第11回
2016.05.11
「目標」を明確化していなければ
「反省」も生まれない
上野山信行 x 中原淳(中編)
ラボ長の中原が、教育に熱意のある著名人の方をお招きして「これからの社会」や「これからの教育」について、ざっくばらんに語り合います。
今回のゲストは、ガンバ大阪で「選手の養成」や「指導者の指導」に当たられている、上野山信行さんです!
中編では、「サッカーの指導者の指導者」という独特の立場として、指導法を教えてくださいました。
「成長したい」と思っていないコーチには、指導しても意味がない。
「目標」がないと、ひとは動けないし「反省」も生まれない。
数々の示唆に富んだ言葉が飛び交います!
中原:子どもによっては、「そう言われても、覚えてないんだけど…」みたいな、(質問を受けてもすぐに)言葉にできないって子はいないんですか?
上野山:いますよね。でも、それは辛抱ですよね。
サッカーの指導の中で、「技術」と「戦術」と「フィジカル」、「メンタル」があるんですけど、言語も含めて、「これをどう伸ばすか?」っていうプランを考えなあかんですね、指導者は。
中原:一人ひとりの子どもに。
上野山:そうですよね。この子はしゃべることに関して時間がかかるんであれば、「どういうスパンでやっていくか」ということもちゃんとプランニングするってことですよね。子どもは一気には、変わりません、なかなか。シャイな子もいますからね。それを習慣化して、慣れていくってこと。しゃべることは大事だということを分からなあかんですよね。
中原:なるほど、そうですね。
確かに、しゃべることが大事だとか、そういうことをまず認識しないと駄目だし、自分のやっていることを客観的に見れる「目」みたいなものもいるんですかね。
上野山:そうですよね。客観的にというのは難しいんですけど、冷静に自分を振り返るっていうんですか。その振り返りっていうのはすべて言語によるものですからね。
中原:「また何かコーチ問うてきたわ」「振り返らせられるわ」っていうふうに思う子どもはいないんですか?(笑)
上野山:最初はそうですよね。敬遠されますよね。「えー、また質問するん?」って。
中原:「また質問?」と(笑)
上野山:でも、子どもがきっかけをつかんでくれたら、自分で変わってくるって思ってるんでね。自分のプレーが変わった時点で、「あっ」ていう形で気づいて、コーチは子どもに信用してもらえる。
そうなると、子どもはコーチを見てきます。コーチを、「質問者」って思っていますからね。最初はしんどいですよ。子どもは答えを持っていませんからね。成長中で、まだサッカーもよく知らない子ですからね。大人は知っているけど、子どもが知らないところを質問していきますから、聞かれたことを子どもは自分で言語で説明して、整理をして、頭に残していくってプロセスなんでね。
中原:なるほどね。そういう意味で言うと、「問うて自分の言葉にしていく」っていうことが、「熟達」っていうか「上達」の秘訣なのかもしれないですね。
上野山:そうですね。それをコーチは分かりやすく話すっていうことですね。できたら「結果」から話をして、「なぜならば」っていうことを言うってことですね。「こういう失敗をしました」、「なぜならば、ボールを見てなかった」とかね。そのロジックで考えていけば、反省のサイクルがおきますよね。
中原:子どもの中にね、上野山さん。何て言ったらいいんでしょうか。「うまく伸びていかない子」っていないんですか?
上野山:それは、プレーがですか?
中原:どちらでも結構です。プレーでも結構ですし、人間的なとこでも構いませんが、どうですか?
