マナビラボ

第26回

2020.01.22

ゲーム化したいのはあなたの何ですか〜「公共」教材づくりプロジェクトに関わる大人たち〜

Gamifi Japan 石神康秀さん

NPO法人「6時の公共」が手がける事業の一つである教材づくり。「学校の中にインストールできる」教材を目指し、仁平さんをはじめとする大人たちは、学校の先生方と協同しながら奮闘しています。「自分たちの町は自分たちでつくる」――その肝となる「合意形成」を、ボードゲームを通して体験できる教材を開発中とのこと。

(ご参考:http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5872http://manabilab.nakahara-lab.net/article/5876

 

今回は、ゲーム編集という観点から「6時の公共」の教材づくり事業に携わっている石神康秀さんに、ゲーム編集というお仕事について伺いました。

ゲームと聞くだけでわくわくしますが、ゲームづくりは一筋縄ではいかないようです。ゲーム編集を仕事にするくらいだから、きっと高校時代はゲーマーだったに違いないと思いきや、ひたすら推理小説を読み、ロジックで考えることにはまっていたという石神さん。ロジック少年とゲーム編集という仕事との間には少なからずつながりがあるのかもしれません。

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ゲームを体験する人たちの中で

どんな弾みが生み出されるのかぎりぎりまで設計する

 

―――早速ですが、ゲームの編集ってどういうお仕事なんでしょう?ゲーム編集と一口にいっても、「ゲーミフィケーション」(=ゲーム性で課題解決をする)と「ゲーミファイ」(=ゲーム化)があるそうですね。

石神さん:今は「ゲーミファイ」の方をメインにしていますね。「ゲーミファイ」ってつまり、ゲーム化なんです。自分のメッセージや思っていること、伝えたい何かをゲームにする、ということです。そういうメッセージを伝える媒体としてゲームってあるよね、というところから始めています。

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―――ゲームはメッセージを伝える媒体としてどんな点で優れてるんでしょう?

石神さん:そうですね、いろんなメッセージの伝え方があって、別にゲームじゃなきゃとは思っていないです。でもたとえば、本や音楽でもメッセージは伝えられるんですけど、基本的には一方通行ですよね。一方通行っていうか、それをバンと受け手に渡して終わりなんです。

でもゲームって投げかけたものに対して受け手の中でコラボレーションが生まれて何か起こるっていう、ちょっと特殊な媒体だと思っています。

そういうゲームを設計しなきゃいけないんですよね。すごいストレートを直接ぶつけるんじゃなくて、投げた後、どう弾んでいくかを設計する、というところが違うんだと思います。ゲームの中でどんな体験が生まれるのかっていうとこが大事で。ゲームを与えられた人は、「あ、そうなんだ」じゃなくて「どっちがいいの?」とか「何したらいいの?」っていうのを自分なりに考えて、選択するという決断を迫られるんですよ。

たとえば「こっちのほうがいいんじゃないか」と思って決断したとして、それが本当にいいことなのか、実はどっちでもいいことなのかというところまでちゃんと全部設計されているわけです。それを順番に、追体験して、行動して、ゲームの作者の言いたいことを自分の中で体験していく。自分事として体験していくところがやっぱり大きいですね。こういう双方向性とか弾み方を設計できる媒体っていうのは他にはないかなって思います。

 

―――弾み方を設計する……。

石神さん:100%はやりきれない部分はあるんですけど、それは小説とかでも全員に同じメッセージをきちんと伝えきれるかっていう意味では同じなので、頑張ってどう跳ねるかを設計する感じですね。

 

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聞ききるコツは、最後まで分かってあげないこと

 

―――弾み方を設計するためにはまずゲームの作者の言いたいこと、つまり今回の「6時の公共」のボードゲームに関して言えば、仁平さんたちのメッセージを聞くことが大事ということですね。メッセージを聞き取るときのポイントはありますか?

