マナビラボ

第10回

2016.03.30

グローバルな視点でゆさぶる
自分の前提
−自己評価を通じて将来像を描く− 【後編】

広島県広島市に所在する広島女学院高等学校(以下、広島女学院高校)で教鞭をとる地歴公民科教諭の安宅弘展(あたぎ ひろのぶ)先生。2015年10月2日に、SGH指定を受けて実施している「Peace Studies」の授業を見学する前に、インタビューにも答えていただいた。

 

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−−今日の授業はどのような授業ですか

安宅先生:「核兵器を廃絶できるかどうかについて、ゲーム理論から考える」ことをテーマにしています。まず、人間観や世界観についての事前資料を読んだ上で交渉を含むゲームをします。ついで、生徒の感想を共有しつつ、現実の核軍縮の流れの中で国家ができるだけ有利な立場に立とうとするとどのような選択肢を取るだろうか、と考えるものです。今日は、外部講師のIGS福原正大さんに中心となっていただいて授業を展開します。

福原さん:広島で核について考えないことはありえません。生徒たちは、核について根本的な嫌悪感を抱いているのですが、かえってそこに触れるとワークできなくなってしまうことになります。あえて、反対の考えがあるということを通じて、人間の本性について考えてもらうことが最大の目的です。ゲームを通じて、自分自身の葛藤として考えてもらいたいです。

 

−−どのようなきっかけでアクティブラーニングを取り入れたのですか

安宅先生:2007年ごろに、授業のあり方を変えていかないといけないのではないかという認識が、本校の教師の間で広まっていました。もともと進学先などは生徒に任せていたのですが、生徒からも難関大学への進学に合わせた指導を求める声が上がり始めたこともきっかけの一つです。難関大学進学に向けた指導を開始したものの、いわゆる詰め込む形式での指導では限界も感じました。特に、内向き志向、個々の知識の結びつきを考える論理的思考力がない、主体性がないという3つの課題が浮かび上がったのですが、これを打破したのがグローバル教育の波への対応でした。SGH指定校への申請にかかわっていたのですが、教える授業から学び合う授業へ、各教科でできるところからはじめられるように、と。申請のきっかけが、福原さんに出会ったことと、3つの課題に直面したことでした。

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−−具体的に現在こだわっていることはありますか。

安宅先生:身につけてほしい力、目標を生徒に伝えていくことには力を入れています。個々の生徒と面接をしたり、自己評価やその理由を聞いたり、といったことも行っていますが、ルーブリックを作成して配布していることもその一つです。大学の先生に話を聞きに行ったり、本を読んだりして、ルーブリックでは「リーダーシップ、英語力、平和観、論理的思考力、貢献」の5つの項目を明示し、生徒が自己評価を通じて意識できるように工夫しています。今回の授業では、今の自分のレベルからもう一つ上げていくことが目的です。また、普段の授業では、授業の前に「今日は◯◯◯の力をつけよう」など、「こうなってもらいたい」ということをわかりやすく示すようにしています。

 

−−外部講師を積極的に活用しているように感じます。

安宅先生:実は、最近までは定期的に授業にはいっていただく外部講師はいませんでした。そのような人材にアクセスする方法が限られていますし、人材バンクのようなものもありませんから。個々の先生の人的ネットワークによっているところが大きいです。福原さんもそうした個人のネットワークからお願いすることができました。

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−−外部講師を導入するまでのハードルはありましたか。

安宅先生:SGH指定校への申請もあり、仕事が減ることはなくてむしろ増えました。教員に、外部講師についての人的資源や個人のネットワークはありましたが、それを実現させるためのノウハウに乏しかった。草の根の動きを積み重ねて、少しずつ実現していきました。

福原さん:グローバル教育の推進を学校全体のものとして進めていました。管理職がリーダーシップを発揮していたことも、入りやすかったことにつながったと思います。ただ、最初の頃の授業は難しかったです。大学で教える・議論する感覚は持っていますが、高校生に対しては手探りでした。リーダーシップをとっていた生徒がまとめてくれたので、軌道に乗りました。

 

−−普段の「Global Issues」の授業を安宅先生が行うときは、どのようなことに配慮しているのですか

安宅先生:ヒントはあるけど、答えはないという、ちょうどいい塩梅の内容を作っています。なかなか一般にはないので、個々の授業にちょうど合うものを毎回手作りしています。今までこういった教材を作ったことがないということもあり、そこにはものすごく労力がかかります。事前の準備もそうですが、その場での対応もあります。

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−−実際に授業をやってみていかがですか。

安宅先生:私が50分話しているよりも積極的です。喧々諤々、よく議論している姿には、少し驚きました。
良きファシリテーターになるにはどうすればいいのか、試行錯誤しながら進んでいるところです。授業の中では、振り返りが一番大事です。「この時間の学びを振り返ってみよう」ということで、最後に、自分たちがどういう議論をしたのか、深まったところや深められなかったところを振り返ります。授業の課題と成長をメタ認知させたい。ファシリテートすることについては、生徒たち自身ファシリテーションできるようになってほしい。なので、どうすれば議論が活性化するのか、グループ全体に寄与することを考えようと伝えています。自分の成長イメージをつけさせたい。

福原さん:生徒が楽しんでいると感じます。やらされている感じはまったくないですね。全員が頭を動かしているか、考え続けているか。全体を見ながらその点に意識を払っています。一方で、「考えているのに発言しないのは、ここにいないのと一緒だよ」、と積極的な発言も促していきます。毎回の議論は水物。議論してみてどうなるかはケースバイケースです。ポイントをどうおさえていくかが大切です。

 

−−解説の時間が減ってしまいますが

安宅先生:整理した知識を入れるためには、「チョーク&トーク」(講義形式)でも授業します。理解力などをつけたいならアクティブラーニングを行います。倍の時間をかけて、知識の定着は半分くらいという感じですが、知識をつけたいという動機を持つ方が重要だと考えています。解説したからといって定着するわけではないです。しかし、受験科目ではないからできる、ということもあります。受験対策となると、どうしてもアクティブラーニング色が弱くなります。

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−−生徒は変わりましたか。

安宅先生:人前で意見を言うことに慣れてきていると思います。議論の中でちょっとした発言から世界が広がるということもあります。答えるだけではなく、問いを探したり作ったりすることが必要であると感じています。
最初に評価のポイントを示していること、参加を重視していることもうまく働いているのかなと思います。生徒も期待されればそれに応えたいという思いはあります。評価基準を示さないのは、アンフェアかもしれないと感じました。そのため、期待を明示した方が生徒にとっても期待に応えやすい。こうなってほしいという姿、目標は、SGH指定校に申請するときにかなり練り上げました。今現在の生徒は、その中のどこに位置付くのか。そこで、こうなってほしいという姿やそのための評価基準を明示することを行っています。生徒は周囲を気にしすぎるという状況に陥る傾向もあります。それが、発言することはかっこいい、という風潮になってきました。そこは、大きな変化だと思います。

 

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広島女学院高等学校は、広島市の中心部にほど近く所在する私立の女子高等学校である。1886年創立以来、キリスト教主義教育を行い、「のびやかに、しなやかに、世界へ。」をモットーとして教育活動を行っている。

 

IGS
学校へのグローバル人材教育支援を行っている。
http://i-globalsociety.com/

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