マナビラボ

第3回

2015.12.30

「みんなが学んでいる状況」が理想
為末大 x 中原淳(後編)

体系立てられないことを「学びたいから学ぶ」

ラボ長の中原が、教育に熱意のある著名人の方をお招きして「これからの社会」や「これからの教育」について、ざっくばらんに語り合います。

第1回目のゲストは、オリンピックに3度の出場を果たした元陸上選手、為末大さん!

前編、中編では高校時代から現役引退までの軌跡について伺いましたが、後編では「これからの社会、これからの学び」について語っていただいています。

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中原:   (引退後のご活躍について)ウェブでちょろちょろっと 見させてもらったら「為末大学」っていうのもあって…。

 

為末:   ああ、そうそうそう。

 

中原:   これはなんですか?

 

為末:   全然もう、貼られるのも恥ずかしいくらいの活動なんですけど。

いや、最初は「為末大が学ぶ」でやろうとしたんですけど、まあ、いろんなことに興味があったんで。

この立て付けにしたら、この下に例えば、なんなんだろうな。うーん。

 

たとえば、ロボットに興味があったりしたら、為末大学ロボットなんとか学部って名前にして、どっかの先生にお話聞きに行くとかできるかなと思って、最初つくったんですよね。

 

いまは「ランニング部」っていう、子どもたちにかけっこを教えているところは一番活動としては多いですけど。

 

でもなんか、そういう、何か知らないことを教えてもらいながら生きていっていくっていうのが、やっぱりやりたいなっていうのは価値観として強かったんですよね。

 

中原:   なんか、あれですよね。

その辺が凄くユニークだなぁと思うんだけれども。

 

為末さんが書かれたものとか、あるいは登場なさっているものをいろいろ拝見していて、なんでこの人はすごく学びとか教育とかに興味があるんだろう?と。

 

それはなんでなんですかね?

 

為末:   なんなんでしょうね。

確かに、あんまり聞かれたことなかったな。

 

中原:   今、短い時間だけども、話を伺っていて、中学校でトップだったときは100mとか200mだったけど、それを400mハードルに変えていくっていうのも、僕からすると「学び」とか「変化」なんですよね。

 

で、最後に現役を引退なさって。

そこまで本当に日々日々自分を高めていくのも「学び」だし、現役引退なさって全然違う領域に行くっていうのも 「学び」と言えば「学び」だし。「変化」と言えば「変化」な気もするんだけど。

 

なんかすごく、ご活動の中心にそういう 「変化」とか「学び」とか人が変わっていくことに関する興味みたいなものを感じるんですよね。

 

為末:   ありますね、ええ。

ありますね。

 

中原:   なんでなんだろうね?

 

為末:   今すぐにっていうのはパッと思いつかないですけど、人生で何かのために学ぶっていうことって考えてみるとあまりなくて。

なんか学ぶことが、「学びたいから学ぶ」っていうんですかね。

 

中原:   学ぶことが目的っていうこと?

 

為末:   そうですね。

時々それは感じることがあって。どういえばいいんでしょうね。

まあ、勉強はあまり頑張ってこなかったんで。

陸上競技って「勝つために学習する」みたいなことがあるんですけど、でも、そういうのは長くやっていくと、「より速くなる」っていうより、「なろうとしていること」自体が目的に感じてきて。

 

なんていうんでしょうね。

そのことが面白いよねっていう。

 

まあ、でも何かないとひとは頑張れないから、「じゃあメダルを目指そうかな」みたいな。

 

ちょっと逆転現象が起きていくというか。

 

山頂が目的と思っていたら、実は山登りの方が目的で、「山登りをちょっと楽しむために山頂を設定するか」みたいな。

 

これ結構よくアスリートが言うんですね。長くやったアスリートが。だから、自分の人生の中にどうもその「山頂よりも、何か学ぼうとしていること自体が面白い」って感じる傾向が強い気がするんですよね。

 

特に自分の変化に対して ものすごく興味が強いんですけど、これも学びっていうジャンルに入れていいんですか?自分が変化するっていうの…。

 

中原:   いいんです。(笑)

 

為末:   ああ、いいんですね。

 

中原:   まあ、わからないけど、僕はいいと思います。

でも勉強は嫌いだったかもしれないけど、たぶんずっと学んできたんじゃないかな、と。

 

為末:   ああ。

 

中原:   ある意味でその、何かこう賞とかランキングみたいなものを目指すというよりは、そこにチャレンジしているプロセスそのものが「いいな」と、たぶん 思われてきたんでしょうね。きっとね。

 

為末:   そうですね。

まあ、そういう意味では。なんていうのかな。

それこそ次世代がこれからどうなるか、みたいなこととかも…。

 

中原:   そうですね。それいきますか。どれいきましょうね。

やあ、これ本当に…「15歳の予想地図」だっけ?あれ?

