や小学校とかも、ガンガンそういう探究の経験ってもってほしいなって思いますね。

 

今村:    本当にそうですね。

 

中原:    それってどうやんの?とかって考えて、無理だとかっていうのは、その後考えればいい話だと僕は思うんだよね。

 

今村:    先生方がもっと自由に発想できるようになるといいな、と思いますね。がんばってらっしゃる先生がたくさんいるのは、私も本当に出会いがよくて、たくさん、多くの先生から学びを得ているんですけど…

 

中原:    うんうん。

 

今村:    一方で、すごく苦しんでらっしゃるな、と思う方もたくさんいるなあ、と思うんですよね。

もっとこう、自分が教員になったときの志と違ういまの自分になっているな、とか。もっと、こういうクリエイティビティーを授業に持たせたいな、と思っていても、もともとのご経験がないのか、時間がないのか、なにかしらのリソースがないのか、っていうことが原因になっているのか。もしかしたら、学校の風土の中で変わったことがやりにくい雰囲気があるのか、わからないんですけど。

苦しんでいるような、本来持っている力を発揮しきれていない先生も多くいらっしゃるような気がして。子どもだけじゃないな、と思っています。

 

中原:    そういう意味で言うと、物事を変えていくんだったら、新たに必要になるリソースがありますよね。変えていかなきゃならないのがもし風土なんだとしたら、もうちょっと上のマネジメンントのレベルで変えていかなきゃいけないのかもしれないですね。

 

今村:    はい、そうですね。

 

中原:    ちょっと、あっという間に時間が過ぎちゃって、そろそろ怒られそうなんだけど、「15歳の未来予想図」なんで。今後ね。どういう風に社会が変わっていくのかっていうか。バクっとした問いなんですけど、そういう中でどうやって僕らが生きていけばいいのかっていうね。

いろんな観点があるから、言い出せば「1、2、3、4、5」って言えちゃうんだけど、一番、今村さんの中でね。ビビっとくるものってありますか?

 

今村:    この観点で(質問カードを指差しながら)。

 

中原:    「今後の社会」っていうことで。

 

今村:    まあ、そうですね。どうなんだろうなあ。

……「マイプロジェクト」なんですけどね。

 

中原:    やっぱりそこだ。(笑)

 

今村:    「マイプロジェクト」がある高校生が増えるといいな、と思うんですよね。

別にそんな、プロジェクトっていうと大がかりだけど、本当に探究したいことがある。1時間探究したいことでもいいと思うんですけど、あの3年間の(高校生活の)時間の中で、自分側にオーナーシップがある時間を何時間でも持てた子が、そういう経験をした子が300万人の高校生全員にならないものかな、と思うんですよね。

 

中原:    ある意味で、たぶん、それはあれですよね。

今は、気の利いた高校とか心のある高校、機会があるというか恵まれている高校に行っている子は「マイプロジェクト」らしきものを組織してくれる学校もあるんだろうし…

 

今村:    いや、もう本当にたくさんさせていただいていますけど、やっぱりすごい学校はね。すでに始まっていますよね。

 

中原:    そういう意味で、差がね。

確かに広がっている気がしますよね。

 

今村:    はい。

震災以降、(岩手県)大槌町、(宮城県)女川町に入って思っていたのは、ものすごく今はテクノロジーが進化しているので、リソースを集められる人ってものすごく集められるんですけど、そこと隔絶している人っていつまでも隔絶していられちゃうし、とにかく孤立していられちゃうし孤独でいられちゃうんですよね。

それで、もともとあったコミュニティが仮設住宅で全部バラバラになったので、被災地の「地域」というものが地域ではなくなって、東京的な地域観になってきている感があるんですけど、そのときにやっぱり気にかけてくれる人とかがいなくて生きていけちゃうっていう。

自分が気になる人を持たなくても生きていけちゃうっていう感じが地方に広がりつつあるのかな、と思うと、ちょっとそういう「孤立」「孤独」という問題が一番大変だな、と思っているんですよね。

 

中原:    そうですね。最後にさ。

 

今村:    はい。

 

中原:    お子さん、いらっしゃいますよね。

いま何歳でしたっけ?

 

今村:    2歳です。

 

中原:    ああ、2歳か。

いままではさ。どういう社会がとかさ、どういう高校かとか、そういう話をしてきたんだけど、ご自身のお子さんが高校に入るって言ったら十何年後かな、と思うんだけど。

 

今村:    はい。

 

中原:    どんな高校生活とかさ。どんな高校時代を過ごしてほしいと思いますか?

 

今村:    そうですね、まずは笑っていてほしいですよね。

 

中原:    (笑)そうだよね。

 

今村:    ね。(笑)

 

中原:    僕ね。誰かに前、同じような質問を投げかけられたときに、「いやあ、明るく楽しく」とかしか言えなかった。(笑)

 

今村:    そうなんですよね。(笑)

結局、明るく楽しく過ごせててほしいな、と思うんですけど、どうなんでしょうね。

いまから十何年後、高校生が明るく楽しく過ごせている当たり前が当たり前なのかっていうのもちょっと疑問じゃないですか。

だって、東京オリンピックが終わって、10年……えっと、2025年だとしたら。いま震災から5年経って、「東北」っていう言葉がほとんど日常で聞こえなくなったのと同じで、オリンピックが終わって5年後なので、日本経済はどうなってるんだろう?とか、オリンピックの盛り上がりが一切残っていないときに高校生かもしれない。

 

中原:    そうですね。

 

今村:    だから、そのときに明るく楽しく笑っていられるのかな、って。

そのためにはね。どうしたらいいのかなって。

 

中原:    それを当たり前にしていく責任があるんですよ、大人にはね。(笑)

 

今村:    そうですね、はい。

そうだと思います。(笑)

 

中原:    じゃあ、ちょっと。最後にピリリとした感じも流れたけれども、今日はこれで終わりたいと思います。

どうもありがとうございました。

 

今村:    ありがとうございました。

 

(終わり)

  • 取材

    中原 淳

  • 撮影

    松尾 駿

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