マナビラボ

第12回

2016.05.18

「竹槍」で勝とうとしていないか?
精神論を打破する言語による指導

上野山信行 x 中原淳(後編)

ラボ長の中原が、教育に熱意のある著名人の方をお招きして「これからの社会」や「これからの教育」について、ざっくばらんに語り合います。

今回のゲストは、ガンバ大阪で「選手の養成」や「指導者の指導」に当たられている、上野山信行さんです!

後編では、「言葉」と「目標」の重要性について、改めてお話しいただいたうえで、
先生や指導者の方に向けて「ご自身の指導の成果は出ていますか?」という刺激的な問いかけをいただきました。

この部活の練習ないし授業の目的は、何ですか?
その目的に関する成果は、出ていますか?
成果が出ていないとしたら、それを選手の責任にしていませんか?

ついに上野山さんの対談、最終回です!

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中原:ちょっと伺いたいんですけど、コーチになる方って元選手じゃないですか。
そうすると、選手として非常に優秀な方がなるんだと思うんですが、「選手の目線」と「コーチの目線」って、ちょっと違いますよね。

 

上野山:違いますよね。選手(が教えるとき)の一番のメリットは、プレーができるんですね。
デモンストレーションができるっていうことが持つ影響力は、すごく大きくて、子どもたちがびっくりしますよね。「すごいコーチだ!」っていう。

でも、逆にそれだけの期待感を持たすわけです。

それで、いざ指導をすると、全く不和なんですよね。このギャップが大きい。最初は「すごいですよ!」って思っていますけど、だんだんだんだん「この人何なん」ってなるわけですよね。

 

中原:なるほど。
指導していく中で、最初は技とかをョンピョン見せていきながら、「すごいね」と言ってもらえる。

 

上野山:「すごい選手だ」と思って。

 

中原:すいませんね。ピョンピョンとか言って(笑)

 

上野山:全然いいですよ。

 

中原:だけど、指導していくと、「何じゃこいつ」みたいな。

 

上野山:そこなんですよね。
コーチの仕事で使っていく道具っていうのは、やっぱりほとんどが「言語」なんですよ。

 

中原:そうですよね。

 

上野山:その言葉がけを選手上がりで(下手に)やっちゃうと、選手たちは心の中で、「何言ってんのか分からんわ」っていうかね。「早くしゃべれよ」とか、なってるわけですよ。それで、子どもが下向いちゃうと、コーチは自分のことを分かっていないのに、子どもに対して「何でそっち向いてんだ」って怒っちゃうんですよね。

そうなると、信頼関係が全くなくなりますよね。
信頼関係がなければ、指導しても何にも前に進みません。

 

中原:なるほどね。そういう意味で言うと、「言葉の力」みたいなものを信じたり、使っていく技術みたいなものが求められるってことなんですか?

 

上野山:一番大事ですね。僕は「言葉」っていうのが一番大事だと思っています。「いかにどう褒めるか」ですよね。

 

中原:そこがね、僕は一番最初、誠に申し訳なかったんだけど、スポーツに対して持ってるイメージと逆だったんですよね。運動だから、言葉とは無縁な世界なのかな、と。俺は(そういう世界は)駄目だと思っていたんですけど、結構、自分のやっていることとか、自分は人材開発を専門にしているんですけど、近いなというふうに思いました。

 

上野山:根性も大事なんですね。忍耐も大事なんですね。やっぱり、サッカーって試合中ずっと走ってるんで。サッカーの要素ってさっきも言いましたけど、「技術」、「戦術」、「フィジカル」、「メンタル」なんですね。その「メンタル」の中に「忍耐」とかがあるんですよね。それが、どうしても(メンタルだけに焦点を当てるというのが)昔の日本のスポーツのタイプですよね。精神論とかでね。そういうのには僕、全く反対だったので。

 

中原:昔から?

 

上野山:はい。
サッカーのうまい選手は、メンタル(が強いのとは)違うんですよね。
技術があって、サッカーでボールを蹴れるってことですよね。

 

中原:日本人て、すぐ竹やりで勝とうとしません?(笑)

 

上野山:そうそう、そんなん勝てないですよ。

 

中原:「行けー!」みたいな(笑)

 

上野山:勝てたらそんなん。
昔なんていうのは、たまたまいい選手が集まるところと弱いところとの間に格差があったから、割とそれでも勝てたわけですよ。

 

中原:もう竹やりじゃ勝てませんよね。

 

上野山:今は勝てないです。

 

中原:グローバルだとね。

 