 

為末:   「未来予想」。「未来予想図」。

忘れちゃってるじゃないですか。(笑)

 

中原:   未来予想図なんですけど。(笑)

 

僕、結構、自分はね。研究テーマは社会人というか、成人の学習とか人材開発って研究領域なんだけど。ずっとこう研究やってきていて5、6年ぐらい前からひしひしと思うようになってきたことがあってね。

 

それはその、ビジネスパーソンの 「学び」「学習」とかの研究とか人材開発の研究をしていくと、なんかこう、会社に入る前とか、成人になる前、もっと前に、やっといた方がいいことがたくさんあるよ、というかね。

 

為末:   なるほど。

 

中原:   例えばロジカル・シンキングとかリーダーシップとかをね。なんで30後半とか40になるオッサンが そこから学ぶのかっていうかね。理解できなくなってくるんですよ。

 

まあ、もちろんね。そのポジションにいかなければ学べないことがあるんだけれども、できれば大学、できれば高校とか、もう少し前倒していろんなことにチャレンジしたり学んだりできる機会がありゃいいなというのをどっかで思っているんですよ。

 

為末:   なるほど。

 

中原:   で、それと同時にもう1個は、高校とかね。

いますごく揺れてるし、大学も揺れてるから、いま15歳の子たちがどんな社会っていうか仕事っていうか、働くってことがどういう風に変わっていくのかな、みたいなことは結構ずっと興味を持ってて。

 

為末:   なるほど。

 

中原:   で、今後どういう風にね。

高校生とかが変わっていくのか、と思うし。

あとはどういう風な働き方がこれから求められるようになっていくのかな、みたいなことを思いますね。

どうですか?感覚的に。

 

為末:   いや、うーん。

 

中原:   わかんないよね。こんなのね。

 

為末:   でも、あの。

ひとつ、今おっしゃっていた話で思ったのは、僕が高校生のときの学びっていうのは、ある体系立った何かがあって それの1章を学んで、2章を学んで、3章を学んで、全部で4章だからいま75%まできていて、4章目にいって、それでクリアして、という感じの学びだった気がするんですけど。

 

おっしゃってたリーダーシップとか、あとはロジカル・シンキングみたいなものっていうのは、何かを順番で学んでいくとか体系立てて学ぶというよりも、なんていうんでしょうね。

リーダーシップを順番に学ぶっていうのってなんか非常に難しいじゃないですかね。

 

だから「何をもって習得したか、っていうのも言いがたいものが学びの中心になる」っていうのが、すごく、こう…。

 

だけど、みんななんとなくその人を見ていると学んだかどうかがわかる、みたいなものが中心に据えられている、というのは非常に次の世代の難しい点だなっていう感じがするんですよね。

 

中原:   1章やって、その上に2章がきて、2章やって3章がきて、「はい、面クリア」みたいな、そういう学びもたぶん残るとは思うんだけど、一方でね。いま為末さんのお話を僕なりにパラフレーズして言うと、リーダーシップに関してもロジカル・シンキングにしても「やってみなきゃわからない」んですよね。

 

為末:   ああ、なるほどね。

 

中原:   やってみて初めて分かって、やってみて「ああ、これあかんかったわ」ってなったときに、もう1回それをふりかえって初めてわかるまでいくっていう。そういう経験ベースのものがね。少しずつ増えてくるんじゃないかな、と思ってね。

 

為末:   あと、あれですよね。

こういうことが起こるんで、山登りとかはたぶんわかりやすい…山登りっていうのかな。あの、山を登って崖みたいのを登っていくっていうのをやったんですけど。そうすると「この岩のところでここをかけてください」とかってことを事前に習って、それらを先に身につけてスタートできたんですけど。

 

これからの社会って、その、次に何が出てくるかわからないから。

「出てきた瞬間に何とかする」って類の学びっていうんですかね。

 

中原:   即興的な対応だし。

 

為末:   そうですね、ええ。

 

中原:   そこで瞬時にガッて考えて対応して、あとでちょっと考えるみたいな。

 

為末:   そうですね。

その場その場はそれで威力があるんでしょうけど、やっぱり。あの、インターネットは出てくると思ってなかったんですよね。ぼくは。

もちろん言われていたんでしょうけど、少なくともスポーツをやっていてそういうの疎くて、だから、なんか全然違う世界になっちゃったなという感じがすごくしますよね。

 

中原:   やっぱり突然変化は出てくるし、それに乗るか反るかみたいなところを瞬時に判断していかなきゃなんないっていうか。そういう時代を生きていくのかもしれないですね。

 

為末:   あの、今、ねえ。

日本で国立競技場を建てるんだっていうのがあったりするじゃないですか。

 

中原:   ややこしい話ね。

 

