マナビラボ

第1回

2015.12.16

“KENDAMA”で世界を拓く!

山手響介さん(広島県・高校3年生)

挑戦できる楽しさ

 山手響介さん(高校3年生(2015年7月18日取材当時))がけん玉に出会ったのは小学1年生のとき。授業で触れたのがきっかけだった。そこから、すすめられた大会に出場したことで、けん玉にのめりこんだ。小学校6年生の時には全国大会で2位。大会で勝つことに喜びを感じていたという。
しかし、そこから数年間はけん玉を離れてしまう。決められたシンプルな技をミスなく成功させることがなにより求められるそれまでの大会に、楽しみを見いだしにくくなっていた。「ミスをしたとしてもレベルの高いことに挑戦するのが好き」だと、山手さんは言う。

 

ワールドカップ・友達・ステージ

 けん玉を通して、学校とは別に出会った仲間と様々な話をすることが、生活にもよい影響を与えている。山手さんが今感じているけん玉の楽しさは、かつてのように大会で好成績を収めることだけではない。好成績を収めることはもちろんだが、仲間との交流も含めて、けん玉に関わっている最中、練習の過程すべてが楽しい。
そんなとき、インターネットで偶然にけん玉ワールドカップのことを目にした。ハイレベルなトリックの数々もさることながら、海外の人たちが楽しんでけん玉をプレイする様子に心惹かれた。そして、再びけん玉を手にする。基本的には家で練習し、月に一回は友人たちと練習会を開く。特に、なかなかコツがつかめないとき、できることができなくなったときに、ともに練習をする友人と、互いに技を見せ合うこと、アドバイスし合うことが、行き詰まりを打開する際に大きな役割を果たす。

 

世界を見据えて

それでも、やはり「舞台の上は特別」。練習を積み重ねて、狙ってきた技が決まったとき。練習通りの成果を出せたとき。それだけではなく、うまくいかずに「あの技を決めておけば……」という反省さえも含めて、次につながり、また舞台に立ちたくなる。舞台上では緊張もする。しかし、自分の演技で盛り上がるとうれしいし、気持ちいい。自由な演技をすることができるフリースタイルでは、新しい技も披露して観客を沸かせてくれた。

 

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年々、世界のけん玉のレベルは高くなっている。今年のワールドカップでは、数点の差で決勝進出を逃した。それでも、「予選で、やりたい技ができた。来年は、(昨年順位の)12位を超えて上位入賞を狙います」と前を向く。けん玉で世界と戦うことは、山手さんにとってどのような意味を持っているのか聞いてみると、「世界は、自分の知らないことがたくさんあるところ」と答えてくれた。「世界で順位がつくと、励みにもなる。一生誇れるものになります」。
今年は受験の年でもある。将来は、電子工学関係の仕事を目指している。けん玉と仕事のどちらも楽しめる生活が送れるように、より高みを目指すために、大学でもけん玉を続けるつもりだ。山手さんは、世界への扉をけん玉で開いた。その扉から広がる未来を、まっすぐに見据えている。

 

進化を続ける“KENDAMA”

 けん玉、というと、多くの人が手にしたことがあるだろう。ひもでつながる球と剣を使う遊びである。そのイメージは、比較的「地味」なものではないだろうか。
ところが、今のけん玉は私たちの予想をまったく覆す激しいスポーツとして行われ、昨年からワールドカップが開催されるほどに世界中で人気を博している。アップテンポな音楽と観客の歓声がこだまする会場で、ステージ上の空間いっぱいに広がるトリックの数々は、ストリートダンスの大会を観ているようでもあった。今大会では、トリックは10段階にレベル分けされており、各レベルにつき10のトリックが指定されている。その中から選手が任意に選んでプレイする。レベルが上がるにつれて複数の技を組み合わせたコンビネーションとなっていき、一つ一つのトリックは技というよりも表現である。トリックの組み合わせによって、さらに表現の自由度は高まる。
ワールドカップで活躍するけん玉プレーヤーは、若者が多い。けん玉を始めて数年でワールドカップ入賞も可能である。日本のプレーヤーは早くけん玉に出会うことが多いが、大学生や中学生に比べて、高校生は結果を残しにくい。勉強や部活などで、けん玉に費やす時間が限られてしまうからだ。そのような中でも、山手響介さんは昨年、今年とワールドカップ開催当初から出場し、世界の舞台で活躍している。昨年度大会では日本人高校生最高位の12位に入賞した。

 

試行錯誤と創造の契機として

 山手さんは、新しいことに対する挑戦が大幅に許容されているけん玉に惹かれた。自由な挑戦によって新しいことを生み出し続けることこそが、けん玉による学びの可能性を大きく拓いている。山手さんは、友人との練習会の中で、オリジナルの技や新しい技へのきっかけをつかむことが多いという。今大会のフリースタイルで披露してくれたオリジナルの新技は、「他の人がやっていた技からひらめいて」誕生した。ひらめきを得ると、そこからは試行錯誤である。個人練習では、自分で考えたり、動画を撮影して繰り返し見るなどの研究を行う。そして、友人と練習するときには友人を見たり、アドバイスし合うなどして完成度を高めていく。けん玉がシンプルであることが、試行錯誤による創造を可能にしている。
仲間での練習会は、けん玉について以上のことももたらしてくれる。学校の勉強や生活に関することについても積極的に意見を交換し、学業や日常生活に限らず幅の広いコミュニケーションをとる。「けん玉で学校とは別に出会ったメンバーとけん玉の話だけではなく、勉強の話などもできる」と、山手さんは教えてくれた。というのは、同世代の仲間だけでなく、大学生も練習会に参加しているためでもある。学校での学びをとらえ直す機会として、けん玉を通じたコミュニケーションがある。
「一つでも趣味や自慢できることを持つと見えてくる世界も広がる」。興味を持ったことや好きなことに打ち込むことが、挑戦へとつながる。新しいことへの積極的な挑戦は、試行錯誤による創造だけでなく、友人同士での協働による学びを可能にする。 山手さんは、そのことを体現している。

  • 取材

    堤 ひろゆき

  • 撮影

    松尾 駿

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