上野山:やっぱり「伸びない子はいない」って僕は思っていまして、壁はどっかに出てきますけど、それはコーチのアプローチ次第です。子どもが伸びないことを、僕は「コーチが潰しているのかな」と思っています。特に「言語でいじめたりしていませんか」っていうこと(に留意しないといけない)ですよね。
例えば子どもが、大きな夢を持って目標を持ってきたけども、それは本当に無理かも分かんないんだけども、大人がそれを「そんなの無理だ」と言っちゃうと、もうそこからスタートしませんよね。無理だとしても、うまく言ってあげて、少し認めてあげて、ちょっと目標を変えるとか、そういう、「否定をしない言葉」を使ってあげないと。
監督っていうのは、「選手を選ぶ権限」を持っているんですよ、11人を。
中原:絶対的な権限ですよね。
上野山:持っているんですよね。そこで、批判したら怖いんですよね。子どもたちに「(試合に)出れないか分かんない」っていう危惧が起きるので。
そういう背景を考えていただいて、全ては認めないけど、ここは認めてあげるというパーツでやっていかないと。子どもたちも人間なんで。全否定されると大人でも嫌ですよね。そういうアメとムチのバランスを使うっていうんですか。それが大事かなと思いますね。
中原:そうか、子どもたちも監督を見ているんだ。そして、コーチを見ているんですね。
上野山:見ています。間違いなく。企業もそうですよね。上司が部下から見られていますよね。
中原:そうでしょうね(笑)
上野山:すぐ見抜きますよね。それを見抜かな駄目ですよね。
中原:なるほど。ちょっと話を変えまして、今、子どもの指導の話をしたんですけれども、その子どもの指導をするコーチの指導っていうことをやってきますよね。要するに、「コーチのコーチ」。「コーチを育てる人」っていうのがは、上野山さんのお仕事だと思うんですけれども、その場合っていうのは、どういうふうに指導なさっているんですか。
上野山:まず、目標を共有するってことですね。コーチが成長したいってことがなければ駄目ですよね。
中原:成長したいって思わないコーチは、指導はできない?
上野山:できない。教えても意味がないと思います。僕は「コーチを成長させたい」と思ってるんで、そのまず目標を共有するってことですよね。それで次は、「優秀なコーチ」というものの定義を共有することですよね。
中原:なるほど。どんな定義なんですか?
上野山:答えはないです。コーチの評価は他人が全部しますから。30人の子どもがいたら30の目があるので、このAくんという子どもは楽しいコーチがいいとか、このBのコーチは声がでかいとか、いろんな評価があると思うんですね。
優秀なコーチっていうのにはいろんな定義があるので、それを文字化して見せてあげて、これになろうっていうことをまず共有します。そこがスタートですね。
中原:コーチの目標の共有のところから始めていく、と。「それはちょっと、しんどいぞ」みたいなコーチも出てくるんですか?
上野山:出てきますよね。そのときは話をしていって合わせていかないと、共に行けないですよね。目標が、ベクトルがずれますからね。
中原:上野山さんのお話を伺っていて、「目標」ってすごく出てくる言葉ですよね。
上野山:そうですね。やっぱ人間っていうのは、目標があったら動けると思うんですけど、目標がなかったら「何でやってるのかな」、「何でやってるのかな」っていうふうになって、やり甲斐がないと思うんですよね。達成感がないと思うんですよね。目標があったら、それに向かってやれば達成感がありますね、失敗したとしてもね。達成感の中から次の反省が出てくる。
中原:なるほど。そこがぶれてると、反省もくそもへったくれもない。
上野山:何もないと思います。すべてが手段で終わっちゃうっていうんですか。
中原:なるほどね。で、コーチとはまず目標を共有なさいますけど、その後にどういうふうに上野山さん、ご指導なさるんですか?
上野山:あとは、その優秀なコーチの定義の中から、優先順位はないんですけども、とにかく大事なことは「言葉でしょう」とか、「見ることだ」とかっていうことを話していって、それらの点を重点的にやっていくって感じですね。一気に全部はできませんからね。
中原:そうしますと、コーチの方は子どもの指導をしてます—−そして上野山さんはその現場にいらっしゃるっていうことですか?
上野山:そういうことですね。
中原:「見てます」みたいな。
上野山:「見てますよ」って目を光らせて。終わってからフィードバックしたり、コーチに「どんなことしていましたか」、「どんなことを言っていましたか」っていうことを紙に書かせて、あとで添削して返して、という方法とか、あとフェース・ツー・フェースでやる場合もありますね。
中原:コーチは、そういう意味で言うと、(実際に子どもを)コーチングしてる中で(上野山さんがコーチングをして)育てるっていうことなんですかね。
上野山:そうですね。
中原:やっぱ座学だけじゃ難しいですよね。
上野山:難しいですね。サッカーというスポーツ自体も覚えなあかんのですから。サッカーでも「よいサッカー」と「悪いサッカー」があって、サッカーの「効率がよい」とか「悪い」ってあるんですよね。
そのサッカーっていうのは、ここでじゃ「ガンバ大阪のサッカー」だということを理解してもらわなければ駄目なんですね。そこを共有していかないと、そのサッカーに対応する選手の育成ができないんで。ピースをはめられないんで。そこは、まず覚えながら指導力を育成するっていう、並行した作業ですよね。
(後編へ続く)
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取材
中原 淳
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撮影
松尾 駿