石神さん:一言で言うと全部聞く。基本全方向。全方向って難しいんですけど、とにかく漏れなく聞き取る中で何が抜けてるかですね。要は本人が言わなかったことを聞く。当たり前なことですけど、何を言わなかったのかだけを一生懸命聞いてます。

言わない話は、きっと本人の中では当たり前で、どうでもいいと思ってることで。でも、こっちは知らないことなので。この人は何を話し忘れてるんだろうって最初からそのつもりで聞いてます。とにかく言わない項目を一生懸命メモってる感じです。

 

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―――その人が話そうとしてないことを聞く。きっと高校生とキャリアや進路、学習等について日々話している先生方が悩ましく思っていることの一つなのだと思います。相手が言おうとしてない、言ってないことを聞くときのコツはありますか?

石神さん:素直に聞くだけですね。要は、その人が言いたいことを私は何も知らないので。「分かんないから教えて」って言うだけです。だから私が知ってることだとよりつらいと思います。できないかも。自分と同じ経歴をもってる人とかが来ちゃったら「あ、分かる」って思っちゃうじゃないですか。やっぱり分かるのが一番敵なんですよね。

要は何て言うんだろう、カウンセラーとか、そういう感じの仕事ではないので、分かってあげる仕事じゃないと思っていまして。分かんないことが大事ですね。最後まで絶対分かってあげない。ある意味、厳しいんですけど、分かんないって言い続ける感じですね。

だからうちでつくったゲームたくさんあるんですけど、うちのゲーム全部について、私、語れます。作者がなんでこういうゲームにしたかとか、このゲームでどういうことやってほしいとか。全部聞ききっているから本人よりもうまく語れるんですよね。「こういうことが表現されてますよ」とか「ここ、本人のこういう思いが出てきちゃってるんですよ」とか、全部。それくらい語れるようになるまで全部聞く。最後まで聞き続ける。「分かる」って言わないようにはしますね

でも、寄り添うべき人もいるので、それがすべてじゃないと思います。個人の仕事としては寄り添わない感じ。ある意味、つらい部分もあります。敵対関係じゃないにしても対抗的になっていくこともあるんですよね。要は「分かんない、分かんない」って言い続けるのは相手を責めていくことにもなるし、ロジックが通っていないことを指摘することにもなるので。ゲームに落とし込むためには「雰囲気」じゃないんですよね。なので「この話とこの話は矛盾してますよ、矛盾している話はゲームに入らないので、どっちが正しいと本当は思ってるんですか」って聞いたり。すると「え、そんなつもりじゃなかった」とか「あれ?そう言われると確かに違う」みたいな追い込まれる人もいるので難しい場合もあるんですけど。

 

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「共感できない」はゲーム編集者の資質?!

 

―――プレーヤーでもない、クリエイターでもない、ゲーム編集者になったのはなぜですか?ゲーム編集という仕事をどのように捉えていますか?

石神さん:めちゃくちゃ楽しいですね。それは自分の考えじゃないものにどんどん触れていけるからです。ゲーム編集という仕事では、自分にはまったく考えつかないアイデアを形にしていけるんです。「え、そんなことが大事?」とか「そんなことが必要?」みたいな話をすごい熱く語る人と出会って、その人の思いをそのまま結実させていくことに立ち会っていけるので。いろんな考えの人が世の中にはいっぱいいて、毎回違った、自分には一切ないような考えにも触れられるのですごく楽しいです

ある意味、何て言うんだろう……人間性を確立していく旅というか。人間になるためにみたいな。ロボットが人間になるためにちょっとずついろんな感じを覚えていくのに近い感覚ですね。私自身、もともと共感力がないって昔から言われていて……。

 

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―――共感力がない……。

石神さん:「分かってくれない」っていうのをずっと言われてきたんです。全部勝手にロジックで考えてしまう……相手にワーって強く言われたら強く言われる分だけ、反対の立場もあるよねっていうふうに考えちゃう。そうやって対極の意見も整理していくとどっちも筋が通っていて、だから「どっちもありでしょ」ってなっちゃう。そうすると「おまえは何も分かってくれない」って言われちゃう。「共感できない」って言われ続けて、それが否定的な感じで言われたこともあったんです。でも、ゲーム編集者という仕事ではそれを有意義に使えるというか、共感しない分だけ冷静に整理していける。ゲームをつくる過程で「分かってくれない」って言われることもあるけど、共感しないでロジックだけで詰めていくからこそ、ゲームが出来上がったときにはゲームを通して伝えたいことが外の人にもちゃんと分かるものになる。こういう過程を乗り越えた人たちは喜んでいくけど、途中で挫折した人たちもいる。