為末:   12月で(この動画を配信する時期にまだこの議論を)やっているかはわからないですけど、でもひとつ思うのは、新しいスポーツっていまポコポコでき始めてるんですよね。

 

だからサッカーじゃない可能性があって。

世界を牛耳っているスポーツが、30年後に。

そのスポーツの選手が会場ほしいって言い出したときに、どうするんだろうとかね。

 

中原:   またもう1回つくっちゃう?(笑)

 

為末:   なんか、スポーツは不変であるとか、オリンピックに入っている競技は不変であるっていうのも、あんまり考えないほうがいいなって気がするんですよね。

 

中原:   そうか。スポーツは生まれてきているんですか。

 

為末:   そう、新しいのが出てき始めてて。

スカッシュとかってこの10年20年ですごく聞くようになってきていて、いまオリンピックに入るかギリギリのところに来始めていて。陸上も安心じゃない。それこそレスリングも外れそうになるとか。

 

中原:   それは確かにそうですよね。

 

為末:   だからもう安泰なスポーツなんてないんじゃないかって気がします。

 

中原:   そういう変化みたいなのをね。常に感じていきながらやっていくしかないのかもしれないですね。

 

為末:   そうですね。

 

中原:   ちょっと最後。時間もあれなんだけども。

 

為末:   はい。

 

中原:   一応、高校生とか、高校の保護者の方もそうなのか。

あと高校の先生とか、関係者の方が結構(この動画を)みられているんですけど、為末さんの方から最後、どんな形でもいいんですけれども、一言メッセージをいただけるんだとしたらどんなことになるのかな?というかね。

 

為末:   ああ、僕はね。

いま10歳… 10歳じゃない。10ヶ月の子どもがいるんですよ。

 

だから僕はいま親になりたてくらいなんですけど、思うのはですね。

何かを知っている人が教えるというスタイル自体がなくて、さっきまさにおっしゃっていたような「教えることも学ぶ」みたいな感じなんですよね。いま。

 

中原:   親として?

 

為末:   親として。「教え方を学ぶ」みたいなところがあって。

だから、突き詰めていうと、まあちょっと先に行っていて経験があるからそれを渡すってことはあったとしても、その経験の伝え方をこちらも学んでいるし、伝わり方も学んでいるし、みたいなことで言うと「みんなが学んでいる状況になる」っていうことが 一番いい状況なんじゃないかと思うんですよね。

 

中原:   なるほど。

 

為末:   そういう意味でいうと、子どもだったり高校生だったりが学ぶっていうことと、教えている人も学ぶし、教え方も変えていきましょうってなったりするわけじゃないですか。

 

そうすると、そのやり方を学ぶっていう状況で「ある決まった型を身につけてそれで生涯いく」っていうことがもうなくなる気がするので、常に同時進行で、しかも目の前にいろんなことが出てくるのを「どうしようか」ってやりながら「学びが日々やってくる」みたいな感じがいいんじゃないかなっていう。

 

その方が人生楽しいんじゃないかなって気がするんですよね。

 

中原:   僕も8歳の子と1歳の子どもがいるんだけど、似たようなことを感じますね。

 

例えば、一番やめてほしいのは、やめてほしいっていうか控えてほしいのはね。「学ぶことから逃げちゃう」とか「諦めちゃう」とかね。

 

ある一時期に何かできなくてもいいし、人より大したね、プープーなパフォーマンスでもいいんですよ。「だけど、学ぶことから諦めちゃうと、降りちゃうと、やばいよ」みたいな。そこだけは伝えたいなと思っているけど。なかなか伝わらないけど。(笑)

 

為末:   ええ、ええ。

 

中原:   それは思いますね。

 

為末:   好奇心もあと大事そうですよね。

 

中原:   大事そうですね。

そのためには、たぶん為末さんも僕も、好奇心をもっているところを彼らが見てないと難しいよね。

 

為末:   そうですね、ええ。

 

中原:   親は好奇心失っているのに、子どもだけはすごい知的にワクワクしている状態ってあんまり想定できないっていうか。それは思うところですよね。

 

為末:   だからこれは本当に皮肉だなって思うんですけど、これを向こう側に見せようって思っていない、油断してるところこそ真髄として伝わっちゃうみたいなところはあるじゃないですか。ふっとね。

 

だから、そういう意味では、自分自身がどう生きているかっていうことそれそのものしか伝えられないのかなと思うと、結局自分に向かってくるっていうね。

 

中原:   あり方みたいなところがね。見えてくるかもしれないですね。

 

さて、まだまだお話も伺いたいところなんですけど、これでお時間になりました。

 

今日はどうも 本当にありがとうございました

 

為末:   お疲れさまでした。

 

(終わり)

  • 取材

    中原 淳

  • 撮影

    松尾 駿

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