マナビラボ

第27回

2020.02.05

ボードゲームで学ぶ政治と行政のしくみ!〜新科目「公共」、教材づくりの現場に密着〜

NPO法人「6時の公共」

誰もが一度はやったことのあるボードゲーム。みんなで集まって楽しめるだけでなく、実は学びのツールとしても改めて注目されており、教育現場だけではなく企業向けの研修などでも活用されているとのこと。

今回は、そんなボードゲームの開発の裏側を見せていただきました!

 

お伺いしたのはNPO法人「6時の公共」が主催するボードゲーム開発合宿。まちづくりへのあつい思いとアイディアを持ち寄った製作メンバーと、その思いを聞ききるゲーム編集者石神さん。その対話からどんなゲームが生まれるのか、製作過程をレポートします。

 

 

ゲームを通して何が伝えたいのか?

 

「ゲームを通して何が伝えたいのか?どんな経験をしてもらいたいのか?」

まずは、ゲーム作りの出発点となるコンセプトについてメンバーから意見がだされました。

 

1.いろいろな制約があるなかで、それでも若者たちがクリエイティブにまちづくりに参加できるように、ゲームを通して「自由に考えて、やっていいんだよ」ということを伝えたい!

2.とくに中学生や高校生といったこれからを担う世代が楽しみながら学べるゲームにしたい!

3.学校の授業で活用していただけるようなゲームにしたい!

4.作り手の多くが公務員なので、政治や行政の仕組みだけではなく、まちづくりのリアリティを感じてもらえるようなゲームにしたい!

 

ゲーム編集を担う石神さんによれば、出発点となるコンセプトが明確になっていることがとても大切とのこと。注意しておきたいのは、製作の初期段階から大人数で意見を出し合うと、とんがったアイディアではなく、みんなの意見を合わせた折衷案に落ち着いてしまうことだという。そのためコンセプトは数人のメンバーで練り上げるのが有効だ。

 

石神さんより、「今回のゲームのコンセプトは十分明確になりましたね」とのお墨付きもいただいて、いよいよゲームの構想へ。

 

 

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ゲームの「外の物語」と「中の物語」

 

 

では、実際にボードゲームを作るぞ、といっても何から着手していいものか。

石神さんのレクチャーによれば、ゲームを作る際に考えなければならないことは大きく分けて二つ、ゲームの「外の物語」と「中の物語」だという。

 

 

ゲームの「外の物語」とは…

ゲームをやっている人(プレーヤー)の物語。

製作者は、プレーヤーにそのゲームを通じてどんな体験をしてほしいのか、どのように考え方や見方が変わってほしいのかを想像して、そのストーリーを設計しておかなくてはならない。

 

ゲームの「中の物語」とは…

ゲームの中で展開されるキャラクターたちの物語。

ゲームのスタート地点ではこういう状態だったのが、ゴールではこうなっているというストーリー。

 

この二つの物語を別々のものとして二本それぞれ構想し、後に両者をガチャンとつなぎ合わせることでゲームが出来上がる。合わせるときにゲームが生まれてくるという格好になるため、最初はお互いを意識しないで考えることが非常に大切だとのこと。

 

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「空気をよむ若者」から既存のルールを問い直す市民へ

 

というわけで、最初の論点は「外の物語」をめぐって。

 

まず話題にあがったのは、「空気を読みすぎる」ということについて。若者か大人かにかかわらず、暗黙のルールや既存のルールに対して、それを疑わず、従っていればいいという雰囲気が共有されていることが、まちづくりの根底にある問題なのではないか。たとえ現状に不満があっても、規則や制度、あるいは前例などを気にして、動き出す前から諦めてしまうことが多いように思われる。市民が動きだしてはじめて公務員にできる支援も生まれることを考えると、メンバーの思いは切実だ。

 

こうした議論をへて、ようやく「外の物語」のアウトラインが浮かび上がってきた。

 

 

【外の物語】

ゲームのスタート地点では、現状に不満があっても行動することを諦めていた若者が、ゲームを通じて現状を変えていくためのヒントを掴み、「自分のまちを変えていける!」と思えるようになる。