上野山:やっぱりこっちを使わないと。

 

中原:頭を。

 

上野山:知恵を使わないとね。

 

中原:この動画は、高校の先生も結構見ておられるコーナーなんですけれども、高校の先生の中に部活指導とかなさってる先生も結構いらっしゃると思うんですね。

あと、昨今ですと、「アクティブ・ラーニング」と言って、授業の中で考えさせる、「脳がちぎれるほど考えさせる」っていう経験だと僕は思っているんですけど(そういうものが議論されています)。

高校の先生とか部活指導をなさっている先生に、一言いただけますか。

 

上野山:一度振り返ってもらいたいのは、「目的」です。

「先生方の目的は何か」っていう。
「授業のときの目的」は何か、「部活のときの目的」っていうのもありますよね。

じゃあ、「その仕事は何か」っていうことを考えてほしいですね。
「その仕事の成果が出ていますか?」っていうことを、振り返って考えられていますか?

 

中原:先生たちご自身が?

 

上野山:ご自身ですね。先生自身が、やりっぱなしになっていないか。

「この部活ではこの目的でやっています」っていうことの成果が出たら、それは先生にとって自分の成果と言えますけれども、「それを選手の責任にしてないか?」ってことですよね。

例えば、授業でいうと、どういうことを目的にしているかっていうのは、僕はちょっと学校のほう分かりませんけど、当然「成績を上げる」ということがあるとしたら、その点数が上がることが多分ひょっとして成果か分かんないですね。目的か分かんないですね。

それが悪いときに責任を生徒に押し付けるんじゃなしに、生徒にも問題あるけども、「自分自身の授業はどうか?」ということを振り返ってますか?って聞いてみたいですね。

 

中原:なるほどね。

「振り返っていますか?」だし、「ご自身が学ばれていますか?」っていう問いに近いですかね。

 

上野山:そうですね。

あと、「生徒と目的をどう共有してますか?」ってことですね。
「きょうの授業はこういう目的ですよ」ってことをちゃんと握っとかないと……

 

中原:「握ってるか?」と。

 

上野山:握っとかないと、多分40名くらいの生徒はこっちに行ったりあっちに行ったりするんじゃないですかね。

 

中原:結構難しいですね。

 

上野山:確かにね。人数的なものもありますからね。
でも、その目的を少しでも考えて伝えていくと、相手も多分そこに向かっていくことになって、話を聞こうっていうふうになっていくと思うんですよね。

 

中原:なるほどね。

 

上野山:その目的も、あんまり良くなかったら良くないですよね。
このクラスにとって適切な目的とか、部活にとって適切な目的ですよね。

 

中原:その辺のことって、時間もありますからあれですけど、日本って、「あえて言挙げしなくても阿吽で伝わるだろう」とか、「背中を見て育て」みたいな……

 

上野山:ありますよね。

 

中原:あえて言葉にしないってことに、ある種の美徳に感じているところってあるのかなって思うんですけど。

 

上野山:職人が、師匠を見て盗むとかってありますけど。

 

中原:ここは職人じゃないと。
それは言えますね、確かに。

 

上野山:そういう方法もあるんですよね。「見て覚える」っていうのも大事なんですけど
「見せること」も、ある意味「選手の言語」かなって思うんですね。受け手側は、見て、そして考えてますからね。
そういう意味ではやっぱり僕は「目的」が大事かなって思って。
学校とかにたまに指導に行ったりするけど、練習を見ていても、目的を言わずに練習だけさせているので、なんか活性化されていないっていうんですかね。それは感じますね。

 

中原:「練習があるけど、目的がない」。

 

上野山:はい。それで、「この目的を達成したら、君たちはこうなるんだよ」っていうビジョンを見せてあげないっていうのかな。そこを見せてあげたら、子どもたちはどんどん(自分たちで)やるようになると思うんですけど。

 

中原:その先の世界とか。

 

上野山:先のね。自分が目標としている、人生の中の目標に対して「あっ、一歩近づいた」というふうに見られれば、どんどんどんどん活性化していくと思うんですけどね。

 

中原:なるほど、分かりました。
別に宣伝じゃないんですけども……

 

上野山:(笑)

 

中原:僕、本当にこの本、めちゃくちゃ感銘受けました。
『日本のメッシの育て方』っていう本ですけれども、きょう出てきたようなお話も随分語られてると思うので、ぜひ読んでみて下さい。きょうはどうもありがとうございました。

 

上野山:どうもありがとうございました。

 

(了)

  • 取材

    中原 淳

  • 撮影

    松尾 駿

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