 

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―――石神さんと仁平さんたちとの対話からも感じたことですが、ゲームづくりって一筋縄ではいかないんですね。

石神さん:「ゲーミファイ」って最初に言った通り、こだわってるのはゲーム化なんですよね。

ITを例にとってみれば、「ITください、ITの○○というシステムをください」っていうのは面白くないし意味もない。大事なのはIT化したい「何か」があるんだよね、その「何か」ってなんですかっていうこと。その「何か」がふわっとしてると、IT化できない。何人かがこういう構造でこういう体制を取って何をどういう手順でってところの背景まで全部整理して設計しないまま、システムだけボンって入れちゃっても失敗するじゃんって話です。

ゲームも一緒で「ゲームください」ではなんもできないんです。ゲーム化する「何か」があってゲーム化だよね、その「何か」は私、知らないんで、あなたが知ってんですよねってこと。だって私その専門家じゃないから。教育の人が「ゲーム化したいんですけど」って来たら、「私は教育のことはまったく知らないので、ゲーム化のもとはそちらからもらわないと、出してください」っていう感じですよね。

うちには既製品はないし、あなたが望むもの全部用意してますみたいな店じゃない、あなたが全部作るんです、みたいな。私は作り方のアドバイスはするけど、出てくるのは全部あなたのものなんで、ゲームの中に入ってるのは全部あなたの要素でしかない。私は誘導したりしないんで全部あなたのものです。だから私からは一切与えるものがない。そういう話をすると帰る人は一瞬で帰っていきますよ。

 

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自分が何をしたいのか

分かってるやつはだまされてるだけ

 

―――高校生の中には、おそらく、自分が何をしたいのか、自分の道って何なのか分からないと思って悩んだりしている子、いると思うんですよね。

石神さん:でも、分かってるやつはだまされてるだけだと思います。自分では絶対出てこないと思います私自身、ロジックで整理するのは私の専売特許ではないと思っていて、誰でもある意味できることだと思っているんです。ただ、誰かが聞いてあげることが大事だと思います。ずっとその人の話を最後まで聞いてあげることができれば、その人の中から出てくることもあると思う。

私自身、自分の「何か」をゲーム化すること、たまにやりますけど、どうしていいか分かんないから必ず誰かに聞くんですよ。「これでさ、こんなふうに思ってるんだけど」って。「それ何が面白いの?」とか言われて、「えー、だって、こうでこうでこうで」って、「それ何言ってっか分かんないよ」って言われて、「説明してみたい」と思ってやってみて初めてできる。誰か聞いてくれる人、必要なんですね。

ずっと聞いて、ずっと応えて。この人ずっと聞いてくれるなって思ってくると、どんどんどんどん言えるようになって出てくるじゃないですか。で、出てきたものを一緒に形にしていこうよっていうのが面白いんであって。それは本人が一人で思いついたりするようなことではないと思います。大人でも子どもでも

 

―――なるほど……。

石神さん:自分のやりたいこと自分で分かったやつって分かった気になってるだけで多分そんなんじゃないんですよね、本当は。「こういうゲーム作りたいんです」っていう人がうちに来るんですけど、大体そういうゲームにはならない。まずだってそれは、一行で説明できてる時点で面白くないです。

たとえば「クリエイティブを学ばせるゲームを作りたい」って言われても、世界中にそんなことを思う人はいるわけで、それの時点でもう面白くないです。

自分の言いたいことをみんなに任せちゃいけない、俺が言わなきゃと思ってる「何か」があるわけだから

もちろん、その人は丁寧に説明しようとか、分かりやすくしようとしてくれてるんで、それは悪いことじゃないけど、一言で説明できて、キャッチー、そろっと言って分かるような話って多分違いますよね、から始まるんだと思います

 

―――本日はありがとうございました。

  • 取材

    田中 智輝

  • 取材

    村松 灯

  • 取材

    渡邉 優子

  • 撮影

    田中 智輝

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