 

「みんなの公園をまもれ!」—秘密基地を作る自由を手にいれるゲーム

 

さて、つづいて話題はゲームの「中の物語」へ。

 メンバーから提案されたのは、小学生を主人公にした物語。秘密基地を作りたいという思いを抱いた小学生が、様々な管理や規制と戦いながら、秘密基地を作る自由を手にいれるというストーリーだ。

 

秘密基地をつくる楽しさやワクワク感を味わった子ども時代の原体験を語り合いながら、アイディアが膨らんでいく。言われてみると確かに最近は子どもたちがこっそりと、秘密基地を作れるような余地が減っていっているように感じる。安全性や衛生面を配慮してのことだというのは分かるが、リスクをなくすことが、かえってリスクになることもあるのではないか。そんなことを話し合いながら、ゲームの「中の物語」が描かれていった。

 

【中の物語】

過度な管理・統制が進んだまちがゲームの舞台。秘密基地をつくる自由すら奪われた公園を前に、みんなの公園をとりもどさなきゃ!と思い立った小学生が、あれやこれやの手段をつかって自由に秘密基地をつくれる公園を手にいれる。

 

秘密基地づくりって楽しかったよね、という話から生まれたこのストーリー。だが、子ども時代の楽しい思い出とともに語られる「秘密基地」は、実は子どもだけが憧れるものではない。この合宿が行われた山形県朝日町の「松本亭一農舎」はまさにそんな大人のための秘密基地のようでもある。革新的なアイディアや新しい共同性が生まれる場所は、こんなふうに少し隠れた空間なのかもしれない。

 

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フィクションのなかでこそ浮き上がるリアル

 

こうしてゲームづくりはいよいよ細かい設定を考える段階へ。

 

「ゲームの中の物語は絶対にフィクションである必要がある」と石神さん。現実にある状況を使うと、どこまでが現実でどこからがゲームかが分からなくなり、ゲームを形作るために用いる表現が難しくなるという。

 

「たとえばアンパンマン的な世界観を思い浮かべてみてほしい」と石神さんが続ける。アンパンマンの世界には、イヌやカバやウサギなど様々な動物が直立歩行したり、しゃべったりする(そもそもアンパンマン自身が不思議な生き物だ)。現実にはあり得ない世界、ありえない設定だが、だからこそ、この物語が伝えようとしている愛や勇気といった部分だけが極めてリアルに感じられるのである。たとえば、何か困難なこと-たとえば木が倒れて道がふさがれる-が巻き起こり、どうにかしてその木を動かなきゃダメだという方向に物語は展開する(どういうわけかマント一つで空を飛んで解決ということにはならない)。そうなると、「どうやったら動かせるだろう」「だれかに力を借りよう」といった具合に、みんなの力を結集することにフォーカスが当たるのだ。逆に、実際のまちをそのまま描いてしまうと、倒木が道をふさいでいても「どこかに連絡したらどかしてくれるよね」で話は終わってしまう。

 

完全に虚構の世界でありながら、大事なところだけにリアルなロジックが生まれる。こうした仕掛けがゲームにおいても非常に重要になるのである。

 

 

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問題はどんなフィクションでゲームの世界観を作っていくか。ゼロから世界観を描くのは少しハードルが高い。そんなときには、すでによく知られている童話などの設定を借りて、パロディ化するという方法もあるとのこと。

 

時代設定は未来がいいだろうか…?

場所は?

主人公の背景は?

他にどんな登場人物が必要?敵は?味方は?

キャラクターに特別なスキルをもたせる?

 

 

ゲームをやってくれる子どもたちはどんな設定が好きだろうかと想像をめぐらせながら、だんだんと物語が組み上がっていく。石神さん曰く、実は今回の会議が一番の難所だったとのことだが、頭をフル回転させながらこの難所を楽しんでいるメンバーの笑顔が印象的であった。

現役公務員が企画し、プレイフルな製作チームが手がけたゲーム教材。面白くないわけがない!

 

どんなゲームに仕上がるのか、乞うご期待!

 

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